
何かを学び、やがてある程度できるようになったり、一気に覚えられたりしても、その過程で成長が一時的に止まることがあるという。しかし、この停滞を打破するために、わざと焦る状況を作る勉強法もまたあるらしい。
司法試験をはじめとする法律資格受験指導校「伊藤塾」を主宰し、40年以上にわたって、法律家や公務員を目指す人たちや法律の世界で活躍する人たちと関わってきた伊藤真さんが、生徒たちに実践している裏技がそれだ。
『大事なことだけ覚える技術』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けします。
脳が充分だと判断して、上達が止まってしまう状態「プラトー」
「プラトー」と呼ばれる状態があります。プラトーとは〝高原〟の意味で、学習する過程で、進歩が足踏みする状態をいいます。
何かを覚えるときに、ある程度は一気に覚えられても、そのあと一時停滞する段階がありますよね。あの状態を指します。
たしかに、何かがある程度できるようになると、そこでいったん停滞することは、私も実感としてあります。
ある技術や知識を習得して、脳がそれを覚えてしまうと、あとは意識しなくても自動的にその動きや記憶を再現できます。
箸を使ったり、自転車に乗ったり、泳いだりするのがそうでしょう。
そしてもうそれ以上意識することがなくなると、脳が充分だと判断して、上達が止まってしまうのではないでしょうか。
ごく身近なところでも思い浮かぶことがあります。たとえばそれは、パソコンのタイピングのスピードです。
40年ほど前、パソコンが出はじめたころ、私は「かな入力」を使っていました。
そのほうが速いと思っていたからです。
しかしその後、アルファベットを使う機会も増えてきたので、「ローマ字入力」に切り換えようと、一念発起してタイピングの練習をしました。懸命に練習していたら、そこそこ速くなって、ブラインドタッチでも打てるようになりました。
あえて失敗するようにする
でも、それ以上はスピードが速くなりませんでした。
ずっと仕事でパソコンを使っているから、相当入力しているはずですが、いまに至るまで速くなった印象はありません。
この経験から考えると、能力が一定レベルまで達してしまうと、もうそれ以上意識しないから、脳は活性化せず、ただ指だけが自動的に動いているということになります。そうなると上達しません。プラトー状態になっていると考えられます。
この状態から脱するためには、つまりもう一段高みに登るためには、どうすればよいのでしょうか。
ある心理学者が、さまざまな分野のトップについて調べたところ、彼らはこのプラトー状態を意識的に脱していたといいます(参考『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由(わけ)』ジョシュア・フォア著、梶浦真美訳、エクスナレッジ刊)。
フィギュアスケートの一流選手と、そうでない選手の練習の違いが興味深いです。
一流選手は、失敗しやすいジャンプの練習に時間を割きますが、そうでない選手は成功したジャンプをより磨くために時間を使うというのです。
ここで重要なのは、上達するには自分の「失敗」に注目しなければいけないということです。
これは勉強でも、技術の習得でも、記憶においても同じです。失敗を正していくことが黄金の鍵となります。
失敗しないのであれば、意識的に「失敗するような状況」をつくってしまえばよいのです。
たとえば私が、パソコンのタイピングをいま以上に上達させたいとします。そのときは意識的にタイピングのスピードを上げてしまえばよいわけです。
プラトーからの脱出法
当然、打ち間違えます。
すると、間違ったところの指の動きが苦手だということなので、そこを集中的に練習すればよいということがわかります。
この方法を応用して、塾生には「弱点を明らかにする方法」としてこんな勉強法をすすめています。
問題を解くときに、1時間で10問解く問題があったら、それを40分で解いてみるのです。時間を短くして、わざと焦る状況をつくるわけです。
すると、どうなるか。必ず間違えます。
10問をゆっくり解けば満点の人が、焦ると8問しか解けません。
間違った2問が自分にとっての弱点です。焦ったときや、プレッシャーのかかる場面で間違えやすい問題だということですから。
つまり、そこを補強すれば、さらに成長できるわけです。
負荷をかけることによって、できるところとできないところの差が明らかになってきます。負荷がかかると焦ってできないのは、記憶が自分の血肉として定着していない証拠です。
だから自分の記憶を上達させようと思ったら、あえて負荷をかけて焦る状況をつくってみるとよいのです。そして間違えたところに着目し、そこをくり返し練習します。
こうすることで、プラトー状態を突破していきます。
失敗はおそれるに足りません。
むしろ失敗は宝物なのです。
写真はすべてイメージです 写真/Shutterstock
大事なことだけ覚える技術
伊藤真
1%の大事なことだけ覚えて、
99%は忘れちゃってOK
テストに挑むための「記憶」。
仕事をうまくいかせるための「記憶」。
日々を前向きに生きるための「記憶」。
過去を懐かしむための「記憶」。
人生には「記憶」を必要とするときが
しばしばやってきますが、
本当に覚えておくべきことは
ほんのひとにぎりの「大事なこと」だけです。
本書は、
「これだけはしっかり覚えておきたい」
ということだけを
確実に記憶できる方法を
ご紹介しています。
●記憶を定着させるのは「経験」
学生時代の授業中、
ノートをとった人はよく覚え、
それを借りた人は覚えが悪い。
勉強したのは同じノートなのに、
なぜこんな差がつくのだろう……。
そんなことを感じたことはないでしょうか?
この差を生むのは、書くという
「経験」をしているかどうかです。
お気に入りのノートを開き、
少しざらついた質感の紙に、
自分のペンで、自分独自の文字で、
ゆっくりと、書いていく。
このプロセスを通して、
それらの映像が脳に焼き付き、
記憶として定着していきます。
このように「経験」は記憶を強化します。
一方、借りたノートを見るだけの人は、
ノートを書くという「経験」をしていないため、
記憶の定着率が極端に落ちてしまいます。
この本には、
そんな「経験」をうまく活用した
10の記憶テクニックが書かれています。
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1、まず「全体像」から把握する
2、復習は1時間以内にする
3、「おさらい→新規」を繰り返す
4、マーカーではなく、色鉛筆を使う
5、スローモーションのようにゆっくり書く
6、B6カードに論点を書き出す
7、カンニングペーパーをつくる
8、耳から覚える
9、音読で「目」と「耳」のダブル効果を狙う
10、自分で自分に講義する
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この本でご紹介するのは、
・大事な勉強
・大事なアイデア
・大事な人
・大事な思い出
これらの大事なことだけを
覚えておく画期的な技術。
勉強や、仕事や、暮らしに使える
実践的な“戦略書”でもありますので
ぜひ読んでみてください。
【本書の目次】
第1章 覚えたいことだけ覚える技術
第2章 頭に焼き付ける10のテクニック
第3章 記憶力がアップする7つの習慣
第4章 いい丸暗記、悪い丸暗記
第5章 人生をラクにする「忘れる力」