
勉強や仕事をはじめ、人生には「記憶」を必要とするシーンがしばしばやってくる。だが、本当に覚えておくべきことは、ほんのひとにぎりの「大事なこと」といっていい。
法律資格受験指導校「伊藤塾」を主宰し、40年以上にわたって、法律の世界で活躍する人たちと関わってきた伊藤真さんが、「これだけはしっかり覚えておきたい」ということだけを確実に記憶できる方法に迫った『大事なことだけ覚える技術』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
ストレスを「よい記憶」に上書きする
楽しんで妄想すると、よく覚えられます。
対象が好きだと、強く印象に残ります。
逆に言うと、対象に興味がなければ、覚えられません。
そんなことを考えていたときに、脳の海馬の研究をしている薬学博士の池谷裕二氏が書かれた『記憶力を強くする』(講談社刊)で「ストレスは記憶力の天敵」という記述に出合いました。
ストレスがあると記憶力は低下し、ストレスが軽減されると記憶力は上がるといいます。
言い方を換えると、記憶力が高ければストレスを抑え込めますが、記憶力が低いとストレスを強く感じてしまいます。ストレスと記憶力は互いに〝犬猿の仲〟にあるわけです。
ストレスはそれに慣れることによってストレスでなくなりますが、この「ストレスに慣れる」という状態が、まさに「ストレスに慣れたという状態を脳が記憶すること」にほかなりません。
ストレスを記憶から消す方法
たとえば、新しい会社に転職したり、学校を転校したりしたとします。
もし周りが知らない人ばかりだったらどうでしょう?最初はストレスを強く感じるに違いありません。
ところが、だんだん環境に慣れてくると、ストレスが減ってきます。
会社やクラスにいる人たちは変わらないし、環境そのものは変化していないのに、自分が感じるストレスは減少します。
これはいまの環境をストレスに感じる必要はない、と脳が記憶したからです。その記憶がストレスを抑え込んだといえます。
この説明に私はうれしくなりました。なぜならこれでストレスをコントロールし、記憶力を高める科学的な方法が見つかったと思ったからです。
仮に何らかのストレスを抱えていたとします。
それが大変だとか、マイナスだとか、いつまでも毛嫌いしていると、記憶力が落ちるだけでなく、ストレスもいっこうになくなりません。
しかし「もう自分はストレスに慣れたんだ」と意識して、そういう記憶を脳につくり出してしまえば、ストレスは克服できます。
自分がストレスだと感じているこの環境は、もはやストレスではありません。
もう慣れたのだ、と言い聞かせればいいわけです。そして「慣れた」という記憶をつくってしまいます。
この方法は他にも応用できます。
たとえば、過去に苦い記憶があったとしましょう。
ならば、これはもうストレスではない、と思い込んでしまうのです。
過去にこういう経験はあったかもしれないが、そこから自分はこんなことを学びとって、それは自分にとってプラスの出来事だった、というように記憶をよい意味に書き換えるわけです。
人は、好きなものは自然に覚える
それがしっかり定着できれば、ストレスとしての記憶はなくなり、よりよい記憶に上書きされます。
つまりストレスを力に変えることができますし、そのストレスを感じないように意識してコントロールすることが可能だということです。
このように記憶のメカニズムを理解することで、ストレスに負けない脳と記憶力をつくることができるのです。
私の知り合いの弁護士に、驚異的な記憶力の持ち主がいました。
記憶力といっても、彼の場合、法律に対してではありません。彼の記憶力がすごいのは、高校野球のスコアに対してでした。
「○年の○○高校と○○商業の戦いは、○回戦は○対○で、○回の裏のスコアはこうだった」ということを、すべてそらで言えるのです。
受験指導していた当時だけでなく、その後、弁護士になったあともスラスラ言えていましたから、高校野球に関する彼の記憶力は、本当に天才的でした。
それほどの記憶力の持ち主なのに、司法試験に1回で合格したわけではありませんでした。
人は、本当に好きなものは、自然に覚えてしまいます。
彼の場合、こういってはなんですが、高校野球のほうが法律より興味が強かったのでしょう。
もし、あなたが記憶力の悪さに悩んでいるとしたら、それは対象に対してあまり関心がないからかもしれません。
勉強してもなかなか覚えられないのは、その内容に興味がないからです。
こうすれば勉強は楽しくなる
仕事の面ではとってもきちんとしている人が、暮らしのことになるとまるで何も覚えていないというケースがありますよね。
つまり、毎日の暮らしにあまり関心がないわけです。これは、まったく悪いことではありません。
興味があることと、ないことがあるのは当たり前です。
記憶はそれに紐づいていて、興味があることはいくらでも覚えられるし、興味がないことはいくらやっても覚えられません。
人は、無意識のうちに「覚えたいこと」と「忘れていいこと」を区別しているのかもしれませんね。
記憶力が悪いからといって、そのことだけを気にする必要はありません。
自分が忘れっぽいと思ったら、なぜ忘れるのか、何を忘れるのか、その対象を一度考えてみるとよいでしょう。
もしかしたら、自分が本当に好きなものに関しては、忘れずに覚えていられるのかもしれません。
だから何かのきっかけで興味がもてるものが出てきたら、そこにとことん集中すればよいのです。
もしどうしても勉強をやらなければいけなくて、そこには興味がもてないのなら、興味がもてるような要素を勉強の中に見いだす努力をしてみたらどうでしょうか。
ゲームのキャラクターになぞらえて記憶する。小説が好きな人なら物語仕立てで組み立て直す。好きなテーマごとに切り出して覚える。
こうして勉強を自分の興味のある対象に変換してしまえば、こっちのものです。
昔から「好きこそ、ものの上手なれ」と言われますが、これは記憶についても言えるのです。
好きこそ、ものの記憶なれ。
写真はすべてイメージです 写真/Shutterstock
大事なことだけ覚える技術
伊藤真
1%の大事なことだけ覚えて、
99%は忘れちゃってOK
テストに挑むための「記憶」。
仕事をうまくいかせるための「記憶」。
日々を前向きに生きるための「記憶」。
過去を懐かしむための「記憶」。
人生には「記憶」を必要とするときが
しばしばやってきますが、
本当に覚えておくべきことは
ほんのひとにぎりの「大事なこと」だけです。
本書は、
「これだけはしっかり覚えておきたい」
ということだけを
確実に記憶できる方法を
ご紹介しています。
●記憶を定着させるのは「経験」
学生時代の授業中、
ノートをとった人はよく覚え、
それを借りた人は覚えが悪い。
勉強したのは同じノートなのに、
なぜこんな差がつくのだろう……。
そんなことを感じたことはないでしょうか?
この差を生むのは、書くという
「経験」をしているかどうかです。
お気に入りのノートを開き、
少しざらついた質感の紙に、
自分のペンで、自分独自の文字で、
ゆっくりと、書いていく。
このプロセスを通して、
それらの映像が脳に焼き付き、
記憶として定着していきます。
このように「経験」は記憶を強化します。
一方、借りたノートを見るだけの人は、
ノートを書くという「経験」をしていないため、
記憶の定着率が極端に落ちてしまいます。
この本には、
そんな「経験」をうまく活用した
10の記憶テクニックが書かれています。
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1、まず「全体像」から把握する
2、復習は1時間以内にする
3、「おさらい→新規」を繰り返す
4、マーカーではなく、色鉛筆を使う
5、スローモーションのようにゆっくり書く
6、B6カードに論点を書き出す
7、カンニングペーパーをつくる
8、耳から覚える
9、音読で「目」と「耳」のダブル効果を狙う
10、自分で自分に講義する
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この本でご紹介するのは、
・大事な勉強
・大事なアイデア
・大事な人
・大事な思い出
これらの大事なことだけを
覚えておく画期的な技術。
勉強や、仕事や、暮らしに使える
実践的な“戦略書”でもありますので
ぜひ読んでみてください。
【本書の目次】
第1章 覚えたいことだけ覚える技術
第2章 頭に焼き付ける10のテクニック
第3章 記憶力がアップする7つの習慣
第4章 いい丸暗記、悪い丸暗記
第5章 人生をラクにする「忘れる力」