ラーメン店の「鶏チャーシュー」で集団食中毒…保健所が定めるあいまいな「半生」の基準とカンピロバクターの怖すぎる脅威
ラーメン店の「鶏チャーシュー」で集団食中毒…保健所が定めるあいまいな「半生」の基準とカンピロバクターの怖すぎる脅威

6月5日、とあるXユーザーが、数日前に行った神戸市のラーメン店の極めて生に近いチャーシューを食して以降、体調不良を起こしていると投稿した。同投稿に添付されたラーメンの写真には、半生とも言える薄ピンク色の鶏肉と見られるチャーシューが複数枚乗せられていた。

 

半生の鶏チャーシューで食中毒か 

同投稿は瞬く間に拡散され、同時間帯に同じラーメンを食べた複数人が、体調不良であると訴えていた。その後、胃腸炎の最も一般的な原因といわれる『カンピロバクター』、『低温調理』、『鶏チャーシュー』など、関連ワードがXで多数トレンド入りし、さまざまな声が寄せられていた。

神戸市は6月7日、保健所の立ち入り調査の結果、同ラーメン店で食中毒が起きたとして、3日間の営業停止を命じたと発表した。通報があった8グループ16名のうち調査のできた7グループ8名が、下痢、発熱、頭痛、関節痛等の症状を呈しており、原因食事は「加熱不十分な鶏チャーシューを含む食事」だとされた。

主な喫食内容は「加熱不十分な鶏チャーシューがのった鴨出汁ラーメン、貝出汁ラーメン」だった。

過去にも同じように半生チャーシューを提供していたラーメン店が食中毒トラブルを起こし、保健所から指導されたのち、閉店したこともある。そのため、鶏の『低温調理』、『半生での提供』の危険性についての情報もX上で拡散されている。

厚生労働省の公式サイトには、鶏の生肉からカンピロバクターを摂取し、食中毒に罹患してしまった場合、主要症状は、『下痢、腹痛、発熱、頭痛、おう吐、吐き気』だと記載されている。また、死亡例や重篤例はまれだが、乳幼児・高齢者、免疫力の弱い人は重症化する危険性もあるという。

さらに、「カンピロバクターに感染した数週間後に、手足の麻痺や顔面神経麻痺、呼吸困難などを起こす『ギラン・バレー症候群』を発症する場合がある」とも記載されており、一口に「食中毒」と言っても、あなどることはできない。

そこで、生で食べる鶏肉について、厚生労働省食品監視安全課に話を聞いた。

――ラーメン店などで出される『半生の鶏チャーシュー』や居酒屋で提供される『鳥刺し』など、飲食店での鶏の生肉の取り扱いに関して明確な基準はあるのでしょうか。

厚生労働省食品監視安全課(以下同) 明確な基準はなく、鶏肉を生で提供することは法律違反ではありません。

ですので、提供している事実をもって『あなた法律違反ですよ』と取り締まることはできない。

ただ食中毒のような症状が出た方が、保健所やお医者さんに相談なさって、保健所の方で調査がなされて、その飲食店の食品によって食中毒が引き起こされたと断定されれば、保健所から適切な指導がなされると思います。

――食中毒は暖かくなると起きやすいのでしょうか。

一般的には、気温が高い時期に長時間放置された飲食物は、食中毒が起きやすいということがあります。厚生労働省の『食中毒』に関するページに『テイクアウト・デリバリーにおける食中毒予防』として、『テイクアウトやデリバリーでは、調理してからお客さんが食べるまでの時間が長く、気温の高い時期は、特に食中毒のリスクが高まります』と注意喚起させていただいております。

国として鶏肉の生での提供について法で取り締まっていないが、九州の一部地域では、「鳥刺し」など生で食する文化があり、県の条例で衛生管理基準がある。そこで、鹿児島県庁生活衛生課にも話を聞いた。 

食中毒かも?と思ったら

――鹿児島に生で鶏肉を提供する鳥刺しについて、基準もしくはルールはあるのでしょうか。

鹿児島県庁生活衛生課 鹿児島県公式ホームページの「生食用食鳥肉の衛生基準」にも衛生管理基準の詳細が載っていますが、サルモネラ、カンピロバクター、ブドウ球菌などが陰性であること、しっかりと食鳥検査をすること、洗浄・殺菌・温度管理の方法、食鳥肉を生食用として販売する場合の食品表示基準などが設けられています。

法律で決められたものではないため罰則はありませんが、目標であり、こういう取り扱いをしようというものになります。食中毒が出た場合には、保健所の調査などしかるべき対応を致します。

実際に今回食中毒を起こし、3日間の営業停止処分となったラーメン店を管轄する神戸市食品衛生課にも、食中毒にかかった場合の対処方法を尋ねた。



――消費者が食中毒かも? と思った場合は、どのように対処するべきでしょうか。

神戸市食品衛生課(以下同) 食中毒に罹ってしまったということであれば、最寄りの保健所に連絡いただくというのが、まず最初に行なってほしいことです。そこから担当所管に申し送りをさせていただきまして、担当者から折り返しご連絡ということになります。

飲食店の提供した食品が食中毒の原因と判断されれば調査が入って、指導が入ることがあります。ただ、地域によっては保健所の対応が変わることもありますので、ご相談ください。

――神戸市では飲食店での鶏肉の生肉の取り扱いに関して明確な基準はあるのでしょうか。

牛肉のレバーや豚肉については明確な基準があるのですが、鶏肉については加熱不十分で提供することが禁止という規制はありません。けれども、加熱不十分の鶏肉によって身体異常が起きて、原因物質として確定した場合には、その店舗は食品衛生法上の法違反で罰則の対象になります。今回は、3日間の営業停止処分とさせていただいております。

生または加熱不十分の鶏肉を出したという行為自体は、法律で禁止されてませんが、カンピロバクターの危険性があるので、生や加熱不十分な鶏肉は提供、実食するのはやめてくださいねという啓発は日ごろからさせていただいております。

今回の罰則については、法令として食品衛生法の第6条第3号に規定があるように、「病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり、人の健康を損なうおそれがあるもの」の調理販売というのに違反したということで、営業停止処分とさせていただきました。

――生または加熱不十分の鶏肉で食中毒を起こしてしまったら罰則ということですが、牛肉のレバーや豚肉についての基準に対して、鶏肉は事前には基準が分かりづらいように感じます。


そうですね、仰る通りです。例えば九州の鹿児島県や宮崎県では鶏を生で食する「鳥刺し」、「鳥のたたき」などが、その地場で有名な産業になっていると思うのですが、そこでは鶏肉の処理の仕方の取り決めがあると思います。

ただ、全国的には、鶏は加熱不十分で出してはいけないという法令がないんです…。神戸市の方でも鶏の処理基準も設定はしていません。加熱不十分な鶏は出さないでください、食べないでください、という周知・啓発を一生懸命行なっているところではありますが、何か条例などで定めているということはありません。

――他県の事例も含め、過去に食中毒が起きているにもかかわらずなぜ鶏肉は基準が無いのでしょうか。

そこはいろいろな自治体の方からも国の方に要望を出している状態です。やはり鹿児島県のように地場の産業としてやられている地域もありますので、一律に禁止をするということには至っていないのが現状なのかなというのが私見ではあります。

神戸市としては「中心部の色が十分に変わるまで、75℃以上で一分半以上過熱をして提供して下さいね」という指導は実施しています。神戸市のホームページでも、食中毒予防として加熱不十分な鶏肉は食さないようにとの記載はしています。

――今回3日間の営業停止処分というのは妥当なのでしょうか。

この営業停止は、施設の清掃ですとか、衛生管理についての教育ですとか、今後営業するにあたって適切な飲食物を出していただくための指導をする期間ということで、3日間と設定しております。


製造方法についても確認しまして、ちゃんと中心部まで加熱しているかの確認・指導はさせていただいております。

生の鶏肉の提供が法律で禁止されていない以上、飲食店で提供された場合、それを食するか否かは消費者自らが判断する必要がある。

万一、食中毒と疑われる症状が出た場合には、直ちに病院や保健所に相談するべきだろう。これからの暑い季節の食事にはいっそう注意を払う必要がある。

 取材・文/小島ゆう 

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