〈進次郎大臣のコメ政策〉「農協=悪だなんて絶対にない」「石破さんの5キロ3000円台というのは的を射ている」今年収穫ぶんが早くも“完売”も借金は1億円の大規模コメ農家が思うこと
〈進次郎大臣のコメ政策〉「農協=悪だなんて絶対にない」「石破さんの5キロ3000円台というのは的を射ている」今年収穫ぶんが早くも“完売”も借金は1億円の大規模コメ農家が思うこと

コメ価格異常高騰を抑制するカンフル剤として、小泉進次郎新農林水産大臣が打ち出した随意契約による備蓄米売り渡しが連日、ニュースをにぎわせている。6月5日からは大手コンビニエンスストアのローソンとファミリーマートでも備蓄米の販売が始まり、1キロに小分けされたコメの税込400円を切る価格に話題が集まった。

しかし、このとって出しの「古古古米」放出作戦が、半世紀以上後手に回り続けて今の体たらくを招いた農政の根本的解決につながるのか。再び現場のコメ農家(https://shueisha.online/articles/-/253242)に、率直な意見を聞いてみた。 

「コメができる以前の現状で完売しております」

栃木県さくら市で約25ヘクタールの大規模な「岡田農園」を運営している岡田伸幸代表にさまざまな疑問をぶつけてみた。まずはコメ価格の高騰が続く中、今年の新米の予約状況はどんなものか。

「通常『完売』というと物ができてきてそれが売り切れることを指すのですが、コメができる以前の現状で(この秋に収穫するぶんが)『完売』しております。業者から『面積でとれる分をすべて買う』とオーダーされ、契約しています。従前からそういう契約をしてくれる業者もあったのですが、今はどこもかしこもがそういう言い方をするようになりました。

だから個人のお客さんの分をどう確保していくかを考えています。例年と比べると個人客が2割、3割は増えた感覚があり、先日は近所の工場に勤めているベトナムの留学生の子たちが『運転免許を持っていないから車でコメを買いにいけなくて困っています』と訪ねてきました。

そういう事情なら転売目的ではないでしょうから『わかったよ。転売はしないんだね? 今の市場の価格を理解した上で買ってくれるならいいよ』と応じました。あとは古くからの個人のお客さんに『親戚の分も頼みたいんだけどいいかなあ』とお願いされる形も増えています。農協(JA)は逆にもう在庫もないだろうし売ってもらえないと思っているのか、ウチには来ていませんね」

農協の概算金(各農家からコメを集荷する際に払う前払い金)ベースは60キロ23000円~25000円と高騰が続いている。

岡田農園の販売価格はどの程度になりそうか。

「古くからのお客さんに関しては、昔は高く買ってくれてた部分もあるので、そこまで負担をかけないように工夫しています。肥料、農薬、機械などの物価が上がりすぎててウチもしかたなく値段を上げさせてもらいましたが、それでもスーパーの店頭価格よりはるかに安い価格でやっています。新規のかたに関しては相場、一般的な自主流通米の価格にあわせるという感じですね」

「小泉大臣の『この値段がおかしい』ということ事態がおかしい」

以前の取材では、コメ農家が利益を出すのには厳しい状況が続いてきたことをわかりやすく解説していただいたが、米価の高騰が続く今年はどうなのか。

「コメの価格がこのままなら間違いなく黒字にはなるでしょうね。ビジネスとしての話なら農家がやっていけなかったわけですから、今までが適正ではなかったんだと思います。

制度設計の問題ではなく、コメの流通は自由化されているわけですから。名ばかりと言う人もいますが自由化して実際に農協の言いなりにもならず、減反もせずにやってきたわけです。こうした完全自由化の中で、小泉大臣が『この値段はおかしい』と言い出すこと自体がおかしな話ですよ。だって自由化したのは政府ですからね。

とはいえ、われわれもスーパーの店頭の値段を見れば今の価格は高いと感じるし、石破さんの言う5キロ3000円台というのは的を射ていると思います。スーパーの小売りで3800円とか3900円くらいならコメ離れも起きないかなと思うし、農家も守れる価格のように思えます。

おそらく来年にはこのまま何もしなくても3000円台には落ち着いていると思いますよ。

飼料用米をやめるコメ農家もすごく増えてますし、その分が主食用に回ります。この流れが続けば3000円台には自動的に戻るはずです」

大規模コメ農家の経営は順調だろうか。

「当初は私1人でやっていたので農機具をそろえる費用がかさみ、それが積み重なっていって借金の総額も1億円以上になりました。その借金も今年ようやく1億円を切りましたが、また元通りになりそうです。

というのも1800万円で購入したコンバインが金属疲労で故障し、今年いっぱいもつかどうかなんです。農機具も最近は受注生産なので故障してすぐに次の機械というわけにもいかず、注文しても受取は1年後とかになります。農機具メーカーも在庫を抱えるだけで倉庫代がかかりますし、いきおい製造量が減っているという流れです。

大規模でやる以上、農機具が動かないせいで耕作できないとなれば死活問題ですから、今後は農機具もストックしておかないと怖いという時代になってきました。そういう意味ではさらにお金がかかるようになりますよね」

農家は売るノウハウを持たず、農協は持っている

米価高騰の原因を農協に転嫁する「農協悪玉論」が跋扈し、小泉農水相も盛んに農協改革論を唱える最近の風潮を、どう感じているのだろう。

「農協=悪なんてことは絶対にないです。新規就農者はたとえ農協に出荷しなくても無料で営農指導してもらえるんですよ。現に私がそうで、薬はこれ使った方がいいとか、本当にマメに教えてくれました。

そういう若い芽を育ててきた機関を潰したら、誰がその代わりをするんですか。

手数料が高いと批判する向きもありますが、民間企業が手数料とったらもっと高くなると思いますよ。もちろん農協に卸していただけの方は、作っても作っても利益が出ないどころかマイナスの人もいたでしょうから、それを恨んでいる方もいるかもしれません。

多くの農家は売るノウハウを持たず、農協はそのノウハウを持っている。そこの手数料が高いと反発する人はいますが、それが気に食わなければ民間業者に売ってしまえばいいんです。違約金があるわけではないんですから。逆に民間業者なら違約金とりますよね。

まあ、どっちの味方をするわけでもないけど、やっぱり地域の人が農協に勤めているので無下にはできないですよね。だから一部農協に出すとかね。昔から買ってくれていた個人のお客さんに値段を上げられないのと一緒で、繋がりという部分はあるんですよね。

そもそも農協は農家が出資して出来上がっている組織で、民間みたいに利益を追求しているわけではないので、必要不可欠なんです。たしかに過去には談合や癒着などあったし、腐敗している部分があるのも事実でしょう。

でも、なくす必要はない。腐った部分を是正して整えればいいんです」

安易な農協悪玉論に警鐘を鳴らす岡田代表は、農協解体論にも与する小泉進次郎新農水相の資質にも危機感を訴えた。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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