進次郎大臣になって”ヤバいなー”とタメ息をついた…「農協を民間にと言い出す危険性がある」大規模農家が抱えるコメ政策への不安「価格が上がって踏ん張れる農家もいた」
進次郎大臣になって”ヤバいなー”とタメ息をついた…「農協を民間にと言い出す危険性がある」大規模農家が抱えるコメ政策への不安「価格が上がって踏ん張れる農家もいた」

ついに大手コンビニでも発売が始まった備蓄米という名の古古古米。小泉進次郎農水相肝入りの「随意契約」による売り渡しが奏功したように映るが、長年辛酸をなめてきた現場のコメ農家はこの状況をどうとらえているのか。

前編に引き続き、栃木県さくら市で25ヘクタールの大規模農園を営む岡田伸幸さんに聞いてみた。 

「農家を見てるのか? それとも農産物を買ってくれるみんなを見てるのか?」

これまでの農水大臣とはスタンスを異にする小泉氏について、率直にどう評価しているか。

「コメが足りてないという部分を認めたのは良かったかもしれません。ただ、そもそもコメの流通に関して完全に自由化していたわけですから、政府が余計な首をつっこむなと思いますね。気持ちとしてはそういう思いなのですが、現実的には農家を生かすも殺すも、コメの値段を上げるも下げるも政府次第ですよね。今回のコメ騒動でそれも証明されてしまった。

個人的には…小泉さんはどうでしょうね。私も今『小泉さんと話させろ』とあちこち回っていますが、残念ながらまだお呼びはかかりませんね。もし会えたら『あなたは農水大臣ですよね? あなたの目的は何ですか? 農家を見てるのか? それとも農産物を買ってくれるみんなを見てるのか? あなたは今何を見ているんですか?』と問いたいです」

小泉氏の本当の狙いを計りかねるということか。

「表向きには国民のためと言っていますが、それが本音とは思えません。政府が旗振ってコメを自由化し、価格を上げてここまで持ってきてくれて農家は食べていけるようになったのに、いきなりそのハシゴを外そうとしているわけですから文句はありますよ。

政府が決めた自由化の市場にのっとって闘ってきた我々に対し、今度はコメが高いからと価格調整で介入するのはおかしな話でしょう。コメ離れが進むからというのは言い訳でしかないし、それなら最初から自由化するなと言いたいです。

備蓄米の随意契約についても、先に放出した備蓄米の方が高くなっちゃうから(政府は買い戻すような報道もありますけど)どうするのかなと首を傾げたくなります。精米していたら一般的な賞味期限としては1ヵ月ですが、この状況じゃ売れないじゃないですか。こういったフードロスのことを考えているのかとも思いますね」

「仮に企業が入って価格を決め始めたら、今より高くなりますよ」 

今スーパーに並んでいる古古米やコンビニで売り始めた古古古米についてはどう考えているのか。

「農協はなるべく食味を落とさないように新米と備蓄米を混ぜてブレンド米として売ろうとするなどしていたのに、小泉大臣はそういうのをはしょって古古米を出してきた。農協の努力をへし折るような行為だと思います。

単年度産で精米すれば誰でもスピードを持って出せるんですよ。新米に関しては影響ないでしょうけど、古古米が5キロ2000円程度になるとその前に放出した備蓄米はそれより高いわけですから普通に考えれば売れないでしょうね。古古米の適正価格としては醤油や味噌に使う加工米の価格設定だと思います。

一般的にはこれまでそんな古いおコメをわざわざ主食米として使う必要はなかったので『値段がつけば』という話になりますが、古古米なら5キロ1000円とか1500円くらいじゃないですかね。政府が価格調整して2000円で出しているんだとは思いますが、いずれにせよ本来安くなってしかるべきものなんですよ」

味についてはどうなのか。

「低温で保存していたわけですから、古古米も古古古米も新米と比べてちょっと食感が固くなるくらいで他は変わらないと思いますね。

私も保冷庫にうっかり忘れていた3年前のおコメを食べる機会がありましたけど、われわれはプロなので香りが違うなどわかりますが、一般の消費者がわかるレベルの変化かと言えばわからないと思います。コシヒカリが柔らかくて好きじゃないって人だったりすると逆に古古米の方が好きって人がいてもおかしくないと思いますよ」

小泉氏は自民党農林部会長だった2016年、農産物の販売をほぼ独占している全国農業協同組合連合会(JA全農)に対して販売手数料や流通構造の見直しを求めるなどして、JA側と対立。

協同組合として独占禁止法を免れていた全農を株式会社化して競争原理が働くようにするというのが小泉氏のロジックだったが、この時はJAの支援を受ける自民党農林族という“抵抗勢力”の反対で見送られた経緯がある。小泉氏が「捲土重来」を期して農協解体に切り込むと見る向きも多い。

「正直、小泉さんが大臣に決まって周囲の農家みんなで『はぁーヤバいなー』と溜息をついたくらいです。農協を民間にと言い出す危険性があると思わざるを得ない。党の農林部会長時代、農協を破壊しようとしましたから。農協に出荷もせず出資金も出してない人たちの集まりの中で、農協改革を叫んでいたわけで、農協の市場を奪いたかったんだと思います。

これが現実的に起こったら危ないどころの話じゃなくて、農家は潰れると思います。仮に企業が入って価格を決め始めたら、今より価格は高くなりますよ。コメの価格が高騰したこの2年でも私の収入は最低賃金を割っていて、昨年の時給を計算すると600円くらいです。『コメ農家の時給は10円』という報道がされたことがありましたけど、さすがにそこまで安いことはなくても、高騰化以前の時給は200円とか300円ぐらいのもんでしたよ。

もうちょっと上手にコスト削減すれば最低賃金割らずにできるかもしれませんが、そこはいい物を作ろうとすると省けないんですよね。私の周囲の農家は政府というより小泉さんひとりを危険因子と認識している状態ですね。

農協が潰れて農家がいなくなったら、技術の継承もできなくなって耕作放棄地の問題も拡大するでしょうし、今より状態は悪化すると思います。農協はテコ入れして中身を整理整頓してあげればいいだけなんですよ」

コメの価格が上がって「もうちょっと頑張ってみようかな」って… 

いずれにしても、国民の命をつなぐ食を支えてきた農家の苦境は続く。1億円という巨額の借金を抱えてコメを作り続ける岡田さんに、不安はないのか。

「とにかく馬車馬のように働いて返すしかない感覚なので、不安になっているヒマがないんですよ。農業で返せなくなったらアルバイトしてでも返すしかないんで。借金も最初は怖かったけど、1回借りられたら『借りられるんだ』と妙に自信がついて、それから必要に応じて借りてるうちに雪だるま式に増えたんですよ。

不思議なもので耕地が2ヘクタールの時は200万円を動かすのが怖かったのに、20ヘクタールになったら2000万円でも平気で動かすって感じになりました。周囲を見渡すと今年も離農する人はいますが、コメの価格が上がったことで『もうちょっと頑張ってみようかな』と踏ん張っている人もいます。

私は何も知らずに農業に入ってほんとに『食えねえんだな』って(笑)。それでドーンって借金もして、一度広げた風呂敷の畳み方もわからず行くしかないって感じでここまで来ちゃったんで。私の最後の目標は次の世代に繋ぐことですから。農業が好きで、この楽しさを後世にも伝えていきたい。

やっぱり種まいて実になって、それを喜んで買ってくれる人がいるのは楽しいですよ」

農業の未来を担うのは人気取りを目論む政治家ではなく、五穀豊穣を期して日々汗水垂らす農家であり、国民である。株価の上下に一喜一憂する企業が支配する「市場」に売り渡せばどうなるのか、われわれ一人ひとりが真剣に考えなければならない時期は、とうに来ているのだ。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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