年収300万円の人がワークライフバランスを充実させようとするとどうなるか…理想の生活が手に入るワークとライフの比重の見つけ方
年収300万円の人がワークライフバランスを充実させようとするとどうなるか…理想の生活が手に入るワークとライフの比重の見つけ方

仕事とプライベートをバランスよく両立を図る「ワークライフバランス」という考え方が普及してだいぶ経つ。しかし、少ない年収でワークライフバランスばかりを重視することにはリスクを伴うと指摘するのは経営コンサルタントの小笹芳央氏だ。

 

書籍『組織と働き方の本質』より一部を抜粋・再構成し、あえて自らバランスを崩していくことが大切だという、ワークライフバランスの理想的な在り方を解説する。

仕事(ワーク)と生活(ライフ)の両立は誰にとっても理想的

「ワークライフバランス」という言葉は、1980年代後半にアメリカで生まれたと言われています。日本で注目を集めるようになったのは、2000年代に入ってからではないでしょうか。

ワーク(仕事)と、ライフ(生活・プライベート)をバランスさせ、両立させるというのが、ワークライフバランスで、私もその考え方に賛成です。

ひと昔前までの日本では、男性は「男性のムラ社会」である会社に人生を捧げていましたので、かなりのワーク偏重でした。いまだにワーク偏重の男性も多いのではないかと思います。

一方、当時の女性の多くは、結婚や出産を機に会社を寿退社するのが一般的でした。これが徐々に変わり、結婚や出産後も働き続ける女性が増えてきたことで、ワークとライフ(家事・育児・趣味など)の両立が叫ばれるようになり、そのために様々な支援施策が会社に求められるようになります。

現在では、男女関係なく、仕事と生活をバランスさせて、「QOL(Quality of Life:生活の質)」を向上させることが目指されています。

働く個人にとって、仕事も生活も大切であることは言うまでもありません。

私も、前職のリクルート勤務時代は極度のワーク偏重でしたが、現在はワークだけでなく、ライフも充実させて人生を満喫しています。

小さなバランスは大きなリスクを招く

私はワークライフバランスには賛成なのですが、ちょっと心配なことがあります。それは、ワークとライフのそれぞれの円が小さいままバランスさせて、それで「良し」としてしまうと、その先の成長や発展の可能性が低くなってしまう点です。円をより大きくすることができないのです。

たとえば、現在の日本人の平均年収は約460万円(国税庁・令和5年分民間給与実態統計調査)で、中央値はそれよりも低くなっています。

仮に年収300万円の人が、ワークライフバランスを志向したとしましょう。たとえば、趣味のゲームや釣りに没頭し続けたとします。

すると、そのバランスの取れた状態を継続しようとするので、年収がほとんど上がっていかない可能性が高いのです。

もし勤務先の企業が何らかの危機に見舞われ、退職を余儀なくされたら、その相対的に小さな円のバランスさえ壊れてしまいます。小さな円のバランスは、ちょっとした外部環境の変化でも、大きな影響を受けることがあります。

そして、小さな円のバランスが壊れたら、より小さな円でしかバランスを取れない可能性が高い。なぜなら、小さな円だと選べる選択肢が限られてしまうからです。そうなると趣味のゲームや釣りなどを楽しむ余裕もなくなってしまいます。

小さな円ですがバランスできたことに喜んで、そのバランスを大事にしていると、予想外のことが起きて、まったく想定外の未来が訪れるかもしれないのです。まさにアイカンパニーの経営危機です。

これがワークライフバランスの落とし穴です。

小さな円のワークライフバランスには、こうした落とし穴があるのですが、それがあまり知られていないことに、私は憂慮しています。

大きなバランスを求めるには、小さなバランスを意図的に壊すこと

それでは、こうした小さな円のバランスが壊れてしまうリスクに備えるには、どうすればよいのでしょうか。

答えは簡単で、「より大きな円のバランスにしていけばよい」のです。

たとえば、年収400万円でワークとライフがバランスしたら、それを維持するのではなく、仕事(ワーク)でより一層の努力をして年収600万円を目指します。

逆に、生活(ライフ)の円を大きくしようとしてもいいでしょう。たとえば、趣味をより充実させようとすれば、それなりにお金と時間がかかります。例を挙げると、300万円の車を買って毎週のようにあちこちにドライブする。それを実現して、車のローンを払うためにワークを頑張るというのもあり得ます。

大切なのは、バランスした均衡状態に安住することなく、ワークでもライフでもいいので、その均衡状態を自ら壊して、どちらかの円を大きくすることを考え、実行することです。

ワークライフバランスは振り子で考えることがお勧めです。バランスが取れている状態は均衡状態であり、安定しているがゆえに成長に繋がらず、長い目で見れば決して良い状態ではないのです。

したがって、振り子はワークの側に振っても、ライフの側に振ってもいいのですが、常に健全な不均衡を自ら作り出すことが大事で、それが働く個人の成長に繋がります。

ワークライフバランスを「静的」に捉えるのではなく、時間の流れを意識して「動的」に捉えることができると、両方の円を大きくすることの意味が理解できるのではないでしょうか。

ただし、ワークとライフの円は、同時に一気に大きくすることは難しいので、まずはどちらかの円を大きくすることを目指しましょう。

小さな円のバランスからワーク(=稼ぎ)を大きくする努力をして、その後にバランスさせる。それでも満足できなければ、また不均衡を作ってバランスさせる。この繰り返しです。

自分が満足できるワークライフバランスの大きさは?

ワークとライフの円がある程度大きくなり、大きな状態でバランスが取れたなら、そのバランス状態を保つ戦略に転換することも考えられます。

どのくらいの円の大きさで満足するかは、人それぞれです。年収600万円のワークライフバランスで十分な人もいれば、年収2000万円でも物足りない人もいるでしょう。それは個人の価値観、人生観なので、自分が満足できればいいのだと思います。

私はといえば、元来が欲深い性格のためか、常に不均衡を作り、もっと両方の円を大きくしていきたいといまでも思っています。

均衡と不均衡を繰り返すことで成長、発展していくのは、個人も組織も同じです。

安定した均衡状態を自ら壊すのには勇気がいります。しかし、それを躊躇すると成長が止まってしまいます。

均衡を壊し、不均衡を自ら作ることができる人と組織だけが成長、発展できるのです。

さて、あなたはワークライフバランスを実現できていますか?

もし実現できているなら今後もそのバランス状態は続けられそうですか?

もしあなたがより大きなバランスを実現したいなら、ワークとライフのどちらの円を大きくしますか?

写真はすべてイメージです 写真/shutterstock

組織と働き方の本質 迫る社会的要請に振り回されない視座

小笹芳央
年収300万円の人がワークライフバランスを充実させようとするとどうなるか…理想の生活が手に入るワークとライフの比重の見つけ方
組織と働き方の本質 迫る社会的要請に振り回されない視座
2025/4/111,980円(税込)224ページISBN: 978-4296122950

【内容紹介】
「人的資本経営」「パーパス経営」「ジョブ型雇用」
「自律分散型組織」「女性管理職比率」……
トレンドワードに捕らわれず“核心”を捉えよ!
組織変革の第一人者が、経営・マネジメントの“あるべき姿”を解説。


本書は、日本の組織変革の第一人者である著者が「会社とは、いったい何か」「組織は、どうあるべきか」という“本質”を主軸に、経営やマネジメントの在り方を解説するものです。

近年、企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化を続けており、今後の予測が極めて困難なため、「経営の中長期的な見通しがつかない」と言われるようになっています。その影響で、「各企業は世の中の潮流に乗るためにバズワードに飛びつくものの、いつの間にかその本質を見失い、『手段』が『目的化』してしまっているケースが多発している」と、著者は警鐘を鳴らしています。

「人的資本経営」「パーパス経営」「ジョブ型雇用」「自律分散型組織」「働き方改革」「女性管理職比率」「ダイバーシティ」……。実に多様なキーワードが広まり、国や社会からの要請も増えています。しかしながら、それらの本質を見抜くことなく、当面の対応をしがちになり、従業員の時間と労力は会社の見えないコストとして生産性を押し下げ、また対応した人間の仕事への効力感や誇りを奪っているケースが散見されると、著者は分析。

「このままでは、経営者や管理職層、働く人々が徒労感や無力感に襲われてしまうのではないかという憂いと、日本企業の国際競争力がさらに低下してしまうのではないかという危機感を抱くようになりました。私の過去の経験や現在の立場上、どうしてもこのまま世の風潮に対して沈黙していてはいけないという感情に突き動かされたのが、本書を執筆することになった理由です」と著者は語ります。

著者が経営する会社は、経営学・社会システム論・行動経済学・心理学などの学術成果をもとにした基幹技術「モチベーションエンジニアリング」を開発し、国内最大級の社員クチコミデータベース(約1,860万件)や、組織状態データベース(延べ12,650社、509万人)、人材育成関連データベース(延べ11,640社、148万人)など、膨大なデータを蓄積してきました。

本書は、それらをもとにした統計的なファクトデータやコンサルティングの豊富な実例を交えながら、トレンドワードの本質に迫り、組織変革のあるべき姿を描き出します。

経営者や管理職のみならず、人事・経営企画・IR・広報担当者などのコーポレート部門、さらには次世代を担うビジネスパーソンにとっても企業変革のための示唆に富む一冊です。



【目次】

第1章 会社・組織・マネジメントの本質
1「会社」とは、いったいナニモノなのか
2「組織」の成立要件と存続要件
3「マネジメント」の本質的な役割

第2章 社会的要請の本質
1「女性管理職比率」の罠
2「人的資本経営」の真相
3「働き方改革」の困惑
4「日本版ジョブ型雇用」の正体

第3章 個人の働き方の本質
1「働く個人」は「投資家」である
2「ワークライフバランス」の落とし穴
3「キャリアデザイン」の幻想
4「副業・兼業」の是非

第4章 組織変革の本質
1「自律分散型組織」の限界
2「パーパス経営」の成否
3「ダイバーシティ」を深掘る
4「組織変革のメカニズム」を解き明かす

第5章 環境変化適応の本質
1「テクノロジーの進化と仕事」の未来を展望する
2「労働市場適応」のサバイバル
3「均衡状態に安住する」+「手段の目的化」という病

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