
今年4月1日から全国で初めてとなる「カスハラ防止条例」が、東京都や群馬県、北海道などで施行されている。だが、実際の現場では、依然として声にならない苦しみがあり、コンビニで働く外国人店員たちもターゲットになっている。
“カスハラ”対策進むも、実際は…
近年、職場での顧客による「カスタマーハラスメント(通称:カスハラ)」が社会問題として注目を集めている。悪質なクレームや暴言、差別的発言を繰り返す一部の客により、働く人々の心が傷つけられているのだ。
こうした状況を受け、今年4月1日から全国で初めてとなる「カスハラ防止条例」が、東京都や群馬県、北海道などで施行されている。
さらに、6月4日には参議院本会議において、「労働施策総合推進法」改正案が成立した。
今回の改正法では、カスハラを「職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業関係が害されること」と定義しており、その対策を企業に義務づけるものとした。
施行は2026年中を目指すことになっているが、現状のカスハラ対策について、厚生労働省管轄の東京労働局 雇用環境・均等部 指導課の担当者はこう話す。
「こちらにカスハラの相談があった場合は、国による法律の施行がまだ先のため、現時点では東京都の『カスハラ防止条例』を参考に対応しています。国の法整備については、今後の動向に注目していただくようご案内しています」(東京労働局担当者)
だが、実際の現場では、依然として声にならない苦しみがある。
取材班がカスハラについて取材をしたところ、とくに標的になりやすいのが、コンビニで働く外国人店員たちだった。いまの日本において、彼らの存在はもはや欠かせない。しかし、彼らに対して心ない言葉や差別的な扱いをする客も少なくない。
外国人店員の多くは、留学生や就労ビザを持つ外国人である。
とくに東京都では、外国人労働者や留学生が多くいる。そのため、近年ではコンビニに入ると外国人の店員を目にする機会が多い。
そこで今回、東京都の中でも留学生向けの日本語学校や進学予備校が多数存在し、多くの外国人が住むことで知られている高田馬場にて取材を行なった。すると、実際に現場で働く外国人コンビニ店員たちから悲痛な声が返ってきた……。
「悔しくて、怖くて、でも何も言い返せなかった」
コンビニで働くミャンマー出身の男性(29歳)はある日、帰宅ラッシュで混み合う時間帯に激しい罵声を浴びせられたという。
「60代くらいの女性客でした。レジが混んでいて、私が順番を間違えてしまったんです。するとその女性が突然怒鳴り始めて、『本当にありえない! 本社にクレーム入れるから!』と。私はすぐに謝ったのですが、さらに『外国人ばっかりで本当に使えない!』とまで言われました。悔しくて、怖くて、でも何も言い返せなかった」(コンビニ店員・ミャンマー出身)
中国出身の女性(25歳)は昼のピークタイムでレジを担当していたときに起こった出来事を振り返った。客から渡された公共料金の支払い用紙がコンビニ支払い非対応だったため、丁寧に説明したところ、信じがたい反応が返ってきたという。
「相手は70代くらいの男性客。『日本語わかってる?』『外国人のくせにレジに立つなよ』って。ちゃんと説明してるのに、『何言ってるかわかんねぇよ!』って他のお客さんの前なのに大声で…。周りも気まずそうにしていて、私が悪いことをしたみたいな空気になってしまって、すごくつらかった」(コンビニ店員・中国出身)
彼女は泣きそうになりながらも、ただ「すみません」と謝るしかなかったという。
ベトナム出身の女性(29歳)が最も辛かったのは、夜勤中のある出来事だったという。50代くらいの男性客が、おでんが販売終了していたことに腹を立て、怒鳴り声を上げたのだ。
「『ふざけんな! なんでやってないんだよ!』って。『おまえ、日本語わかってんのか?』『外人が日本の店で働くな』とまで言われました。手が震えて、怖くて、ただ『すみません』と繰り返すしかなくて……。あとで先輩から、あの人は外国人にだけああいうこと言う常連だって聞きました」(コンビニ店員・ベトナム出身)
自宅に戻った彼女は、自分の存在を否定されたような気持ちになり、泣いてしまったという。
駅付近のコンビニ店に勤める日本人パート女性も話す。
「コンビニの仕事って本当に業務もいろいろあって大変だけど、みな一生懸命真面目にやっているんですよ。
本当にここ最近、イライラしているお客さんが多い、特に高齢者やバブル世代のおじさん。ウチのミャンマー人のスタッフに小銭を放り投げたり、ワザと日本語で早口で話して困らせたり…見ていて恥ずかしいです」
少子高齢化が進む中、外国人労働者は不可欠な存在だが、差別的言動が続けば労働環境は悪化する。
決して裕福な国とはいえなくなってきた日本だが、心まで貧しくなってしまったのか……。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班