〈大阪万博〉「9000円ですが十分、買う価値があります」キャラクターデザイナーに聞いたキテレツすぎる“万博ゆるキャラ”の魅力
〈大阪万博〉「9000円ですが十分、買う価値があります」キャラクターデザイナーに聞いたキテレツすぎる“万博ゆるキャラ”の魅力

大阪・関西万博に行っても、どのパビリオンも予約が取れず、並んでいるうちに日が暮れてしまうなんて最悪の可能性もある……。一部では「オススメ万博グルメ」など、別の楽しみ方が提案され始めているが、そのひとつとしてミャクミャクをはじめ、各国のキャラクターたちに会いに行ってみるのはどうだろうか? 

長蛇の列で待ちぼうけ? 子どもも楽しめる方法は…

連日のようにSNSを賑わせている大阪・関西万博。入場券の販売は開幕後、週に50万枚前後のペースを維持しており、黒字確保に必要な1800万枚の達成が見え始めたという。

ただ、依然として長蛇の列や、パビリオンに予約できないといった問題は続いている。「せっかく万博に行ったのに、並んでいるだけで終わった」という声もチラホラ。

問題はそれだけではない。これから夏休みに入り、子ども連れの家族が多く訪れるだろう。しかし、国際博覧会は展示会であり、教育の場でもある。海外パビリオンの多くは各国の紹介や映像が中心で、遊園地のつもりで訪れた子どもたちは、時間を持て余すかもしれない。

そこで提案したいのが、ディズニーランドのように各国キャラクターと触れ合える「ミート&グリート」だ。会場内には、万博公式キャラクター「ミャクミャク」だけでなく、各国が万博用に制作したキャラクターたちも存在している。いずれも記念撮影も可能だ。

また、ミャクミャクのグッズが会場内にあふれているが、各国パビリオンのお土産コーナーには、その国のキャラクターグッズが置かれていることも多い。本末転倒かもしれないが、長蛇の列に並ばずとも、お土産の購入だけなら店まで通してもらえるところもある。お土産コーナーに立ち寄るだけでも、パビリオンを訪れた気分を味わえるかもしれない。

そんな各国キャラクターの魅力を探るべく、サンリオの人気キャラ「ハンギョドン」や「バッドばつ丸」、ベネッセの「コラショ」、JRAの「ターフィー」などの生みの親で、現在はフリーキャラクターデザイナーとして活躍する井上ヒサト氏に話を聞いた。

気になるキャラクター「イタリアちゃん」

万博開幕の1年前、突如として「ミャクミャクの友達」が各国から発表された。これらのキャラクターは一部で「ゆるキャラ」と紹介されることもあるが、厳密に言えば定義は違う。

「ゆるキャラの発端というのは、『マイブーム』という流行語を作ったみうらじゅんさんが、いろんな自治体の“顔が取れちゃいそうな”、身体も太っていない、その人の体型のまんまといった“完璧ではない”キャラクターのことを指していました。

それが『ゆるキャラブーム』の最中、『だらしがないけど、かわいいもの』となっていったんです。『ゆるキャラ=癒しを与えてくれる存在』というのは誤解で、本来は『情けなさ』に近い感覚でした」(以下、井上ヒサト氏)

そのような意味合いで言えば、本物の「ファルネーゼのアトラス」やレオナルド・ダ・ヴィンチの直筆スケッチなどが展示され、連日長蛇の列となっているイタリア館は、キャラクター「イタリアちゃん」も非常に手が込んでいる。

「初めてこのキャラクターを目にしたときは、『日本人がデザインしたのか?』と驚いてしまいました。顔立ちも鼻が高くないし、髪色も暗めの紺で、イタリア人というより日本人のよう。

それに、桜、オリーブの葉、オークの枝などキャラクターの個性を際立たせる要素が盛りだくさんというのも、日本のキャラクターっぽい。やっぱり、イタリアちゃんは日本人なのかも? ぜひ会場で会って、その贅沢ないろんな要素を見る価値がありますよ。特に、背中から見てみたいですよね。帯がどういう留め方なのかも気になりますが、そこも凝っていてほしいです」

ぬいぐるみはなんとの9000円

同じく長蛇の列といえば、ドイツのパビリオン「わ! ドイツ」だ。「循環経済(サーキュラー・エコノミー)」をテーマにしたパビリオンでは、手のひらサイズのキャラクター「サーキュラー」が展示物を音声で案内してくれる。その丸っこいフォルムと光る姿は、多くの観光客を魅了している。

「フォルムはかわいい体型。要するに幼児体型なんですよ。これは本能的なもので、赤ちゃんのような体型は、やはり“かわいい”と感じてしまう。頭が大きくて二頭身、手足が短い。基本的には、そういう体型を見ると人間は『かわいいな』と思ってしまうんです。

サーキュラーはシンプルなのはとても良いですが、『わ! ドイツ』の『わ』という文字をお腹に書くなど、もう2つほどキャラクターの個性を際立たせる要素を足さないと、やや弱い印象があります。ドイツっぽくないんですよね。

ただ、お土産はたくさんあるようなので、『じゃあ、ドイツを買おうかな?』と迷ってもらって、家でピンバッジなどを付けて楽しむというのも、ひとつの楽しみ方ですね」

「ミャクミャクの友達」と銘打たれたチェコの「レネー」は、なかなか強烈だ。黄緑色のイカのようだが、「ボヘミアンガラスの妖精」なのだという。

「ユニークですが、ボヘミアンガラスとは誰も思わないでしょう。素材もガラスとは程遠い。私が気になったのは、着ぐるみのバージョンです。

本来は足が3本あるはずなのですが、中の人の足がそのまま出ています。これは“ゆるい”ですね。

例えば、サッカー日本代表マスコットの八咫烏(やたがらす)も足は3本ありますが、着ぐるみでは1本は尻尾のようになっています。キャラクターを尊重していて、妥協していない。ただ、レネーの場合は着ぐるみの中の人によって、脚が伸びたり縮んだりするでしょう。『君はどのレネーと会った? 足元を見てみよう』と言いたくなりますね」

その一方で、このぬいぐるみはなんと9000円だ。

「いや、これは買う価値があります。だって、こんなの作る人いませんから(笑)。工場で作るのも大変ですよ。置いておけばインテリアにもなります。これは9000円してもおかしくないでしょう」

ベルギーの「ベルベル」も、ぬいぐるみの展開に積極的だ。

「まず、ネーミングがいい。

それに、おでこにベルギー国旗が小さく描かれているのも特徴的ですね。しかも、よく見ると右目だけが大きいこと。シンメトリーではない。日本人だと、こういうことはやりません。何か意図はあるんでしょうけど、これだけでは読み取れない。その謎を、ぜひ会場で解いてほしいですね」

ただ、残念なことに、ベルベルも着ぐるみになると“ゆるく”なる。

「どうして足が長くなってしまうのか……。日本では、着ぐるみの足を短く見せるために、例えば帽子を被せるなどの工夫をします。ハンギョドンの頭にタコの『さゆりちゃん』が乗っているのも、着ぐるみになったときのことを視野に入れていたからです。足を短く見せるには、それなりの工夫が必要なんです」

1番のおすすめは… 

ぬいぐるみや着ぐるみにはなっていないが、開幕後に注目度が高まっているのが、東欧リトアニアとラトビアが共同出展する「バルトパビリオン」だ。5月13日、同館のエントランスにこのキャラクターとミャクミャクのぬいぐるみが展示されていたのだが、あろうことかミャクミャクのぬいぐるみが盗まれてしまった。

万博の警備体制が非常に心配になるところだが、申し訳ないと思った来場者たちが次々と、一人ぼっちになったバラビちゃんのためにミャクミャクを寄付したことでニュースになった。

ただ同時に、バラビちゃんのお腹部分に人間と思しき顔が埋め込まれていることも話題になった。

「ネーミングですが、バルトの『Bal』が文字られているのはいいですね。足のことも考えられており、一番安定感のあるキャラクターです。着ぐるみがないのはもったいない。

しかし、わからないのは、お腹に出てくる“顔”。これはちょっと気持ち悪いですね。しかも男の子ではなく、ヘーゼルナッツが擬人化されたものだというのが……。おまけに表情もある(笑)。

それでも、顔がなかったらキャラクターとしてはつまらないんですよね。だから、その発想は素晴らしいですよ。誰も“実”が擬人化しているなんて思いません。まぁ、要素としては“怖い”ですけどね」

このように、万博会場にはさまざまなキャラクターがいる。

運が良ければ、パビリオンの前で各国のキャラクターに会える可能性もあるのだ。

「『出会える楽しさ』というのは、ただかわいいから会いに行くというだけでなく、そのキャラクターの魅力を探るための“謎解き”の要素もあると思います。だから、いろいろなことに興味を持って、万博に行くのもいいかもしれません」

そんな井上氏に、もっとも注目している万博のキャラクターを聞いた。

「結局、一番はオランダの『ミッフィー』です。シンプルの極み。色もブルーナカラーで統一されていて、マークに近く、グッズ向きです。実は、線も少し歪んでいるんです。そういう“ゆるさ”……いや、これこそが癒しですね。Illustratorなどでは表現できません」

万博の会場には世界のキャラクターだけではなく、アルプスの少女ハイジやガンダムもいる。思う存分、キャラクターを楽しむことができるのだ。

取材・文・撮影/千駄木雄大  

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