
先日、Xである投稿が話題となった。投稿主は、とあるラーメン店を赤ちゃん連れで訪れ、店側の思わぬ配慮に「涙が溢れそうに」なったという。
ラーメン店でのエピソードに6.8万件の「いいね」が付いて話題に
先日、Xである投稿が大きな注目を集めた。
「とあるラーメン屋さんで注文した後、店員さんが、『同時にお出ししますか? パパとママ順番で赤ちゃんを抱っこされるなら時間差でお出ししょうか?』と聞いてくださり涙が溢れそうに」
この投稿には約6.8万件の「いいね」が付き、多くの共感の声が寄せられた。さらに注目を集めたのが、このラーメン店の正体。投稿主が訪れたのは、世界に店舗を展開するラーメン専門店「一風堂」だったのだ。一風堂の公式アカウントは、この投稿を引用リポストし、こう反応した。
「体験談を共有いただきありがとうございます
一風堂は小さなお子さま連れでのご来店、心からウェルカムです
(このように時間差でラーメンをお出しすることを、スタッフ間では「抱っこチェンジ」と呼んでいます)」
このリポストに対してXには、
「スタッフ間で抱っこチェンジと呼ぶなんて、すごい気がつくスタッフが1人いるのではなく、会社全体にそんな空気があるということに、感動しました」
「この方の投稿を見て、わが家も一風堂さんへ行きました! ベビーカー預かりや、子供用食器提供を子の手の届かないところに置いてくださるなどたいへんありがたかったです!おかげさまで産後久しぶりに夫婦そろって熱々のラーメンを食べられました」
「子どもが生まれて初めての外食は近所の一風堂でした
ずっとラーメンを食べられてなくて、でも赤ちゃん連れでとても不安で平日開店直後に伺いました
まさに『抱っこチェンジ』をご提案くださり感動しました
何度も行ってます いつもありがとうございます」
など、称賛の声が多くあがっている。
「抱っこチェンジ」とは? 一風堂の担当者に聞いてみると…
子連れ客への粋な対応が話題となっている一風堂。どのような経緯でこうしたサービスを始めたのだろうか? 同店などを運営する「力の源ホールディングス」の広報担当者に話を聞いた。
「お子様連れのお客様は昔からご来店いただいていましたが、『お子様連れでも来やすいお店』というメッセージを、それほど強く打ち出していたわけではありませんでした。
転機になったのは2022年。ある北海道のラーメン店が出した貼り紙がSNSで話題になりました。そこには『お子様連れのお客様へ お父さん、お母さんが順番に食べられるように、ラーメンをお出しするタイミングをずらしてお持ちいたします。どうぞ遠慮なく申し付けてください』という店主のメッセージが書かれていて、多くの共感を集めたのです」
こうしたことが世間で話題になる中で、同時に子連れ客に対する“風当たりの強さ”も感じ始めたという。
「『(外食時に)肩身の狭い思いをしている親御さんがたくさんいる』という状況が目に見えてわかるにようになってきて、うちでもこういう取り組みをしているし、そのことをもっと伝えていかないといけない、と気づきました」
それ以降、「一風堂=子連れでも来やすい」というメッセージを積極的に発信するようになったという。
では、冒頭の「抱っこチェンジ」はどのように始まったのだろうか?
「今はマニュアル化していますが、最初にどこから始まったのかが曖昧なほど、昔からあるサービスです。おそらく20年以上前になるかと思いますが、店舗のスタッフがお客様の様子を見て、自発的にご提案するという形で生まれたのが、この『抱っこチェンジ』でした」
「お子様連れのお客様も気兼ねなく外食できることが当たり前になるように」
こうした取り組みの背景には、「ひとりひとりのお客様に、いちばん最高の状態のラーメンを食べてほしい」という思いがあるからだという。「抱っこチェンジ」のみならず、一風堂ではこんなサービスも行なっている。
「お子様連れに限らず、たとえば『ビールを飲んで、おつまみを食べてから、最後のシメでラーメンを食べたい』というお客様に対して、お好みのタイミングでラーメンを提供しています。『後でラーメン』を略して『アトラー』と呼んでいます」
また、担当者が「お子様連れだけがメリットを受けるという形にはしたくない」と話すその姿勢は、こんな取り組みにも表れている。
「子連れの客でも気兼ねなく外食できることが当たり前になるように」という思いを実現するためのプロジェクト、その名も「カルガモプロジェクト」だ。
その一環で、「一風堂のこの思いに賛同してくれるお客様全員に、替玉か卵を無料サービスする」というキャンペーンを実施したという。
こうした取り組みを実施することで、子連れ客だけがメリットを受けるのではなく、そういう社会を作りたいと思っている人全員が対象になり、子育てをしていない人も一緒に考える機会にしたい、と担当者は話す。
一風堂の公式noteには、「一風堂が叶えたい社会」として、このように書かれている。
「『お子様連れのお客様も気兼ねなく外食できることが当たり前になるように』。そんな願いを実現できるよう、小さなことからでも、私たちにできることの積み重ねを大切に継続していきます。一風堂と同じような考え方が飲食業界全体でも当たり前になり、みんながより過ごしやすい社会になってほしい。
同社の温かなまなざしが、外食産業のみならず、社会に広く浸透することを多くの人が望んでいるのではないだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班