
福岡市の小学校の給食で主菜が唐揚げひとつだったことに対し、SNSでは『寂しすぎる』『貧相な給食でかわいそうだ』『刑務所のほうが豪華』など批判が相次いでいた。これまで福岡市は地産地消の観点から、特別メニューとして『博多和牛』や『博多あまおう』を使った豪華な給食が注目を集め報道されるなど食育には力を入れている印象だったが、物価高騰や給食無償化のあおりを受け給食現場が急激に変化しつつあるのか。
「食中毒の可能性やリスクを避ける要素もあった」
福岡市立の小学校で4月に出された給食がSNSに投稿されると、瞬く間に拡散され批判が相次いだ。たしかに当該の給食の写真を見ると、ごはんと味噌汁の他には、唐揚げひとつがお皿に盛り付けされておりおかずが少ない。これにはどういった事情があるのか。福岡市の教育委員会給食運営課の担当者が語る。
「給食を見た時にどんな風に思われるのか、という見栄えの部分には考えが至っておりませんでした。しかしながら給食の量が極端に少ないわけではありませんし、福岡市の基準の1食あたり600キロ カロリーも満たしています。唐揚げは60グラムありまして、普通の唐揚げが30~35グラムですのでおおよそ2個分くらいの大きさです。それから味噌汁についても野菜4種類にわかめと厚揚げの具材を使用した具だくさんのもので、副菜代わりになるメニューになっています」
このメニューの組み合わせについては、給食を作る行程や配膳の効率化、食中毒の可能性やリスクを避ける要素もあったという。
「唐揚げは給食室で生肉から味付け、揚げるまですべてやりますが、60グラムの大きさで2個分まとめて行うことで手間が省けます。また、生肉を扱うその横で野菜の和え物などを作って出すのはどんなに注意をしていても食中毒などのリスクがありますので、生肉を扱う際は工程の最後にすべての食材に必ず火が通るメニューになるように組み合わせています」
唐揚げ2個分とのことだが、写真で見る唐揚げはお皿にポツンと置かれており、とても2個分のボリューミーな唐揚げには見えない。
「お皿の保管場所の関係で学校にはお皿は3種類しかありません。ですからカレーを盛ったり、スパゲティを食べたりする大きい平皿に唐揚げを盛り付けているのですが、ポツンと見えますよね……。
「この唐揚げの時は休みの子がいれば取り合いになるほど」
福岡市の給食費については平成27年から小学校では4200円、中学校では5000円で据え置かれている。そこに公費が入り給食1食当たり小学生は298.47円、中学生は347.36円で作られている。近年、物価高騰が続いているが、物価高騰にともないメニューや量の変化はあるのだろうか。
「令和4年から物価高騰が激しくなっていますが、令和4年度が4億円、5年度が7億円、6年度が10億円、今年度が12億円と物価上昇に応じて公費の予算を増やしていっているので、給食の量や質を極端に落としたことはありません。
福岡市では2学期から給食無償化が始まります。質が落ちるのでは?と心配の声もありますがその分の予算は確保されているので質は落ちません。
基本的なメニューは以前と変わらず同じ物を作っていますが、メニューの中の食材で特に価格が上がっている物について調整したりはしています。例えば青ネギの価格が上がっているので、1人当たり1グラム減らして、代わりに玉ねぎを5グラム増やしたりとか。高騰していますがおコメについては変えていません。100%福岡県産の6年度産米を使用し、食物繊維のことを考えて昔から1割麦を入れています」
食材を組み合わせ、量と質を維持しながら予算内で作られている給食。一番人気のメニューを問うと教育委員会給食運営課の担当者は苦笑しながらこう答えた。
「カレーと競っていますが唐揚げです。味が子供たちに好評で、この唐揚げの時は休みの子がいれば取り合いになるくらいです。
とはいえ、写真のインパクトは強かったのでネットの反応がああなるのは仕方ないと思いますし、おいしく見える献立の組み合わせは今後、工夫しながら考えていきます」
「牛肉は高いから安いひき肉に豆腐を混ぜてかさ増しして…」
様々な試行錯誤のうえ子供たちの前に並んでいる給食だが、福岡市だけでなくそれは他県でも同様だ。埼玉県川口市の担当職員が語る。
「基本どの自治体も自治体職員だけでなく学校関係者などが意見を出し合って食材を選んでいます。川口市ではこれまでは県内産のコメである『彩のかがやき』を使っていましたが、コメの高騰にともない青森県産の『まっしぐら』に変えたり、牛肉は高いので豚肉や鶏肉の割合を増やしたりしていますし、肉の部位を変更したりしています。限られた予算の中で『味・価格・見た目』に気を遣っています」
また、都内23区内のある役所の担当職員も給食の質を落とさないよう奮闘していると語った。
「給食の無償化が始まりましたが、それに伴い予算がついているので献立が著しく変わるといったことは起きていません。とはいえ、物価高のあおりは給食現場も受けています。ジャガイモが高い時は、かぼちゃなどの別の食材にし栄養を補う工夫をしております。『栄養バランスがとれていて、子供たちが美味しく食べられること』を最優先に現場は動いています」
長年、関東近郊の私立幼稚園や小学校で給食調理員として勤務してきた40代女性は今回の唐揚げ給食騒動について同情を寄せた。
「ネットの批判を見て本当に気の毒だと思ったよね。60グラムの大きいお肉だし、あんなもんだよ。
デザートについても本当はメロンやスイカなどの季節の食材を使いたいけど、でも使ったら確実に予算オーバー。だからバナナやゼリー、寒天などが多くなる。魚についてもサケとかもっと使ってあげたいけど、サバが多くなってる。サンマなんか高すぎて今じゃ出せても身が細すぎてカバ焼きとか無理だし、めったに出せない。
お肉だってそう。牛肉は高いから安いひき肉に豆腐を混ぜてかさ増しして豆腐ハンバーグにしたり。今回の唐揚げで言えば揚げると縮むわけだからチキンカツにするという方法もある。
悪い油を使わないよう気を遣わないといけないし、予算内でできる限りのことをしているのが給食。
物価高騰の中、給食現場の人たちはギリギリの予算でよりよい給食を作ろうとしている。全国的に急拡大している給食無償化など給食を取り巻く環境がめまぐるしく変化しているが、子どもたちが献立を見るのが楽しみになるような給食が届けられることを願わずにはいられない。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班