
二宮和也氏による初めての新書『独断と偏見』(集英社)が、6月17日に出版された。小説やエッセイを発表するアイドルはいるが、政治や経済、社会問題など硬派なテーマを掘り下げることが多い「新書」形式で著書をリリースするのはかなり珍しい。
編集者が送った1通のメール
本書の企画がスタートしたきっかけは、集英社の女性誌『MORE』で10年にわたり二宮氏の連載「It[一途]」を担当してきた編集者が、独立したばかりの二宮氏のホームページの問い合わせフォームにメールを送ったことだった。
「生きているうちに、二宮さんの言葉を一冊にまとめたいのです」
ステージⅣのがんが見つかった編集者は、連載担当中に幾度も耳にした”ニノ流哲学”の言葉を思い返し、治療中に励まされてきたという。だからこそ「一冊の本にし、お守りとして持っていたい」と切望した。
二宮氏も事務所の独立という大きな転機を迎え、第二の人生を歩み始めたばかりだった。「40代になり、そろそろ大人になろう、責任を持とう、というきっかけをいただいた」と編集者の思いを受け取り、プロジェクトは始動した。
10の四字熟語に沿った100の問い
本書には、二宮氏が独立してから最初の春夏秋冬の1年間、「心機一転」「適材適所」「温故知新」「喜怒哀楽」などの四字熟語に沿って、100の問いに答えた内容が収録されている。
インタビュー前に内容を示し合わせ、じっくり悩んで紡いだ言葉ではない。毎月1度、限られた時間の中で行なわれた、緊張感ある問答だ。
「(独立して見えた景色について。他者から)好かれているんだなっていうのと、嫌われているんだなっていうのと、両方見えた」
「『仕事』において『学び』なんて言うな、っていうスタンス。お金をもらって学んじゃダメ」
「人のことを喜べる人間であれば、間違いなく自分のことを喜んでくれる人が周りに集まってくる」
「怒らない。代わりに教える。怒らず、徹底的に」
「僕は僕を利用しようとする奴には絶対に負けない」
きかれた質問にストレートに答えていく純度の高い言葉には、仕事観、人との関わり方、憧れていた人の死、そして家族やお金、プライバシーを侵害するメディアに対する怒りについてなど、読んでいるこちらがドキリとする内容も含まれる。
もちろん、彼の言葉の強さは熱心なファンならば周知の事実だが、バラエティ番組で見せる飄々とした掴みどころのない“ニノ”のイメージを抱く人は驚くかもしれない。
自分の影響力を痛いほど自覚し、葛藤し、向き合ってきたからこそ語ることができる、熟考し続けてきた人の言葉だ。
「30代後半から40代前半の人たちがこれを読んでどう思うのかっていうのは、まあ気になるところですね」
そう本人は語るが、不安定な時代を生きる全世代にとって、きっとお守りになる言葉が見つかるはずだ。
文/松山梢
独断と偏見
二宮和也