
芸能生活40周年を迎えた中山秀征(57)。師匠と慕う志村けんさんとの出会い、19年間司会を務めた「ウチくる!?」(フジテレビ系)で育まれた価値観、そして共演者で今は亡き飯島愛さんとの忘れられないやりとり。
その想いは、自著『気くばりのススメ』(すばる舎)にも結実している。芸能生活40年の中で培った“人との距離の取り方”や“心を通わせる会話術”を、ユーモアと経験を交えて綴った一冊。振り返った中山が語ったこととは……。(前後編の後編)
志村けんさんが語ったこと
中山が師匠と仰ぐ志村けんさんとの印象的なエピソード。初めて出会ったのは中山が25歳の頃だった。
「その日は番組の収録で、僕は志村さんだから絶対待たせちゃいけないと思って、入り時間の30分前に行ったんです。入りが朝の10時だったので9時半に入っておけば、絶対大丈夫と踏んで行ったら、もう志村さんがいたんですよ(笑)」(中山秀征、以下同)
キャデラックのロングリムジンが止まっていて、その煌びやかなロケバスのなかにはメイク室があったという。慌ててなかに入ると志村さんの準備はすでに出来上がっていたという。
「非常に申し訳なくて『すみません!』って謝ったら、『いいんだいいんだ。俺が勝手に早く来てるだけだから』って言うんですよね。 後日、なんであんなに早く来てたんですかって聞いてみると『朝遅れるとさ、すみませんから始まるだろ? 俺はね、すみませんから始まる1日は嫌なんだよ』って言ってたんですね。『俺はどれだけ夜遅くまで飲んでも朝は早いんだ』って」
本書のなかでも、志村けんさんの話は各所に散りばめられていて、そのうちのひとつでもある『常にバカでいろ』というエピソードについても話を聞いた。
「志村さんの中では『常にバカでいろ』という信念がありました。『お前はバカだなぁ』と言われ続けることが、面白いんだと。芸能を長年続けていくと、利口になったり傲慢になったりしていくだろうけど、『絶対に偉そうにするなよ。俺たちはそもそも何もないんだから』というのを、志村さんから学んできました」
そんな中山のひとつの起点になったのが、バラエティ番組「ウチくる!?」だ。19年間、司会として出演し、価値観が大きく変わったきっかけだったという。
「『ウチくる!?』は僕が結婚して1発目のレギュラーなんですよ。ちょうど子どもが生まれた時期と重なって。 30代から40代をまるまる19年やらせてもらいました。結婚して子どもが増えていったっていう成長が、あの番組の中に全部入ってるんです」
「ウチくる!?」はあの頃の自分にピッタリ合っていたと振り返る。非常にハートフルな番組で、中山秀征の代表作のひとつともいえるだろう。
「ゲストのふるさとに帰って恩師に会ったり、行き付けのお店に寄ってみたりして、最後はお世話になった方がお手紙を読んで、感動して涙するっていう。いろんな人たちがゲストとして来てくれて、さまざまな価値観に触れましたね」
「最後に愛ちゃんが僕に言ったのは…」
「ウチくる!?」といえばレギュラーだった飯島愛さんの存在も大きかった。彼女との掛け合いは印象的でゲストを惹きつけるのが上手だったと振り返る。
「彼女はのちにいろんな人に惜しまれながらテレビタレントを引退する。その後、実業家になろうとして、事務所もやめるんですけど。最後に愛ちゃんが僕に言ったのは『ヒデちゃん、YouTube絶対やった方がいいよ」って。
2007年くらいの時で、当時YouTubeを知ってる人はほとんどいないし、スマホもあまり普及していない頃だった。だからなにを言ってるかさっぱりだったんですよね」
YouTubeと聞いて頭にハテナが浮かんでいた中山。ところが、飯島愛さんは真剣だったという。
「Youtubeでは、ヒデちゃんがやりたいことをそのまま流せるんだよ! やりたいことの企画書作って、演出家と形にして、局に出してってやってるけど、それがいらないの。ヒデちゃんが自身がテレビ局になれるの』って。
その時はよく分からなくて質問ばかりしてたんですけど、今思えば愛ちゃんは時代を読む力がすごいと思いましたね」
良き友人で、戦友だった飯島さんのことを懐かしむ中山。テレビの印象が強い彼だが、YouTubeについてはどう捉えているのか。
「ツールとしては全然いいんじゃないかな。
「まずは何でもやってみてほしい」
著書『気くばりのススメ』では人との距離感がすごく難しい時代だからこそ、人付き合いに悩まれてる人に是非読んでもらいたい本だと紹介した。
「最近は、若い人を中心に『コミュニケーションが難しい』と感じている人が多いみたいです。頭はいいんだけど会話ができないっていう人が多いんじゃないかな。それっていきなり本題に入っちゃうからダメなんじゃないかなって思うんですよね。
会話においてアイドリングって必要じゃないですか。でもいきなり会話のアイドリングをしろと言われてできるものではないので、日常のなかで日々すこしずつやっていく。地道に普段の会話を楽しむってのは大事なことだと思うんです」
どんな偉い人が相手でもコミュニケーションは会話から。「会話がないと人と仲良くなることはできないですよね」と話す。
「バラエティってみんなで作るもんなんですよね。番組の司会をやってて誰かがつまらなそうにしていたら、心配になるし。自分は何の意味があって番組にきたんだろうと思われるような出演者は作りたくないですよね。俺いなくてもよかったじゃんとか。そんな思いはさせたくないので、限りある時間のなかでみんなを平等に楽しませるのが司会の役目かなと思ってます」
中山の考える「気くばり」とは日常の些細なことから生まれる。そのためにはひとまずやってみることが大事だと語った。
「たとえば、部署が変わっていやだな…と思っていても、近くの席の人と会話してみる。会話を続けていくことで何か花開くこときっとある。だからまずは何でもやってみてほしい。人間も置かれたところできっと咲けるから」
SNSやネット社会になった今だからこそ伝えたい会話の大事さ。決しておごらず「バカでいる」。
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取材・文/桃沢もちこ 撮影/齋藤周造