
離婚後も父母の双方が親権を持ち、子どもの養育に関わる「共同親権」。昨年民法が改正され、2026年の5月までに施行される予定だ。
「子どもを連れ去ったもの勝ち」が成立する日本
これまで日本では、離婚後の単独親権が当たり前だったが、欧米の多くの国では共同親権で離婚後も父母ともに子育てに関わっている。日本でもこうした例をもとに、離婚後も転居先や子どもの進学先の決定には父母双方の合意が必要になるなど共同親権を定める法改正がなされ、2026年の5月をめどに施行予定だ。
だが細かなガイドライン策定に向けては意見が錯綜している。
代表的な意見として、主に配偶者からのDV(ドメスティックバイオレンス)被害を受けた後に離婚した人や子どもが、共同親権になることによって加害者である元配偶者から逃れにくくなるといった指摘や、離婚をしても単独で親権を獲得できないのならと離婚そのものをためらってしまうケースが発生することが予想されている。
実際にDV被害があった場合は、裁判所が共同親権を認めないというルールになっているが、
「関係省庁は細かいガイドライン策定に向けて奔走中ですが、賛否が割れているだけに意見集約は揉めそうです」(大手紙司法担当記者)
以上のような状況もあり、共同親権については当事者団体をはじめとして様々な団体が勉強会を開催している。そうした中、シンクタンクのNPO法人公共政策調査機構(RIPP)が6月12日、国会内で政策シンポジウム「子どもの視点から考える共同養育」を開催した。
シンポジウムには共同養育支援議員連盟で幹事長を務める自民党の三谷英弘衆院議員や『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社刊)がベストセラーとなった作家の岩崎夏海氏らが登壇。
特に議論が集中したのが「子どもの連れ去り」をめぐる問題についてだ。配偶者の同意なく子どもを連れ去り、残された側が子どもと会えなくなる問題が発生している。
「アメリカなどでは連れ去りは誘拐として犯罪にあたりますが、日本では罪に問えないケースがあります。言ってみれば連れ去った者勝ちの状況です。離婚が成立していなくても、配偶者に子どもを連れ去られると、会うことが難しくなります」(大手紙司法担当記者)
夫婦間や親子間でDVがある場合、その被害者が守られなければならないのは当然ではあるが、中には虚偽のDVをデッチ上げ、連れ去りや面会拒否を正当化する悪質なケースも存在するという。
「虚偽DVについては複数の議員が国会で質問をしていて、これに対する対策は共同親権を実現する上で欠かせないものになっています」(大手紙司法担当記者)
シンポジウムでは、有名人が当事者となった「子どもの連れ去り」の具体的な事例も紹介された。
「法に殺される思い」長男を連れ去られて2回自殺未遂を図った作家
シンポジウムに登壇した岩崎氏は、子どもを連れ去られた当事者だ。
一度目の結婚をしていた1997年、ある日突然妻が0歳児の長男を連れて家を出て、その後調停に。
「当時は親権についての知識がありませんでした。アメリカの映画で観ていたように、週末にお互いの家を行き来して子どもに会えると思っていましたが、調べてみると全く様子が違う。調停で印象的だったのは、調停員は妻の話も僕の話も、ハイハイと聞きながらまるで馬耳東風。既定路線通りの書面を作り、裁判もすぐに終わりました。ベルトコンベヤーに乗せられて行った先に地獄がありました」(岩崎氏)
親権は母親、面会は月に1回3時間――。
裁判所が提示した雛形通りの結果となった。
「法に殺されるという思いをしました」(岩崎氏)と悲痛な胸のうちを語った。
長男が小学校に上がった頃から元妻の意向で面会交流もできなくなり以後20年以上、音信不通だという。
福原愛も連れ去り加害者に
「子どもの連れ去り」が広く知られるきっかけとなったのが、2022年に報じられた元卓球選手の福原愛氏の事案だ。
福原愛氏は、台湾人の夫と離婚した際、共同親権で主な監護者を父親とし、定期的な交流の取り決めが交わされたが、2022年の面会交流時に福原氏が子どもを約束通り返そうとしなかったことでドロ沼化。裁判所から子の引渡し保全命令が出されても従わなかったため、刑事告訴されたことは日台メディアでも大きく報じられた。
タレントの菊川怜氏の「連れ去り」も「週刊文春」(24年11月14日号)が報じた。同誌によると、菊川氏は夫に何も告げず、子どもと家を出たため、夫は警察に相談。一方の親が連れ去る行為は未成年者誘拐罪に抵触する疑いがあるとして被害届が受理されたという。その後、夫婦は協議離婚が成立。
かつて日本のドラマでは、書き置き一つで夫に相談なく母親が子供を連れて家を出るシーンが珍しくなかったが、実は「誘拐罪」として法に抵触するかもしれない行為なのだ。気づかないうちに被疑者になりかねないため、注意が必要だ。
人権問題に詳しい弁護士の紀藤正樹氏もシンポジウムでこう指摘した。
「日本の現在の司法に絶望感がある。後見機能を果たすべき家庭裁判所が後見機能を果たしていない。ルールをしっかり定めないと現場も変わらないであろう。
重要なガイドライン制定、今後の展望は?
「いま法務省を中心に、海外の事例を参考にしながらサンプルを作っていただいている。改正後には、議員連盟として、離婚後も父母双方が同様に関わることのできる共同養育を保証できるよう提言していきたい」(三谷氏)
3組に1組が離婚する時代。未成年の子を持つ親にとって、明日は我が身となる可能性がある問題だ。実際にDV被害があるかどうかを適切に判断し、被害者を保護しながら、一方では不当な「子どもの連れ去り」を無くす運用ができるか。
何よりも重要視されるべきは子どもである。DV加害者の暴力から守られなければならないし、一方で同居していない方の親に会う権利も保障されなくてはいけない。石破政権はどのような道筋をつけるのか。
取材・文/
小松沙紀