
資本金500万円の会社を設立すれば家族とともに日本で暮らせる資格を得られる「経営・管理ビザ」を取得して、日本に事実上移住してくる中国人が増えている。要件が緩すぎると問題視する声に押されて政府が対策に乗り出すと、中国政府は自国民に日本での土地購入の自粛を求める呼びかけを行なった。
「地震が来るかもしれないから不動産購入を控えろ」中国政府の謎の呼びかけの真意は?
今年4月、在日本の中国大使館はホームページに、中国語だけで異例の呼びかけを掲載した。
「『地震災害に対する予防策を呼びかけています』と題した呼びかけは、日本政府が南海トラフ地震の新たな被害予測を3月に出したことや、昨年8月に日向灘でマグニチュード7.1の地震が起きたことを挙げ、在日中国人に防災用品の準備などを求めています。
しかし奇異に感じるのが末尾に『不動産の購入を慎重に選択することをお勧めします』と書かれていることです。中国圏では『日本に大地震と津波が来る』とのうわさが今年初めから出ており、これを受け注意喚起をしたとの見方が出ました」(全国紙外報部記者)
大地震が起きるとの流言は、最近では「7月5日に起きる」と日付まで具体的に挙がる始末だ。気象庁などが打ち消しに回っても中国系航空会社では日本路線を減便する動きが止まらない。
中国系住民が多い神戸の飲食店経営の50代の女性は、「中国とか香港では本当に信じている人が多いらしく観光客も減っているみたいです」と嘆いている。
だが大使館の呼びかけについて、日中関係を長年見てきたウォッチャーは地震の不安に“便乗”して不動産取引の自粛を求めることに狙いがあるのではないかとみる。
話すのは日中青年交流協会元理事長の鈴木英司氏だ。鈴木氏は「スパイ活動」の嫌疑で2016年に中国で拘束され、懲役6年の実刑判決を受けて投獄された経験を持つ。
「地震が来るかもしれないから不動産購入を控えろとは、理屈も何も通らない話です。中国政府の本心は、日本が中国人による不動産売買規制を強めてくるとみて、日本政府を刺激しないよう、中国人に“しばらく静かにしておけ”と求めたいのだと思います」(鈴木氏)
いったい、どういうことなのか。
「中国人が日本に滞在する資格をとるハードルが低いことが問題になり、日本政府がようやく対策に腰を上げ始めたんです」と語るのは全国紙デスクだ。
問題の核心は、安倍政権時代に導入された外国人が日本で起業する場合などに与えられる「経営・管理」名目での在留資格にあるという。
「事業所を日本国内に持ち、かつ500万円以上の資本金か2人以上の常勤職員がいれば原則1年間滞在できるビザ(査証)です。違法行為がなければ延長でき、家族も同伴できます。つまり日本で事業を行なうと認められれば、事実上500万円で家族そろっていつまでも日本で暮らせるビザです」(同デスク)
政府の在留外国人統計によれば、2015年4月に経営・管理ビザ制度が始まった直後の同年6月には同ビザによる滞在外国人は既に16,294人に上り、うち中国人は7,318人と圧倒的な割合を占めていた。これが9年後の2024年6月には総数が39,616人、中国人はそのうち20,551人を占めている。
「中国人で金銭に余裕のある人は、不動産バブルの崩壊によって中国内には投資や投機の対象はかなり減ったとみて、日本の不動産に目をつけています。日本は近いし安いし、外国人の不動産売買が自由と、好条件がそろっていますから。
そしてもうひとつ、中国人には治安や教育環境がいいことも日本の魅力で、家族と一緒に日本で暮らしたいと願うんですね。そこで、子どもを日本の学校に送り、健康保険の適用も受けられる経営・管理ビザに目が向くんです。問題を起こさなければ延長を繰り返すことができるので、家族そろっての永住権を買うようなものです」(鈴木氏)
「日本の物件を舞台に中国人が中国人をだます犯罪パターンも生まれている」
日本の不動産市場で中国人の存在感が高まっているのも、外国人の不動産売買が自由にできることに加え、この滞在資格のハードルの低さが絡みあっているという指摘もある。
「中国内にいながら日本でマンションなどの不動産を買って、そこを事業所に登録して経営・管理ビザをとるケースも目立ちますし、民泊にして管理を日本国の中国系業者に任せるケースもあります。
こうした需要の中で、中国系の不動産業者やデベロッパーには、日本のマンションを中国人に売る大規模な商売をするところもあります。
だが、今年に入り経営・管理ビザの発給要件が緩すぎる、という声がついに顕在化した。
「架空会社を設⽴して入国した中国人が日本の健康保険制度に“ただ乗り”していると批判する記事や、他国では同種ビザで求められる資本金の額は数千万円規模なのに日本は“格安”だと指摘する記事が相次いで出されました。
これに石破茂首相が4月上旬、『経営・管理の在留資格で⽇本に在留する外国⼈富裕層が増え、そのなかに在留資格にかかわる営業の実態が確認できない事例がある旨の報道があったことは承知している』との政府答弁書を提出。その後、出⼊国在留管理庁が、経営・管理ビザの取得要件を厳格化する調整に入ったのです。この動きは6月に入ってから報じられ明るみに出ました」(日中関係筋)
在日本中国大使館が「不動産購入を慎重に」と呼び掛けたのは、出入国在留管理庁が水面下で制度改正に動き始めた時期のことだ。
今後、求められる資本金額が大幅に引き上げられるだけでなく、ビザ取得に求める項目が厳しくなるとの見方が出ており、日中当局は神経戦を繰り広げているもようだ。
「中国大使館は当然、制度改正の動きを察知したはずです。その先に不動産売買規制強化もありうるとみて、日本政府や世論を刺激する派手な不動産購入はしばらく控えろと求め、その理由を地震でとり繕ったんでしょう」と鈴木氏は分析する。
デタラメな「大地震」の流言の裏で、日本社会の将来の姿に影響する制度変更の動きが進んでいる。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班