他人の家に入り浸る“放置子問題”が深刻化…ご飯をねだる、玄関前に待ち伏せも…放置子の親は「そっちが勝手に家にあげたんでしょ? 頼んだ覚えはない!」
他人の家に入り浸る“放置子問題”が深刻化…ご飯をねだる、玄関前に待ち伏せも…放置子の親は「そっちが勝手に家にあげたんでしょ? 頼んだ覚えはない!」

親に放っておかれ、どこで何をしているかも把握されていない “放置子”が増えている。放置子に悩まされた女性や現場を知る教育評論家、多くの相談が寄せられる児童相談所への取材を進めると、一筋縄ではいかない放置子の問題点が見えてきた。

 

10回以上もインターホンを鳴らす、夕飯をねだる…放置子の実情

親の関心が薄かったり、多忙で子どもを構うことができず、放置されている“放置子”と呼ばれる子どもが増え、さまざまな問題が近年浮上している。

放置子はネット上で使われる俗称のため統計データを示すことは難しいが、厚労省によれば育児放棄や育児怠慢などの「ネグレクト」に関する児童相談所への相談件数が、2008年の1万5905件から2023年には3万6465件まで増加しているという。

「《ピンポーン》○○ちゃんいますかー? 帰ってきたばかりだもん、いるよね?」

神奈川県内に住むHさんの娘は今年度小学校に入学した。楽しく学校に通っていたものの、ほどなくして帰宅後に毎日お友達が自宅を訪ねてくるようになった。Hさんが困惑気味に言う。

「安全性を考慮して、子どもたちは通学班での下校が学校から義務づけられています。我が家は通学路に自宅があるので、家を知られるのは自然の流れでした。帰宅後に、同じ班の同級生が自宅に来ては、インターホンを鳴らすようになったんです。多いときは10回以上連続で鳴らされるし、応答しないでいると時間を置いてまた来るんです」

この子は、両親が共働きのため帰宅をしても誰もおらず、自分で持っている鍵で自宅に入るという。中学生の兄と姉もいるが兄姉はまだ帰っておらず、Hさんの自宅を訪問するようになった。

「“習い事がある”“お出かけする”と伝えても来つづけたのですが、夫が『自宅でお仕事をしていることもあるから何度もインターホンを鳴らされると困る。毎日予定があるから娘は遊べない』と断ったことでようやく来なくなりました」(前出・Hさん)

親心から放置子を自宅にあげてしまったのは、千葉県在住の小学3年生の息子を持つYさん。

「今年、初めて同じクラスになったお友だちが自宅を訪ねてきました。

息子に確認すると、『今日休み時間に少し一緒に遊んだ○○だ』と言うので、とっさに自宅にあげたんです。17時になり帰るように伝えたものの、いくら言っても帰らず結局19時までいました。

後々、ママ友から“シングルマザーのご家庭で母親が仕事でほぼ家にいない放置子だよ”と聞き、安易に自宅へ招き入れたことを後悔しました。その後も何度か訪ねてきましたが“帰りの時間を守れない子はうちには入れられない”と伝えて、断っています。

今は他のお宅へあがり込み、夕ご飯をねだったり、菓子類を勝手に食べたり、消しゴムや鉛筆がなくなったりしているそうで……。追い返したことを冷たいと感じられる方もいるかもしれませんが、私たちにも生活があるので早めに対処してよかったと思っています。その経験から、いまは親御さんと面識があって連絡先を知っており、帰りの時間を事前に約束できるお友だちのみを入れるようにしています」

放置子はなぜ増えているのか

23年間教壇に立った元教員で、『子育て365日』(ダイヤモンド社)などの著書がある教育評論家の親野智可等氏は放置子増加の背景と放置子の特徴についてこう語る。

「放置子が増えている理由のひとつは、貧困家庭が増えていることです。背景には、自宅時間を満足にとれない必死で働くひとり親家庭の増加、精神疾患やさまざまな理由で働くことができない家庭の存在があります。

愛情はあるけれど、経済的事情により子どもと向き合い愛情をかけたり伝えたりする時間がないと、子どもが愛情不足感を募らせてしまう。愛に飢えた状態で、お友達の家庭に親の愛情を求めてしまう放置子もいます」

このような子どもは、よそのお宅へ行くと普段満たされない気持ちを発散させるように、愛想よく大人に話しかける一方で、家族の話はしたがらないという。

「30年ほど前、教員時代に担任をしていた放置子は7人兄弟のうちのひとりでした。母親は境界知能(※知能指数が“平均的とされる領域”と“知的障がいとされる領域”の境界に位置している)で、子どもを産んだあとの経済面での見通しが甘く、次から次へ出産していたのです。

家庭訪問に伺うと、自宅は片付いておらず、親が洗濯もしていない状況でした。子どもが入浴をしないまま登校する日も少なくありませんでした。

経済的な問題だけではなく、両親共に自営業で仕事に熱中するがゆえに子どもを放置している家庭もありました。忘れものが多いので注意するように伝えても“忘れたら学校に借りればいい”と言い、いっこうに改まらず困った記憶があります。

親自身も放置されて育ったため、“愛情の注ぎ方がわからない”というかたもいました」

このような家庭で育った子どもは、自己肯定感が低い上に、表情が乏しく覇気がない傾向があるという。また、最初に人間関係を築く過程で親への信頼感を育めないことは、その後の人生に暗い影を落とす。

そればかりか、幸せそうな友人の家で無意識に抱く「羨ましい」という嫉妬心や「自分もそこに入れてほしい」という願いが、時として攻撃心に変わることもあるという。親切心から自宅にあげていた放置子が、自分の子どもに暴力を振るうようになったケースもあるのだとか。

放置子を巡るトラブルに巻き込まれたのは東京都在住のNさんだ。

「下校後に何度か家にあげた息子の友人が、休日も早朝から自宅を訪ねてきては玄関前で待ち伏せをするようになりました。出掛けようと外に出ると“ついて行きたい”と言い始めたので、このままではマズイと思い向こうの母親に電話をかけました。

返ってきたのは“私は、お宅に息子をお邪魔させてくれなんて頼んだ覚えはない! 勝手に(家に)あげたのはあなたでしょう? 放置なんてとんでもない、うちは自由主義で息子の意思を尊重しているだけ”と言われ、御礼のひとつもなく怒って電話を切られました」(Nさん)

放置子の対応法は? 

だが、放置子の対応には難しさがあるのも事実。

前出・親野氏は、一人で対応しないことが大切だとアドバイスする。

「放置子から我が子が攻撃を受けたり放置子に迷惑したときには、学校の担任や学年主任など学校側に相談してください。子ども家庭センターや、児童相談所、児童養護施設などの行政機関の力を借りるのもひとつの方法です。

どこに相談すればいいか迷ったときは、市役所で事情を説明すれば適切な窓口を教えてくれるはずです」(前出・親野氏)

だが、第三者への相談はハードルが高いと感じている人も多いようだ。

取材を進める中で、「児童相談所に連絡を入れて良い基準がわからない」と話す保護者が複数いたのだ。相談するうえで「基準」はあるのか?

東京都足立児童相談所の所長は「放置子の定義が定かではないため、申し上げづらいところはある」と前置きしたうえで、こう説明した。

「“気になるな”“心配だな”というご家庭があるときには、ご相談ください。虐待の恐れがある場合はもちろんですが、“気になるな”という程度でもお近くの児童相談所や各市区町村に設置された子ども家庭相談の窓口にご連絡をしていただいて大丈夫です。

通報をした方に対する秘匿性も遵守しますので、“毎晩、〇〇公園に○歳くらいの子どもが一人で遊んでいて気になる”のようなお話でもいいです。

できれば、学校名と名前がわかると、その後スムーズに、ご家庭の状況を親御さんや学校に確認できますし、地域とも連携をはかりやすいです」

今後、放置子を減らして行くためにはどのようなことが必要なのか。前出・親野氏は言う。

「経済的な支援も必要ですが、何よりも生活全般の指導を行う機関が必要になってくるのではないでしょうか。

たとえば、地域住民の生活をサポートしている民生委員をもっと機能させる。

私が担任をしていた父子家庭で、電気代が未払いで、水道は止められ、給食費を払わないお宅がありました。自宅に伺うと、ポストには督促状だらけなのに、横に停めてある自家用車は高級車で驚きました。必要なところに然るべきお金が行き渡るよう指導や監督が必要です」

放置子問題の解決には、地域住民の“親心”も必要だという。親野氏がこう続ける。

「放置子のなかには、“唯一の食事”が給食という子どもも少なくありません。困窮世帯の支援をする認定NPO法人・キッズドアでは食料支援の申し込みもできますが、こうした機関を知らない“放置親”もいるんです。

一般の個人が直接的な支援をするのは難しくても、完全に目を背けるのではなく、組織的な支援につなげるお手伝いはできると思います。先ほどあげた児童相談所などの行政機関に連絡をすることもそのひとつです。

放置子や気になる子どもを見つけたら、可能な範囲でできる親切心は持っていてほしいなと思います」

子どもたちが安全で楽しく暮らせるよう、我々大人も温かく見守っていきたい。

取材・文/山田千穂 集英社オンライン編集部ニュース班

編集部おすすめ