学校のプール授業減少で“泳ぐ場のない子ども”が続出「スイミングスクールの予約も30人の“キャンセル待ち”」と嘆く親…市民プールでは高齢者に舌打ちされる子どもたちも
学校のプール授業減少で“泳ぐ場のない子ども”が続出「スイミングスクールの予約も30人の“キャンセル待ち”」と嘆く親…市民プールでは高齢者に舌打ちされる子どもたちも

6月に入り、全国各地で小中学校の「プール開き」が始まっている。近年では猛暑の影響により屋外に設置された学校のプールではなく、民間の屋内プールでの指導委託を行なう地域もあるようだ。

しかしそれも局所的な取り組みであることから、スイミングスクールに入会させる親も増えている。子供とプールの現状に迫った。 

「学校の授業だけじゃ練習しても絶対泳げないですよ」

子どもの居場所と学びの変化などの状況を追うノンフィクションライターのなかのかおり氏は小中学校のプール授業の現状についてこう話す。

「まず全国の小中学校のプールはほとんどが屋外にあり、(これまでは)雨の日などは水温が低いため授業ができないことがありましたが、最近では温暖化の影響から『熱中症警戒アラート』が発令され、暑すぎてプールが使用できないということもよくある。老朽化したプール施設を修繕するのに、お金がかかりすぎるため、学校の水泳授業を廃止した自治体もあります。

そしてコロナ禍に水泳授業ができなかったこと、また近年、教員の働き方改革が進んでいることもあり、学校の水泳授業がそもそも少なくなっている現状にあります」

そうした動きの中で、小中学校側が現在取っている対策は、①学校プールの拠点化・共同利用、②民間プールの活用、③水泳の実技授業の取りやめという3つの動きなのだという。日本プール利用推進協会の代表理事・山本彩海氏に聞いた。

「①は屋内プールなどを備える小中学校を近隣の小中学校が共同利用するパターン、②は民間プールへの委託で、水泳の授業を継続していく対応なのですが、最悪の場合は③のように水泳の実技授業を廃止し座学のみにする自治体が増えています。

しかし、水泳に関しては水に慣れ親しみ、水難事故にあった際の『仰向けで浮いて待つ』ことなどを体感するのが大事だと思います」

小中学生の子どもを持つ親たちは学校のプール授業のこのような変化をどう捉えているのか。豊島区内の公立小学校2年生の子供を持つ40代のAさんはこう嘆いた。

「学校の授業だけじゃ練習しても絶対泳げないですよ。息子に聞いたらクラスの半分以上が泳げないみたいです。プールや海の事故をニュースでみるとやっぱ怖いですからね。

それにスイミングスクールに通わせたくても予約もとれない状況で30人の“キャンセル待ち”の状況です」

Aさんのようにスイミングスクールに通わせる親は多いという。都内各地のスイミングスクールでも「キャンセル待ち」や「満員状態」の所は多かった。なかには「2年待ち」を経験した保護者もいた。練馬区のスポーツクラブのスタッフは言う。

「学生対象クラスは平日夕方の1クラス40人~50人が常時利用しています。土日は現状キャンセル待ちのクラスもあります。最も人数が多いのが土曜日午前の70人のクラスですが常時満員です。住宅街ということもありますが、ここまで利用者が増えたことの背景にはプールの授業の減少があるとみています。保護者や生徒の話では学校のプールの授業は年々減っているようですし」

新宿区のスイミングスクールも「小学生のお子様は徐々に増えています。大体1クラス10人前後、多いクラスでは20人ほどでやっています」と言い、中野区のスイミングスクールスタッフも「曜日とコースによって人数のばらつきはありますが、基本10人から20人程度で常時定員に達しています」とのことだった。 

公営プールでトラブルも…

“キャンセル待ち”で順番がまわってこない前出のAさんは、6月から近所の区民プールで我が子に水泳を教えるようになった。水泳経験があるわけでないが、自身の子どもの頃の記憶とYouTubeで「なんとかなっている」と話す。

だが、新たな“問題”もあるという。

「都内のプール“あるある”だと思うのですが、子どもが泳ぐレーンと歩くレーンが一緒なんですよね。だから、そこを高齢者のかたが占拠してて、子どもが泳げる状況じゃないんですよ(苦笑)。バタ足でもしようものなら、凄い形相でにらまれるので…」

新宿区の公営プールに通わせる4年生1年生の子どもを持つ父親(40代)も我が子の“プールトラブル”について語った。

「ウチの子は息継ぎが下手くそだから、10メートルも泳げない。初心者専用レーンで練習をするんですが、常連の高齢者のかたが本当にイヤそうな顔するんですよね。なかなか前に進まないと露骨に舌打ちされました。初心者で真っすぐ泳げないから係員さんにもけっこう怒られてしまうし、でもプール教室は空いてない。迷惑がかからないよう毎回閉館ギリギリの30分だけ利用しています」

スポーツ庁が公表した「令和3年度体育・スポーツ施設現況調査の中間報告」によれば、全国の小中学校のプール施設数は約22,036か所となった。25年前の1996年に比べると約6千か所減少しているという。公営プールも1996年から約4割減の3,914か所となっている。この現状を受け、前出の山本氏はこう締めくくった。

「学校と公営のプールを一体的に捉えながら、学校施設の外部化も図りつつ児童の教育機会を損ねないように留意する必要があると思います。プールは重力から解放される場だと考えています。それは児童だけでなく、ご老人はもちろんすべての方の健康維持や癒しの場、『みんなのための施設』として計画的かつ実効的なプール整備が進んでいくことに期待したいです」

山本氏の言うとおり公営プールは決して子どもたちのためだけのプールではない。だが。学校でも民間教室でも練習ができない子どもたちはどこで泳ぎを習うのか。計画的なプール授業改革が行なわれることを願いたい。 

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 

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