
ケーキ、アイスクリーム、ドーナッツにジュース……甘いものは日々の生活を豊かにしてくれるものだが、その食べすぎが認知症のリスクが上げてしまうことをご存じだろうか。
そのメカニズムと恐るべきリスクを、米国老年医学専門医・山田悠史氏の新刊『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』より抜粋・再構成してお届けする。
砂糖入り飲料は糖尿病につながる
あなたは清涼飲料水をよく飲みますか? 水や緑茶ばかりでは飽きてしまうので、炭酸飲料やジュースを選ぶこともあるでしょうか?
かくいう私は生粋のスイーツ男子であり、甘い清涼飲料水はあまり飲まないものの、代わりにコーヒーと相性ピッタリなスイーツを愛して止まないので、胃の中では砂糖入りのコーヒーを飲んでいるのと同じ。本当は甘い物と健康なんていう題材の文章すら書きたくないと思いながらも、残念ながら目を瞑るわけにもいかないので、これを書いています。
砂糖入りの清涼飲料水は、改めて言うまでもないかもしれませんが、私たちの健康に大きな影響を与える可能性があります。
ある大規模な研究では、砂糖入り飲料をよく飲む女性は、そうでない女性と比べて2型糖尿病(遺伝的な要因に環境的な要因が加わり血糖値が高くなる疾患)を発症するリスクが83%も高くなることが報告されています。具体的には、一日に1本以上の砂糖入り清涼飲料水を飲む女性は、月に1本未満しか飲まない女性と比べて、糖尿病発症リスクが1.83倍になると報告されています(※1)。
同じような結果は、4万人近い人が対象となった別の研究でも確認されています。この研究では、砂糖入り清涼飲料水を飲む量を増やしていくと、糖尿病の発症リスクが一日1本あたり18%ずつ増えていくことが示されました(※2)。甘い飲み物は飲む量が多くなればなるほどリスクが高くなるというわけです。
また、同様のリスク増加は、残念ながら人工甘味料を用いた「カロリーゼロ」の飲み物や「健康に良い」はずの果物のジュースでも見られており、人工甘味料や果物のジュースが糖尿病リスクという意味では良い置き換えにならない可能性も指摘されています(※2)。「カロリーゼロ」スイーツも封じられてしまい、もうスイーツ男子の私には逃げ場がありません。
甘い飲み物が糖尿病につながる理由はさまざま考えられていますが、中でも、体重増加が最も重要な要因である可能性が高いようです。先述の研究でも、調査期間中に砂糖入り清涼飲料水を飲む量を増やした女性は、飲む量が変わらなかった女性と比べて、より大きく体重を増やしています(※1)。
そして、なぜここで糖尿病リスクを話題にするかと言えば、糖尿病もまた、認知症の大きな要因の一つであると考えられているからです。
糖尿病になる年齢が若いほど、認知症になる確率が高まる
あなたは糖尿病について、もしかすると単に血糖値が高くなる病気としか考えていなかったかもしれません。もしくは、目や腎臓が悪くなる病気ということはご存じだったかもしれません。しかし、実は糖尿病は認知症とも深く関わっているのです。糖尿病、中でも2型糖尿病は、認知症発症のリスクを高める重要な要因として知られるようになりました。
また、最近の研究によれば、「糖尿病をいつ発症するか」も認知症リスクに大きな影響を与えることがわかってきました。
ある大規模な研究では、2型糖尿病の発症年齢が5歳若くなるごとに、認知症のリスクが24%も増加することが報告されています(※3)。つまり、糖尿病になる年齢が若いほど、将来認知症になるリスクが高まるのです。
一方で、70歳を過ぎてから糖尿病を発症した場合、認知症リスクとの関連はそれほど明確ではありません。つまり、特に働き盛りのうちに糖尿病を発症しないよう予防することが、認知症予防にもつながりそうなのです。
ビジネスパーソンが、仕事の引退が間近になって、仕事に余裕が生まれ、急に健康に気をつけ始めるというのを医師として目にすることが度々ありますが、それでは間に合わないかもしれないということです。
では、なぜ糖尿病が認知症リスクを高めるのでしょうか?
糖尿病が認知症の要因となる理由
1、血管の損傷
糖尿病は長期的に血管を傷つけ、脳梗塞のリスクを高めます(※4)。これが血管性の認知症につながる可能性があります。
2、インスリンへの反応の低下
2型糖尿病では、体の細胞がインスリン(すい臓から分泌されるホルモン)に反応しにくくなることが知られています。インスリンは、血管の中にある糖を細胞の中に取り込むのに重要な働きをしています。
3、体内での炎症
糖尿病を発症すると、体の中では炎症が起こりやすくなることが知られています。例えば、血糖値が高い状態が続くと、タンパク質や脂質が糖と結びつき、こうした物質が体の中で炎症を引き起こします。また過剰になった内臓脂肪も炎症の原因となります。そして、この炎症が認知症リスクを高める可能性があるのです(※3)。
糖尿病の薬が認知症リスクを下げたり上げたりする
しかし、仮に糖尿病を発症してしまっても、特定の種類の糖尿病治療薬が認知症リスクを下げる可能性があると示した研究結果も存在しています。
例えば、糖尿病のある人が、SGLT2阻害薬と呼ばれる種類の薬を使って治療をすると、認知症リスクを59%低下させること、GLP―1受容体作動薬と呼ばれる種類の薬がリスクを66%低下させることが報告されています(※6)。一方で、スルホニル尿素薬と呼ばれる薬を使った場合には、認知症リスクが43%増加するとも指摘されています(※6)。
ただ「治療をする」と言っても、薬の選択によって将来の認知機能が変わってくる可能性があるということです。糖尿病を発症した場合、あなたの認知症リスクは医師の薬の選択にもかかっているのかもしれません。
いずれにせよ、まずは2型糖尿病になるのを防ぐこと、そして仮に糖尿病になっても、適切に治療をすることが重要です。糖尿病は決して血糖値だけの問題ではありません。
参考文献
※1. Schulze MB, Manson JE, Ludwig DS, Colditz GA, Stampfer MJ, Willett WC,Hu FB. Sugar‒sweetened beverages, weight gain, and incidence of type 2diabetes in young and middle‒aged women. JAMA. 2004;292(8):927‒934.
※2. Imamura F, O’Connor L, Ye Z, Mursu J, Hayashino Y, Bhupathiraju SN,Forouchi NG. Consumption of sugar sweetened beverages, artificiallysweetened beverages, and fruit juice and incidence of type 2 diabetes:systematic review, meta‒analysis, and estimation of population attributable fraction. BMJ. 2015;351:h3576.
※3. Barbiellini Amidei C, Fayosse A, Dumurgier J, Machado‒Fragua MD, Tabak AG, Van Sloten T, et al. Association Between Age at Diabetes Onset and Subsequent Risk of Dementia. JAMA. 2021;325(16):1640‒1649.
※4. Xue M, Xu W, Ou YN, Cao XP, Tan MS, Tan L, Yu JT. Diabetes mellitus and risks of cognitive impairment and dementia: A systematic review and meta‒analysis of 144 prospective studies. Ageing Res Rev. 2019;55:100944.
※5. Michailidis M, Moraitou D, Tata DA, Kalinderi K, Papamitsou T, Papaliagkas V.Alzheimer’s Disease as Type 3 Diabetes: Common Pathophysiological Mechanisms between Alzheimer’s Disease and Type 2 Diabetes. Int J Mol Sci.2022;23(5):2687.
※6. Tian S, Jiang J, Wang J, Zhang Z, Miao Y, Ji X, Bi Y. Comparison on cognitive outcomes of antidiabetic agents for type 2 diabetes: A systematic review and network meta‒analysis. Diabetes Metab Res Rev. 2023;39(7):e3673.
文/山田悠史 サムネイル写真/Shutterstock
『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』
山田 悠史