巨人が負けると不機嫌になる“昭和型オヤジ”は今も存在するのか!? 「父のキゲンは巨人が決めている」ジャイアンツ公式の投稿が賛否で
巨人が負けると不機嫌になる“昭和型オヤジ”は今も存在するのか!? 「父のキゲンは巨人が決めている」ジャイアンツ公式の投稿が賛否で

父の日である6月15日、読売巨人軍(ジャイアンツ)公式Xが、「父とジャイアンツ」なる企画で複数のイラストを投稿した。いずれの内容も、「あなたのお父さんとジャイアンツの思い出はありますか」と問う心温まる内容だったのだが、うち1つは「時代錯誤」などと大きく物議をかもす結果になってしまった。

 

〈父のキゲンは、巨人が決めている。〉

話題となったのは、読売巨人軍(ジャイアンツ)公式Xが投稿したポストだ。テレビで巨人戦中継を観ている笑顔の男性のイラストに〈父のキゲンは、巨人が決めている。〉というキャッチコピーが添えられている。好きな球団が勝てば気分も上がるというファン心理を、巨人ファンの父に重ねてノスタルジーを誘っている。 

しかし、狙いに反して、同投稿には〈忌まわしい思い出〉〈おかげで野球自体が大嫌いな大人になった〉といった批判的意見も集まった。

中でも目立ったのは、〈現代ではそこまででもないだろうが、これ一昔前は本当にシャレにならない思いをして(被害を受けて)きた人たちがいる話〉〈昭和だと笑い話だけど令和だと毒親感がすごい〉〈典型的な昭和の癇癪持ちお父さんが容易に想像ついちゃうじゃんか!? 今モラハラとかDVが問題視されてんだし〉など、“時代錯誤”を指摘する声だ。

たしかに、昭和~平成中期ごろのプロ野球は国民的娯楽といわれ、中でも巨人は全国にファンを擁する人気球団として君臨した。

それゆえに、巨人の試合展開で一喜一憂するという父親は“あるあるネタ”として扱われ、昭和を舞台にした漫画・アニメ『ちびまる子ちゃん』でも、父・ヒロシが巨人戦中継でイラつき、家族に気を遣わせるシーンが描かれている。

しかし、現代では娯楽の多様化も進み、こうした人物を見聞きすることも激減した感がある。

果たして、家庭や職場に気を遣わせてしまうような、“巨人の試合結果で機嫌が変わるオヤジ”という古き良き(?)ファンは今も存在するのだろうか。

調査を行なうべく訪れたのは、サラリーマンの街として知られる東京・新橋。

日夜、家庭のために働く父親も多いこの地で、くだんの巨人ファンを探してみた。

「僕は20年以上巨人ファンですけど、今はほぼいないと思います。感覚ですが……東京ドームのライトスタンドに行く熱心なファンの中でも、そういう人は1割くらいじゃないかと」(32歳男性) 

「いるとは思うけど、イライラは心の中だけに抑えていると思う。職場や家庭でピリつくのって、今は問題になるし。それでも我慢できなかったら、野球好きの集まる居酒屋とかでガス抜きしてるんじゃないかな」(51歳男性)

巨人ファンの“聖地”の居酒屋で聞いてみると……

居酒屋でストレスを発散しているのではないかという話が予想より多く上がったため、SL広場からすぐのニュー新橋ビル地下にある野球居酒屋・三冠王も訪ねてみると、巨人に限らず野球好きが集まり、この日も各球団のファンでにぎわっていた。

スーツ姿の団体客に話しかけると、「巨人が負けると不機嫌になる」という男性を発見! しかし、程度はかなり軽めのようだ。

「昨日(6月19日・日本ハム戦)もノーヒットノーランされかけて超イライラしたよ! 交流戦弱いのに、また汚点を増やすのかと(笑)。でも、周りに当たることはしないね。自分の中で消化してるし、家族も『今日負けちゃったね』くらいの感じで話すだけ」(44歳男性・ファン歴30年以上)

隣にいた別の野球ファンの男性は言う。

「俺が小さいころは、そういうおじさんいたよ。学校の先生とか、日本シリーズみたいな大事な試合で巨人が負けると、公立なのに次の日は自習にしたことあったんだから!(笑)。嫁の親父も、負けるとめっちゃ機嫌悪かったもん。

今は野球以外にも娯楽はあるし、もう“絶滅危惧種”でしょ。

いたとしても、家族で1つのテレビを見る時代じゃなくて、部屋でスマホやパソコンでテレビを観れるから、不機嫌になる父親は目に入らないんじゃない?」(56歳男性)

続いては、西早稲田の野球居酒屋・酒美道場を訪問。同店は巨人ファンが集まる聖地として有名だが、果たして“絶滅危惧種”はいるのだろうか……。

「父がそうでした。外食に行くとき、カーラジオの中継で巨人が負けてると、せっかくの外食なのに店でも機嫌が悪かったり。家でも、チームが負けていると、私にトレーニングと称してしばらく中腰をさせたりして、完全な腹いせでした(笑)」(36歳男性・ファン歴20年以上) 

 「ずっとファンだけど、最近そういう人は聞かないです。たぶんそういうのって、テレビが一家に1台とか、父親が強い時代で、チャンネル権を父が握ってるとかも影響してたと思うから、共働きや男女平等が進むにつれて減っていったんじゃないかと」(34歳男性・ファン歴約25年)

なかには今でも巨人が負けると不機嫌になるという客もいたが、話を聞くと“過去のこと”だそう。現在はすっかり丸くなったというが、なぜ以前は荒れていたのか。

ファンですら「絶滅危惧種」と認識

「V9の後、長嶋茂雄さんが最初に監督になった年からのファン。昔は負けたらテレビを叩いたり、モノを投げたり、よく当たってたよ(笑)。

昔の巨人はスターぞろいだし、エンタメの王道で、中でも王さんのHRは“華”だったわけ! そのぶん、負けたときは落胆も大きくて荒れやすいんだよね。でも、10年くらい前からやらなくなった」(59歳男性・ファン歴50年)

やはり現代には、巨人の勝敗で周囲に気を遣わせるほど情緒の乱れるオヤジはいないのか。その後は巨人の試合後を狙い、東京ドームの最寄り・水道橋駅と後楽園駅の周辺でも聞き込みを行なった。

 

この日の巨人は西武に5-0の完封負け、ファンも内心イラついているはず。不機嫌なオヤジの遭遇チャンスだが……。 

 「後楽園球場の時代から親父と一緒に来てたけど、親父は巨人が負けると不機嫌になってたかも。やっぱり、常勝球団だと負けたときの落胆もデカいんだよ。でもそういう人も減ったよね。俺も怒るまではいかない」(64歳男性・ファン歴55年) 

「父は巨人が負けると怒ってましたね。僕は怒るまでは行かないけど、今日、一緒に来た人も怒ってました(笑)。

でもこれって、歴史的に巨人が常勝球団だからこそだと思うんですよ。他球団のファンなら、負けても『まぁいいか』となるけど、巨人ファンは格下にやられた感覚になるから、余計にイラつくんじゃないですかね」(47歳男性・ファン歴36年)

その後、今も試合結果で不機嫌になるという高齢のファンを発見。しかし、今はかなり丸くなったという。 

「川上哲治・青田昇の時代からファン。今も負けたら腹立つし、独り身だから気兼ねなく怒ってる(笑)。

でも、昔ほどじゃなくなったね。若い頃、負けたから怒って電球を殴ったことがあるんだけど、破片が床に散らばって大変なことになって。それからは抑えてる」 (84歳男性・ファン歴60年超) 

こうして各地で巨人ファン中心に計100人を調査した結果、「今でも巨人の試合結果で不機嫌になる/なる人を知っている」と答えたのはわずか5人。「こういう人って巨人ファンの何割くらいだと思う?」との問いには「1割くらい」「1割未満」の回答がもっとも多かったため、人々の肌感覚にも近い結果となった。

生態としては野球居酒屋や球場周辺に潜んでいるが、巨人が交流戦で12球団中11位に沈むストレスフルな状況でさえ、エンカウント率は約5%……。出会うのは幻のポケモン並にレアといえるだろう。

「昭和は遠くなりにけり」ということか。

取材・文/久保慎

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