
「手取りを上げる」という政策で国民の期待を集め、一時は玉木代表の不倫スキャンダルすら「#不倫よりも減税」というハッシュタグで擁護されるほどの勢いを誇った国民民主党。だが今、その支持率が減速傾向だ。
候補者公認問題で支持率が下落
一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだった国民民主党の支持率が下落している。もともと低下傾向にあった同党の政党支持率は、山尾志桜里氏を始めとした候補者公認問題によって急落した。
いったい、国民はこの短期間で、国民民主党の何に期待し、何に失望したのだろうか。そして、件の候補者公認問題とは何だったのか。参院選前にその総括をしておきたい。
というのも、参院選後も衆議院は与党が過半数を維持していないハング・パーラメントの状態は継続するからだ。そのため、国民民主党が昨年末以降、本来は何をするべきで、何をしないべきだったかを考えることは重要だ。
市民が、同党に支持を与えた直接要因は「手取りを上げる」という同党の政策への支持である。基礎控除の引き上げは明快な政策目標であり、多くの国民には度重なる増税の連続で辟易した政治環境を打ち破る突破口のように見えた。
そして、減税政策で支持を受けた国民民主党の玉木代表はスターダムに躍り出た。その勢いは玉木氏自身の不倫スキャンダル問題が起きた際、SNS上で「#不倫よりも減税」という言葉で、同党に対する擁護の声が存在するほど強かった。
自民党と結んだ「空手形」
しかし、国民民主党は昨年末に自民党との間で基礎控除拡大とガソリン暫定税率廃止の空手形を掴まされたまま、与党の巧みな政権運営に振り回され続けた。
歴戦の政局巧者である自民党と空手形を結ぶ行為がそもそも無謀であり悪手であった。
もともと自民党税制調査会は、密室で毎年の税制改正の詳細を決める秘密会方式である。その自民党税調を白日の下に引きずり出したまでは良かったが、今度は国民民主党が自民党との交渉をブラックボックス化したことは悪手だった。
玉木代表ら国民民主党は与党から言質を引き出すためにあえて密室による交渉を選んだのだろうが、この交渉は与党側に他に交渉相手がいる政治環境では最悪のやり方だった。
結局、与党側は日本維新の会との交渉を優先し、国民民主党は実質的に捨てられることになった。その時に手元に残ったのは期限も書かず、実効性がない約束が書かれた紙切れ一枚だった。
いわくつきの公認候補者をあえて密室で選ぶ行為
その後、国民民主党は更に迷走していくが、その真の要因は「ブラックボックス」体質である。特に大問題となった4名の元国会議員らの公認候補者選定は「オープン」な政治とは全く異なるものであった。
まして、4名の候補者選定が最初に問題視された記者会見で「嫌ならその候補者に投票しなければ良い」という趣旨が党から発されたことは致命的だったように思われる。
功を焦って与党との密室調整するのではなく、有権者の支持を受けて国会で堂々と議論することが大事であった。そして、いわくつきの公認候補者をあえて密室で選ぶ行為を慎むべきであった。
しかし、それだけでは支持率が低下することを防止するだけで、国民民主党への期待感を更に引き上げることには必ずしも繋がらなかったことも事実だ。
なぜなら、それは議員数が20名程度の政党のガバナンスに関する基本ルールに過ぎない。
昨年の衆院選後、手にしていた政界再編というカード
市民が国民民主党に与えた支持率は政治資源として同党に飛躍の機会を与えるものだった。同党の高かった支持率は、他の野党に属する国会議員にとっても同党に鞍替えする要件として魅力的に見えたはずだ。
したがって、衆院選後、国民民主党執行部は政界再編というカードを常に持っていたことになる。ただし、彼らにはそれを実行する発想や手腕がなかった。
これは候補者公認問題で問題視された4名の人々の顔ぶれを見れば分かる。国民民主党が適当なお友達を拾ってくるだけで、何も大きな政治を動かすつもりがなかった。
まず、山尾志桜里氏や須藤元気氏については、そもそも立憲民主党的な部分がある人物だ。立憲民主党的な人物を欲しかったなら、同党からやや保守的な前代表の泉氏のグループごと引っこ抜いてくるべきだったのではないか。
減税政党による政権交代の実現を目指すべきだった
また、足立康史氏のような何度も懲罰動議を受けた元維新議員も本当に必要だったのか。日本維新の会からお払い箱になった人物ではなく、維新現執行部に干されている前執行部を引き抜く努力をすべきだった。在野にも有力な元維新議員は他に幾らでもいるはずだ。
薬師寺道代氏は元々みんなの党から自民党に移った人物で、インパクトに欠けた。
国民民主党執行部が上記の4名を選ぶのではなく、政界再編のために汗をかけば、参議院議員選挙前に野党第一党を狙える位置につけられたことは確実だ。国民民主党が一時的に有していた政党支持率があれば、政界再編を仕掛けることはできたはずであった。
では、なぜ、このような動きに出なかったかと言えば、それは政権交代の勢いがある野党第一党を作るのではなく、国民民主党執行部が自民党と密室で再交渉するスタイルを続けたからだろう。
国民民主党がやるべきであったことは、日本国民のために覚悟を決めて、減税政党による政権交代を実現する方向を目指すことであった。すでに国民民主党がそれを実現できる芽は小さくなっているのではないか。仮に参院選後に台頭する新勢力があったとすれば、同党の失敗を肝に銘じてほしい。同じ間違いを繰り返してはならない。
文/渡瀬裕哉