
集中力が途切れる、イライラする、首の後ろがずんと重くなる――といった症状があるなら、それは糖尿病・肥満・高血圧症・脂質異常症といった重大な病気の入り口かもしれない。こうした病気に深く関わっているのが「糖質」だ。
「甘い物は別腹」のメカニズム、肌に果糖が悪い理由を書籍『脂質起動』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
果糖はほかの糖質よりも危険
脂質と違い、糖質はいくら食べても満足感が得られにくいため、食べすぎて(エネルギー過剰摂取になって)食後高血糖と糖質疲労を引き起こしたり、肥満を招いたりする恐れがあります。
中でも危険な糖質が、果糖(フルクトース)です。甘い果物やフルーツジュースのほか、清涼飲料水や加工食品の甘味料として添加されています。
砂糖(ショ糖)も、ブドウ糖と果糖が合体したものですから、砂糖の摂取は果糖の摂取につながります。甘い果物を加えたスムージーや野菜ジュースだけではなく、砂糖を入れたコーヒーやエスプレッソドリンクなども果糖の過剰摂取につながります。
なぜ果糖は危険なのか。
それは代謝経路がほかの糖質と全く異なるからです。
「脂肪肝」を招く怖い「果糖」、「甘いものは別腹」は本当
ブドウ糖などの糖質は小腸から体内へ吸収されて血糖値を上げますが、果糖は小腸から門脈を通ってほとんどが肝臓で処理されます。ブドウ糖は約80%が筋肉で処理され、残りの約20%が肝臓で処理されるのに対し、果糖はほぼ100%が肝臓で代謝されるのです。
肝臓へ送られた果糖は肝臓で燃やしきれず、貯蓄されるのですが、その貯蓄のために中性脂肪に変換されます。果糖の摂取が多すぎると、肝臓に中性脂肪が蓄積して脂肪肝になるのです[Diabet Med 2015;32(9):1149-1155]。肝臓を作る肝細胞のうち30%以上が内部に中性脂肪をためている状態を脂肪肝と呼びます。
脂肪肝に陥ると、インスリンの効き目が悪くなるインスリン抵抗性が生じるため、質を量で補おうとインスリンが大量分泌されるようになり、肥満ホルモンとしての作用で太りやすくなります。
それだけではありません。肝臓で果糖を代謝する際に、非常に多くのエネルギーが消費されます。するとエネルギーが減り、肝臓からは、脳へ「もっと食べろ!」という指令が送られます。
こうしたメカニズムがあるため、ジュースなどから果糖を摂るとお腹が空きます。「甘いものは別腹」というのは本当で、果糖の仕業なのです。
果糖を摂るとなぜ食欲が増すのか。それに関して米国コロラド大学の研究者が「果糖生存危機仮説(Fructose survival hypothesis)」という興味深い仮説をアメリカ肥満学会の機関誌『Obesity』に発表しました[Obesity(Silver Spring) 2024; 32(1): 12-22]。
肝臓でエネルギーがどしどし消費されている状況を、脳は生存の危機を迎えている状態だ(冬眠の直前の時期で、いまこそ脂肪を蓄え、エネルギー消費を低下させておかないと、冬眠中に餓死してしまう)と解釈します。
このため飢餓感から食欲が高まり、飢餓に備えた備蓄エネルギー源である体脂肪の合成を促したり、分解を抑えたりするというのです。
「肌老化」を進めやすい「果糖」
もう一つ、果糖を抑えるべき理由があります。果糖は肌の老化を進めやすいとされているのです。
糖質を摂取すると、体内ではその糖質がたんぱく質やアミノ酸と結びついてAGEs(エイジス)という物質が生じます。パンをトースターで焼くと「メイラード反応」という反応が起こり、こんがりキツネ色になり、香ばしい香りが立ちます。
それと同じことが体内では、高血糖ゆえに糖質とアミノ酸が反応して生じるのです。
パンがキツネ色になることからもわかるように、AGEsは褐色の物質です。肌でAGEsが生じるとシミやクスミの誘因となります。また、皮膚を作るコラーゲンというたんぱく質にAGEsがくっつくと本来の弾力性が低下してシワの誘因にもなります[Anti-Aging Medicine 2011;8(3):23-29]。
そして果糖はブドウ糖よりもAGEsを発生させやすいのです[Diabetes 2016; 65: 3521-3528]。
肌によさそうだからと毎朝のように果物を食べたり、砂糖(≒果糖)や果汁入りのコラーゲン美容液などを飲んだりしていると、AGEsがシミ、クスミ、シワなどの引き金となり、肌老化に拍車がかかる恐れがあります。
活性酸素による「酸化」は老化やがんなどの誘因と聞いたことのある方は多いでしょう。酸化とは、有害な活性酸素が招く「サビ」のような反応が連鎖すること。AGEsはこの危険な酸化も加速させます。体内で酸化を抑える抗酸化作用を、AGEsが抑えてしまうからです。
いつまでも若々しくいるために、果糖をやめ、脂質を摂るのです。
写真はすべてイメージ 写真/Shutterstock
脂質起動
山田 悟
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●糖質過多で「脂質起動」が妨げられていた
●「脂質を食べる」と「落とせなかったお腹の脂肪が減る」その仕組み
●ジムに行けない日こそ「脂質たっぷり」が正解のワケ
●「甘いものは別腹」は本当、「脂肪肝」を招く怖い「果糖」
●「脳に糖分を!」と甘いものを常に食べていませんか?
●糖質過多だと“脳のゴミ・アミロイドβ”が掃除されない?
●「脳の唯一の栄養は糖」はウソ、「超脂質食」こそ脳にやさしい
●「発がん」にも「がんの成長」にも関与する「果糖」!?
●脂質を摂ると「脂質異常症」「動脈硬化」のリスクが下がる
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●食べる前の「手のひらナッツ」が肥満も疲れも防いでくれる
●糖質は控えめ、脂質とたんぱく質は「満腹になるまで」食べなさい