
2024年5月に発売された、お笑い芸人・にゃんこスターのアンゴラ村長のデジタル写真集『151センチ、48キロ』(講談社)は、自身の身長と体重をそのままタイトルにした“自然体”のコンセプトが評判を呼び、タレント写真集の新しい可能性を示した。
そんな前作のヒットを受け、このたび初となる紙の写真集『標準体型』(講談社)が発売される。
「撮影の直前だけ無理に頑張ってもたかが知れる」
──前作のデジタル写真集『151センチ、48キロ』は、売り上げも評判も好調でしたね。
アンゴラ村長(以下同) ありがとうございます。芸人として活動する私が写真集を出すのに、アイドルの方たちと同じノリでやったらとんでもないことになるのはわかっていたので、それとは違うコンセプトにしたことが、多くの人に受け入れられたんだと思います。
──あくまで「標準体型」のままを写す、という。
はい。アイドルの方たちは、普段から美しくいることを心がけて、そのための努力をたくさんしていますよね。そのうえで、写真集を出すとなったら、さらに体型を絞ったり、美容に気を遣ったり。でも私は夜な夜な飲み歩いて、肉ばっかり食べているような生活をしているので、そんな人間が撮影の直前だけ無理に頑張ってもたかが知れるというか。だったら、ありのままで撮ってもらったほうがいいかなと。
──そして、新たに出版される紙の写真集『標準体型』でも、前作のコンセプトを引き継いでいます。
新しい写真集では、下着の上にお肉がのっている写真とかも普通にあるんですけど、でもそれが本来の姿なんですよね。
前作で、せっかく「ありのままの自然体がいい」と言ってくださる方が多かったので、そこは嘘をついたらいけないなと思って、今回はよりリアルな姿を撮影してもらいました。
──写真集のモデルになるのは、芸人の活動とはだいぶ違うお仕事ですよね。
さすがにライブでも下着姿にはならないですからね(笑)。でも、それで私が恥ずかしがってモジモジしていたら、現場のスタッフさんにもご迷惑をかけてしまうので、やると決めたからには覚悟を決めて。
そもそもスタッフさんたちは、グラビア写真集の現場を日常的に経験している方たちなので、恥ずかしがる必要もないですし。なので、いっそ「私はグラビアアイドルなんだ」というマインドでのぞみました。
──撮影の現場はどういう雰囲気でしたか。
めっちゃ褒めてもらいました。しかも、前作に続いて撮影していただいたカメラマンの東京祐さんは、わかりやすくテンションを上げる感じではなく、小さい声でしみじみ「うん、かわいい……」って、つぶやきながら撮ってくださるんですよ。それが沁みましたね。
あまりの気持ちよさに、撮影の直後はグラビアアイドル気取りで過ごしましたけど、ライブでいつものステージに立った途端、無理やり現実に戻されました(笑)。
加工アプリでかわいくなるのはポテンシャルがあるから
──「普通である=標準体型」をコンセプトに掲げたことで、普段はタレント写真集などには興味を示さない層にも届きましたよね。
それはめっちゃありました。標準体型を売りにしたことで、芸人やタレントさんの写真集とは全然違う受け止め方をしてくださる方がたくさんいて、取材やゲストに文化人の枠で呼んでいただくことが増えたんですよ。「ボディ・ポジティブについて語ってください」というような。
たとえば、評論家の荻上チキさんの番組『荻上チキ・Session』(TBSラジオ)に呼んでいただいたときは「体型をポジティブにとらえる」というテーマでした。同じコーナーに出ている方を見たら、歌人の俵万智さんがいて、これは文化人枠だ……って。
──「ボディ・ポジティブ」という言葉は制作時から意識していたのですか。
言葉としては意識していなかったので、結果的に、ですね。写真集のためにダイエットをすることを否定するつもりもないですし、むしろ、アイドルの方が見た目に気を遣って努力をしていることは素晴らしいと思っています。
アイドルは多くの方が、活動が若い短い期間に限られているので、その期間に理想の体型を追い求めて努力することもすごいことだと思います。
ただ、自分は同じところを目指していく必要はなくて、さらには自分が写真集を出す意味もなきゃと考えました。
ご飯をおいしそうに食べている姿だったり、旅先ではしゃいでいる姿だったり、そういう写真で女性のかわいらしさを出せたらいいなと思いました。
写真集なので、どうしても見た目に注目が集まるのは仕方がないですけど、私としては、内面から出るかわいさとかを意識しているんです。
──写真のセレクトにも積極的に参加したと聞きました。
出版社まで行って、いろいろ口出しさせていただきました(笑)。「この写真の次にこれがくると、急に昼から夜の感じになっちゃいますね」とか「もっとご飯を食べている写真を入れましょう」とか。担当編集さんから「普通はここまでしませんよ」と言われましたけど(笑)。
───「ボディ・ポジティブ」の声が高まる一方で、SNSにアップされる写真はアプリによる加工がもはやデフォルトになっています。
もう何でもできちゃいますよね。私も自分と相性ぴったりな加工アプリを発見したときはアガりました。でもそれで思ったのは、アプリでかわいくなれるってことは、それだけのポテンシャルが自分にはあるってことなんだなって。
アプリの加工って、その人の良さを引き出して良い方向に大きくして、理想の自分や憧れの自分を見せてくれるっていう利点もあると思うんです。アプリで加工された自分を見て「こうなれるポテンシャルがあるんだ!」と、その方向性を参考にしてメイクを頑張ったこともあります。
ギャルのあゆにはなれなかったけど、森ガールなら……
───写真集を出す前から、あまりコンプレックスを感じたりはしなかったほうですか。
インタビューとかを読むと、とんでもなくきれいな女優さんでもコンプレックスがあるとおっしゃっていたりするので、そう考えるともう、どこまでいってもキリがないんだなって思います。
私も自分の鼻をコンプレックスに感じている時期があったんですけど、あるときふと、その鼻がおばあちゃんに似ていることに気がついたんです。
なので、自分なりの物語だったり、好きになるきっかけを見つけることも、自分の見た目と生きていくための一つの手段かなって。
───好きな人や憧れの人にほめてもらったとか。
そうですね。他人と比較しての良い悪いではなく、自分だけの好きになる物語を見つけるのがいいと思います。
───今でも昔でも、憧れを抱いた人はいますか。
小学1年生のときから浜崎あゆみさんのことが大好きで、めっちゃ憧れてました。当時は自分の顔よりあゆの顔を見ていたくらいなんですけど、鏡に写った素朴すぎる自分の顔を見て、派手でギャルのあゆとのあまりの違いにだいぶショックを受けましたね。そのショックをしばらく引きずっていたんですけど、中学生の時に「森ガール」というのが流行りまして……。
───派手なギャルとは違う方向性の、素朴なテイストが。
はい、かなりナチュラルな方向性で。大変おこがましいのですが、森ガールファッションのモデルさんを見て、こっちの方向ならあゆよりはまだ近づけるというか、こういうかわいさもあるんだってことを知ったんです。
いろんな種類のかわいさを知って、自分に似合う系統を見つけることも大事なんだなって、そのときに気づきました。
もちろん、似合うとか関係なく好きなファッションを着続けるかっこよさもありますし、自分に似合うファッションを探す楽しさも、両方あるんだなって。
#2 に続く
取材・文/おぐらりゅうじ 撮影/石垣星児
スタイリング/小西沙良 ヘアメイク/鈴木かれん
ワンピース¥13980/Katrin TOKYO お問い合わせ先:katrin.tokyo@gmail.com
アンゴラ村長1st写真集 「標準体型」
東 京祐 (写真)