
2024年5月に発売された、お笑い芸人・にゃんこスターのアンゴラ村長のデジタル写真集『151センチ、48キロ』(講談社)は、自身の身長と体重をそのままタイトルにした“自然体”のコンセプトが評判を呼び、タレント写真集の新しい可能性を示した。
そんな前作のヒットを受け、このたび初となる紙の写真集『標準体型』(講談社)が発売される。
才能だらけの芸能界で「普通である」ことが売りになった
──写真集を出したことで、その後の芸人活動には何か影響がありましたか。
アンゴラ村長(以下同) にゃんこスターとしては『キングオブコント』の決勝にもう一度行くことを目標にしているので、最初は「笑いづらくなったりしないかな」という心配もちょっとありましたが、1年経ってみて、それは関係なかったですね。
いつもライブに来てくれるようなファンの方たちの中にも、写真集を買ってくださった方はもちろんいますけど、それとは別で、普段は私のことを別に追いかけているわけではないけど、写真集は買ってくださった方というのがたくさんいて。どちらにしても、お笑いにはまったく影響がないことがわかりました。
熱心なファンの方は私がどんなことをしても、活動のすべてを応援してくれるし、写真集だけの人はお笑いに興味があるわけではなく、アイドルとか女優さんの写真集が好きだったり、単純に話題のものとして買ってくれたりした方たちで。でも、そういう方にも刺さったのはとてもうれしいです。
──写真集でアンゴラ村長のことを知って、ライブへ行くようになった、みたいなパターンはないんですかね?
少なくとも私の観測範囲では、それがまったくないんですよ。写真集が売れたことで、新しい方たちに顔と名前を知ってもらえたことは確かなのに、ライブの動員数がまったく変わらないんです(笑)。写真集が売れても、ライブのチケットは売れないことを実感する1年でした。
──一方、写真集を出したことによる、ご自身への影響というは?
私は23歳で芸能界に入ったんですけど、入ってみて初めて、というか改めて、この世界にはとんでもない才能や実力のある方々がこんなにもいるんだってことを目の当たりにして、自分には一体何ができるんだろうって、ずっと考えていたんです。特別な能力もなく、強烈なキャラクターがあるわけでもない。
それがここへ来て「普通である」ことが売りになったんです。写真集のタイトルでありコンセプトでもある体型のことに限らず、雰囲気とかも含めて、「親近感がいい」という声もたくさんいただいて。才能だらけの芸能界の中では、普通であることが逆に珍しくなって、まさかこんなに評価されるとは……。
でもそれは、何も持っていないということではなく、それが私の個性なんだって思えるようになりました。無理に特別なことを求めなくても、好きに生きていく中で好きなところを見つければいい。それに気づけたことは大きな発見だったし、自信にもつながりました。
写真集を出しても「芸人のくせに」と言われない時代になった
──写真集を出したことで「笑いづらくなったりしないかな」という発言もありましたが、芸人とルックスの関係、良くも悪くも、ルックスの評価がつきまとうことに対してはどう向き合っていますか。
ルックスも含めて、その人の生まれ持った個性ではあるので、そのまま受け止めたらいいのかなとは思っています。
とくにお笑いの世界でいうと、女性の芸人さんが体を張って笑いをとる企画とか、何も考えずに笑えるし、かっこいいなとは思うんですけど、やっぱり自分にはできない。私の顔や体型や持っている雰囲気って、体を張ってもあんまり笑いにならないんですよね。だからそこは自分の持っているもので戦うしかない。
そういう意味で、体型を武器に笑いをとる人がいてもいいし、逆に、すごくルックスがよくて人気になる人がいてもいい、と私は思います。
──SNSのコメントや意見はあまり見ないんですよね。
そうなんです。私は「いいね」が1000を超えたら見ないと決めていて。そこを超えると、ニュアンスが伝わっていなかったり、嫌なコメントとかも増えてくるので。
ただ、1000いいね付くまでは見るので、この前、今回の新しい写真集の告知をしていただいた媒体のコメント欄を見たら「買わな~い」って書いてあって、「うん、そうだよな」って。
ほめてくださる方がいるのはありがたいことですが、当然みんなが買ってくれるようなものではないとわかっているので、ちゃんと現実に引き戻されました。あの「買わな~い」は、正直な意見として忘れないでおこうと思います。
───SNSのコメントを見なくなったのは、『キングオブコント2017』で一気に有名になり、いろんな意見を目にしたことがきっかけで?
そうですね。2017年なので、8年前。その頃はまだ容姿のことも普通にめっちゃ言われる時代でした。ネタとかお笑いとか関係なく、ただただ私の容姿をダメ出しするようなコメントもあって。
そう考えると今はだいぶ違いますね。下着姿の写真集を出して「芸人のくせに」と言われることもそんなになくて。
女性だからこそできる笑いも確実にある
──「女芸人」という呼称や、そうやって括られることについてはどう感じていますか。
うーん……私は男女コンビで活動しているので、女性のピン芸人さんや女性同士のコンビと比べると、女芸人という括りで呼ばれたり、扱われることが少ないのかもしれません。そのうえで、女性芸人だからこそできる笑いも確実にあると思っているので、ジャンルというか、「女芸人」という括りはあってもいいんじゃないかなと思っています。
それは男女コンビであるにゃんこスターとしても、女性である私がボケで、相方のスーパー3助さんが男性であることは、ネタにもだいぶ影響はしているので。
──学生時代、お笑いサークルで芸人の活動を始めたときから、役回りはボケ担当だったのですか?
私はずっとボケですね。こう見えて、自分的にはわりとはっきりしたビジョンというか、自分がどういうキャラクターなのかっていうのはあるんです。
というのも、『キングオブコント2017』で準優勝したときに、なわとびのネタで急に世間に知ってもらうことになったので、それ以降どんなに新ネタを作っても、ネタ番組に呼ばれるときには必ず「なわとび持ってきてください」って言われ続けたんですよ。
ライブではできても、なかなかテレビでは新ネタができない時期が続いたので、そのぶん自分を見つめ直す時間が長かったというか。
──それは、どういうキャラクターなんでしょう。
なわとびのネタでもそうでしたけど、いきなり「リズムなわとび」という知らない世界を持ってきて人を振り回しても、なんか見れちゃうキャラクターなのかなと自分では思っています。
にゃんこスターでは、そういう私に対して、相方の3助さんが大きいツッコミを入れる。逆に細かいツッコミが上手い人だと、立ち止まるところが多すぎる世界なので、そこのバランスで成り立っている気がします。
───ご自身の出自である「大学お笑い」のシーンも盛り上がっています。
なんかすごいですよね。私は早稲田大学の「お笑い工房LUDO」というサークルの出身で、私がいた頃は全員で100人くらいのゆるい感じだったんですが、聞くところによると、今は入部希望者だけで500人くらいになっているみたいで。
私がいた頃の雰囲気で言うと、本気でプロを目指している人もいましたけど、そうではない人もたくさんいて、ライブになるとそういういろんな人たちとコンビやユニットを組んで、お笑いを試せるところがよかったです。全員がプロを目指すライバルという感じではないので、サークル活動として楽しみながら、それぞれのいいところを探し合うような。それが大学お笑いサークルの魅力だと思います。
今はもっと違う感じになっているかもしれませんが……。
───30代を迎え、芸歴も重ねてきたことでの変化はありますか。
前は番組のアンケートとか、ちょっと盛って提出したりもしていたんですけど、そういう小細工はやらなくなりましたね。実際は違うのに、企画に寄せて「〇〇好きです」とか言ったところで、結局はうまくいかないんですよ。
底の浅さは絶対にすぐバレるので。だったら無理せず、ちゃんと自分に合った企画だけをやろうと思うようになりました。
#1 はこちら
取材・文/おぐらりゅうじ 撮影/石垣星児
スタイリング/小西沙良 ヘアメイク/鈴木かれん
ワンピース¥13980/Katrin TOKYO お問い合わせ先:katrin.tokyo@gmail.com
アンゴラ村長1st写真集 「標準体型」
東 京祐 (写真)