
先日Xでは、とある就活生についてのポストが話題になった。ポスト主である採用担当者は、就活生から聞かれた“ストレートすぎる”質問にうろたえる様子をつづっているが、これについてコメントでは就活生に対する厳しい声が寄せられている。
“火の玉ストレートの豪速球”な質問に採用担当者がタジタジ……
労働者にとって有利な「売り手市場」が続いている昨今。リクルートワークス研究所が発表した「第41回ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)」によると、2025年卒の大卒有効求人倍率は1.75倍で、これは学生一人につき1.75社の求人があることを示しており、新卒採用の需要は依然として大きいことがわかる。
そんななか、先日Xではこんなポストが話題を集めた。
≪「創業119年やってて社員が50人くらいしかいないって結構不思議なんですけど、なんでもっと大きい会社にならなかったんですか?」と就活中の学生さんから聞かれてクラクラしている。火の玉ストレートの豪速球。≫
このポスト主の男性は続けて「ちなみにこれは学生さんに悪意はなくめっちゃピュアな質問だったのですが、自分も『規模だけが正しい尺度ではないんですよ』とお伝えしつつも確かに的は射てる部分もあるなあと思い、もっと頑張らねばなあと思った次第でした…がんばります…」とポストし、この就活生に悪意はなかったことを説明した。
しかし、コメントでは「100年以上続いてる時点で凄いんよ、プロ野球選手に 『なんで20年もプロやってて一度もタイトル取ってないって結構不思議なんですけど』って聞いてるくらいに愚問」や「世間知らずの学生さんはすごいな。潰さずに事業を119年継続させる偉大さを少しもわかっていない」など、ポストで言及されている就活生に対する厳しい意見が見られた。
話題となったポスト主の石川貴也さんは、創業119年の老舗缶メーカーの代表をしているとのことだが、先述の就活生について、当時の状況や心情などについて聞いた。
「この就活生の方は、『悪意はないのですが、率直に気になったので質問させてください。失礼だったらすみません』と前もって言ってくれていたので、この方に対してマイナスな感情を抱いているわけではないのですが、正直“痛いところをつかれたな”と、ギクッとした思いはありましたね (笑)。
経営においては、会社の規模が大きければいいというわけでもないことをわかって欲しかったのですが、“学生視点だとそう感じるのか……”と逆に勉強になりましたね」(石川さん)
しかし、最近では今回の学生のように前もって断りを入れる訳でもなく、“失礼な質問”を企業に平気でぶつけてしまう令和の“モンスター就活生”の存在もいるようだ。
「保険で面接を受けています」モンスター就活生の驚愕発言
石川さんは数年前から新卒採用を始め、これまで約30名の新卒採用面接を担当してきた。そのなかで、“度肝を抜かれた”就活生がいたという。
「過去に公務員志望の就活生の方が、うちの面接を受けにいらっしゃったのですが、その方からは『私は公務員になりたくて、現在公務員試験の勉強に励んでいますが、将来の保険として就活をしています』と堂々と言われたことがあります。
うちの会社が第一志望じゃないにしても、せめて志望動機や熱意を少しでも見せてくれたらいいのになと、なんだか寂しく感じましたね。『どうせ公務員になるからいいや』という気持ちが透けて見えてしまって、その方の採用は断念しました」(石川さん)
石川さんは現在の就活生をどう見ているのだろうか。
「就職氷河期の時代など、私たちが就活生だった頃は、企業に媚びへつらったり、背伸びをして自分を良く見せようとしたりすることでなんとか内定を勝ち取ろうとする姿勢が当たり前だった気もしますが、現在では売り手市場になり、学生側が企業を選べる時代になったように感じます。
だからこそ等身大のありのままの姿で選考に挑む学生が増えているのだと思いますし、このことによって、本当にこの企業、学生とがマッチするのかどうか、嘘偽りなく互いに見極めることができるので、最終的にはいい方向性に進んでいるのではないかと考えています。企業側からしても、自分が思っていることについて、リスペクトを持って率直にぶつけてくれる学生の方が、“等身大のマッチング”をするうえでは魅力的だなと感じます」」(石川さん)
「会社は僕のために何をしてくれるんでしょうか?」大手企業の採用担当者も言葉を失う
続いて話を聞いたのは、大手保険会社で採用担当をしているというAさん(40代男性)だ。Aさんの勤める会社は、新卒採用に力を入れており、最近初任給が30万円台後半に上がったという。Aさんが遭遇した“モンスター就活生”について聞いてみた。
「去年、面接に来たある就活生から『会社は僕のために何をしてくれるんでしょうか』と面と向かって言われたことがあります。あまりに唐突で、唖然としてしまいましたね(苦笑)。彼はIT系の人気企業を志望していたらしく、本来行きたい企業ではない保険業の会社の面接だったということもあって、やる気がなかったのかわかりませんが、“あまりにもヒドい態度だな”と正直感じてしまいました」(Aさん)
しかし、なんとこの就活生は今年の新卒社員としてAさんの会社に入社したそうだ。なぜ採用するに至ったのか、その背景にある事情についてAさんはこう語る。
「うちの会社は50代以上の社員が多く、あと数年で定年退職が大量に起こります。そういった事情から、20代は貴重な人材として何としてでも確保したい。さらに少子化でますます若手の人材は採用しづらくなるということもあり、言い方はよくないですが、ヒドい態度をとるような学生でも採用せざるを得ない状況なんです」(Aさん)
――令和のモンスター就活生たちは、企業にとって率直な意見をくれる存在にもなりうるいっぽうで、礼節を欠いた言動に戸惑う採用担当者も少なくない。若手人材の確保がますます難しくなる時代に、試されているのは企業側か、学生側か。
取材・文/瑠璃光丸凪(A4studio)