
1997年、国民的人気番組「笑っていいとも!」に、「いいとも青年隊」として登場した“ガングロギャル男”…彼の名は、岸田健作。その天然キャラでブレイクするも、その後は芸能界を引退。
ホームレス生活で「人生を変える出来事」」
──「笑っていいとも!」で大ブレイクした後、突然の活動休止。その間は何をしていたんですか?
岸田健作(以下、岸田) まずは、一人暮らししていた家を解約して、帰る家もあったのに、あえてボストンバッグ一つで路上に出て、代々木公園でホームレスになりました。芸能界という場所や家など、用意してもらってるもの全てから卒業し、自分で一からやってみたかった。極限状態になったらどうなるかを知りたかったんですね。
──なんと、突然ホームレスになったんですね。一番つらかったのはどんな時でしたか?
岸田 最初は“ピクニック気分”でしたけど、すぐに現実に直面しました。夜は寒いし、食べ物もないし、道ゆく人に「何か恵んでもらえませんか?」とお願いするしかなかった。人生で一番、頭を下げた時期です。
当時は誰も立ち止まってくれなくて、人に自分の話を聞いてもらうって本当に大変なことなんだと気づきました。ただ、「あ、岸田健作だ!」と少年に気づかれ、仲間を呼ばれた時はさすがにビビりました。
その後、少年たちに囲まれて「マジでホームレスなん?」って聞かれて、正直に困っていることを伝えたら、親身になって話しを聞いてくれて、お金も恵んでくれました。
──その後、代々木公園で人生を変える出来事があったとか。
岸田 公園で、打楽器を叩きながら踊る2人組を見たんです。ダンスと生のビートがめちゃくちゃ気持ちよさそうで、「自分はやっぱりダンスが好きなんだ」って思いました。そこで、バンドを組むことを目標にしたんです。
だけど僕は、いいとも青年隊のなかでも「過去イチ歌が下手」って言われてたくらい(笑)。実はあの時も、歌のレッスンを受けていたのに全く上手くならなかったんです。だから、ボーカル希望と偽ってメンバーを募集しましたが、歌えないからラップに転向したんです。
──本当に“ゼロからの再出発”だったんですね。
岸田 バンドと並行して日雇いで倉庫の仕分けバイトをして、日給8000円をもらって漫画喫茶に泊まって、ネットでバンドメンバーを探しました。そこで集まったメンバーの家にローテーションで転がり込んで、ホームレス生活から抜け出すことができました。
その後は鬼のようにバイトを入れてお金を貯めて、半年ほどでやっと一人暮らしができるようになりました。
いいとも青年隊の経験を活かして町おこしイベント
──顔が知られている中で、アルバイトを始めるのは難しかったのでは。
岸田 最初のうちは、「あなたは社内にいると影響力が…」などと言われ、面接で落とされることもありました。その後、倉庫の仕分けの日雇いバイトをするようになりましたね。職場では、わざとあごをしゃくれさせて変顔して、岸田健作とバレないようにやり過ごしていました(笑)。
逆に、長期バイトのときは周りも気を遣ってくれていたのか、逆に誰も話しかけてこなかったです。今のように写真を撮られてSNSで拡散されるとかがなかったので、それも良かったのかな。
バイトをしたことで、「俺、落ちぶれたな」とは思わなかったです。今、頑張ればお給料でマイクが買える!と思うと、辛くはなかったですね。
──ホームレスを経験したことを週刊誌で明かしたのも、意外なきっかけだったそうですね。
岸田 はい、ホームレス経験を世間に公表するつもりはなかったんですが、今の事務所で映画の主演をすることになり、たまたまとある出版社の方に映画の売り込みに行ったことがキッカケでして。
映画の話は全く興味無さそうで聞いてくれなかったんですが、雑談の中で、「芸能界やめて今まで何してたの?」って聞かれて、素直に「代々木公園でホームレスしてたんです」と答えたら、「その話、めちゃくちゃ気になる!詳しく聞かせて」となって…。気づいたら記事になっていましたね。
そのタイミングで、『笑っていいとも!』の最終回のテレフォンショッキングにゲスト出演されていたビートたけしさんに「ホームレスになった岸田健作」とイジって頂けました。
─―現在は、町おこしイベントも手がけているそうですね。
岸田 音楽活動をしてきた延長で、いいとも青年隊の経験を活かして、地域を盛り上げたいと思いまして。「笑っていいとも!」をもじって、たとえば佐賀だったら「佐賀っていいとこ!」っていうふうに、その地域ごとのいいところをPRできるような活動をしています。
イベントでは僕自身がMCをやって、ウキウキウォッチングを踊ったり、ライブをしたり。7月には川口、9月には町田でイベントを開催する予定です。
イベントの企画についてはまだまだ模索中で、日々反省だらけですが、今後はテレフォンショッキングや曜日対抗選手権とかを取り入れて、いいとも世代の方が楽しめるようなお祭りにしていけたらと思っています。
「これって、何のインタビューだったんですか?」
──タレントとしてブレイク、そして芸能界引退、ホームレス経験など、波瀾万丈な人生と言われることについてはどう感じますか?
岸田 僕自身は、波瀾万丈だとは思ってないんです。一般的に就職して結婚して安定することが普通なら、自分にとっての“普通”は、こうして変化していくことなんだと思うんです。コロナも物価高もあるけど、その都度アップデートしていく。人生ってロールプレイングゲームのようなものだと思ってます。
──今後の目標を教えてください。
岸田 やはり、音楽はやめようと思ってもやめられない。
取材終了後、ボイスレコーダーを止めた記者に対し、岸田はこう問いかけた。
「あの、今さらなんですけど…。今日って、何のインタビューだったんですか?」
かつて“天然”と呼ばれた男のそのキャラクターは今も健在。変わったようで、変わらない“素”のままの彼は、また次の一歩を踏み出そうとしている。
取材・文/佐藤ちひろ