
セミの幼虫は地中で2年から7年の長い年月を過ごし、7月上旬から8月にかけて地上に出てくる。そんなセミの幼虫が大量に捕獲される事案が東京都江東区の公園で起き、話題になっている。
「大量に捕獲されているので掲示せざるを得ない状況」
セミの幼虫の乱獲が大きな話題となったのは東京都江東区の猿江恩賜公園だ。半蔵門線の住吉駅から徒歩2分、繁華街であるJR総武線錦糸町駅からは徒歩15分ほどの位置にあり、周辺に住む日本人はもちろん、在日外国人らにも親しまれる公園だ。
公園内には約30枚ほど、「セミの幼虫を採取しないでください。子供達がセミを楽しみにしています」と書かれた張り紙が木の幹などにくくり付けられている。
張り紙には、日本語の下には中国語と韓国語、英語の表記もある。公園管理者によればセミの羽化が本格化する前の6月末に掲示したという。
「この掲示自体は毎年6月下旬から9月上旬にかけて5年前から行なっていますが、幼虫が大量に捕獲される被害は10年前からです。公園利用者からも『食用目的なのでは』という声が上がっています。また『中国人やベトナム人らしき人が数人で、現地の言葉をしゃべりながら20時から22時頃に蝉を獲る姿を見た』などの目撃証言も受けています。
ペットボトルやビニール袋に詰めているようです。利用者が『獲っちゃだめですよ』と声をかけても手を両手に広げて『ナニ言ってるかわからない』というジェスチャーをされたと言っていました」
40年近くこの公園で散歩をしているという高齢男性も「錦糸町の中の数少ない癒しスポットを荒らさないでほしいですよ」と言う。
また、孫と一緒によく遊びに来るという高齢女性もセミの幼虫の乱獲には不満げだ。
「セミの鳴き声は正直うるさいけど、それが聞こえて初めて夏を感じるものだし、孫はセミの抜け殻集めを楽しみにしています。1匹や2匹ならまだしも、そんなペットボトルに詰めるとか、そんな大量捕獲はさすがに度を超えてますよね。やめてほしいです」
また、東京都公園協会の公園事業部事業管理課の担当者によれば、張り紙をしているのは猿江恩賜公園だけではないと言う。
「練馬区の光が丘公園や新宿区の戸山公園でも2020年頃から現在も『動植物を獲るのはやめて下さい』や『セミの幼虫を捕まえないでください』などの掲示はしています。
過去には足立区の公園などで掲示したこともあります。これは親子が1匹や2匹、捕獲し飼育するレベルではなく大量に捕獲されているので掲示せざるを得ない状況でした」
実際に新宿区の戸山公園に行くと、英語、韓国語、中国語、ネパール語、ベトナム語、ミャンマー語、ヒンディー語、ベンガル語で『セミの幼虫を捕まえないでください』と書かれた張り紙が10箇所以上にあった。
公園管理者はこう言う。
「公園側としては、親子やお子様の虫の採集については特に規制などはしていません。都内で自然に触れ合える場所は限られていますから、それについては大歓迎です。
ですが、昨今は明らかに食用や商用目的としか思えないほどの乱獲行為があります。そのような行為で他の利用者を不安にさせたり、公園内の生態系を壊したりする行為はやめていただきたいです」
セミを食べること自体を奇異なものとして排斥してはいけない
世界的な食糧難への対応という意味でも昆虫食などは注目されつつある。
「まあ、私らも公園のセミの幼虫を見かけたら『ちょっとお味見』感覚でつまんで食用することがありますから、そんな大それたことは言えないんですけど……」と言いながらも、こう見解を述べた。
「まずセミの幼虫は2年から7年ほど地中で過ごし、十分成長したタイミングで7月から8月の18時から19時頃に地中から木に這い上がり、殻を破って羽根を一晩かけて乾かします。一刻も早く乾かさないと鳥などに食べられてしまいますからね。
そうしてようやく乾かした羽根で飛び立つのです。乱獲する方々は、地中から出たタイミングで捕獲するか、地中から掘り出す人もいるようですね」
セミを食用にする文化はもともと、どんな国にあったのか。
「中国や東南アジアでは日本のイナゴのような郷土食であり、故郷の味です。また、中国ではセミが地下から出てくる姿に死者再生のイメージがあり、高潔のシンボルだったのです。素揚げや炒めものなど、さまざまな料理に使われてきました。
いっぽうで、日本でもセミの抜け殻は『蝉退(せんたい)』といい、解熱や鎮痛作用の塗り薬や漢方薬として処方されることもあります」
しかし、公園のような公共の場においての乱獲についてはこんな見解だという。
「自身の食用や販売目的で土を掘り返すなどしてセミの幼虫を大量に採集することは、園内の樹木の樹勢を弱めることにもなりかねないので制限すべきです。
ただ、セミを食べること自体を奇異なものとして排斥することは、食文化の差別に繋がります。
また、7月14日に中国メディア『人民網』日本語版で、昨今の中国では食用セミの幼虫の人気が高まり「幼虫500gあたり100元(1元は約20.5円、約2050円)で販売され、最近は180元(約3690円)まで高騰している」と報じられた。
セミの幼虫の高騰化は日本にも影響を受けているようで、セミ料理を提供する『獣肉酒家 米とサーカス 高田馬場店』の担当者もこう言う。
「セミの幼虫が話題になっていますが、成虫の味も種類によって違い、美味しくいただくことができます。普通にみられるアブラゼミは濃厚なナッツの香りがして旨味も強いです。
このところ増加傾向のあるミンミンゼミはやはり濃いナッツ風味に加えて豆腐のような味が加わり、噛み締めると多少の苦みも感じられます。関西以西に多いクマゼミはエビカニと鶏肉がミックスしたような風味があり、食感は繊維質の肉のようです。
セミの乱獲といった悪いイメージが払しょくされ、温暖化など地球環境問題に関連して昆虫食が注目されている今、美味しく食べていただくことで、セミの良いイメージを広げていきたいです」
とはいえ公共の場における迷惑行為であるセミの乱獲はダメ、絶対。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班