地上波ゴールデン帯なのに気持ち悪すぎる…? 阿部サダヲ×松たか子『しあわせな結婚』に感じた地上波ドラマの挑戦
地上波ゴールデン帯なのに気持ち悪すぎる…? 阿部サダヲ×松たか子『しあわせな結婚』に感じた地上波ドラマの挑戦

「気持ちの悪いドラマだった」――もちろんこれは誉め言葉だ。

7月17日よりテレビ朝日系でスタートした『しあわせな結婚』。

主演・阿部サダヲ、ヒロイン・松たか子、脚本・大石静。実力派が揃ったこの布陣に、今期最大の注目作として期待していた視聴者も多いだろう。そしてその期待に対し、本作が返してきたのは、爽快でも感動でもなく、得体の知れない「気持ち悪さ」だった。

普通のはずが、やたらと気持ち悪い…

主人公・原田幸太郎(阿部サダヲ)は、テレビ出演もする人気の弁護士。50年独身を貫いてきたが、ある日病院のエレベーターで美術教師・鈴木ネルラ(松たか子)と運命的な出会いを果たし、まさかの電撃結婚。その後、ネルラの家族――弟のレオ、叔父の考(こう)、父の寛――と同じマンションで新婚生活を始めることになる。

一見すると「大人のちょっと奇妙な半同居ドラマ」といった佇まいだが、この作品のテーマはそこではない。ネルラには“15年前に婚約者が死亡した”という過去があり、それを追う刑事・黒川(杉野遥亮)も登場。これは、夫婦の愛を問うマリッジ・サスペンスなのだ。

だが、1話を見て印象に残ったのは、事件そのものよりもネルラの家族の不気味さだった。登場時から異質な存在感を放っていたネルラ。松たか子の演じるキャラクターはいつもどこか不思議ちゃん風だが、本作は違った。父、弟、叔父といった家族までもが、言葉にしづらい“不気味さ”を放っている。

設定だけを見ると「少し変わってるけど、まあそういう家族もいるかも」と思わせる程度。たとえば、弟のレオ(板垣李光人)は東大を休学しつつ、アイドルの衣装を手掛ける服飾デザイナー。父の寛(段田安則)はかつて大企業を経営し、今は再起を狙う元社長。叔父・考(岡部たかし)は政財界の要人にゴルフを教える万能人物。ちょっと変わったエリート一家くらいに感じるだろう。

だが、画面に映った途端、その“ちょっと変わった”程度のはずの設定が一変する。演出や俳優たちの細かな所作、間、声のトーン、視線が、すべてに謎の違和感がある。セリフの一つ一つはおかしくはないけど、どこか引っかかる……。まさに、言葉では言い表せない「ゾワッとする気持ち悪さ」が、画面からにじみ出ている。

もしかしたら自分だけがこの気味悪さを感じているのではとSNSをチェックすると、「なんだこの……違和感……普通のシーンのはずなのに、なんか気持ち悪い……」「不穏な空気がずっと漂っていてなんだか怖い「シチューに人肉入っていても納得しそうな違和感」といった声が多くて安心した。

阿部サダヲがやっぱり最凶のヤバい人?

おそらく、この家族の中でなんとも居心地悪そうにしている幸太郎は、視聴者と同じ目線だろう。きっと幸太郎と同じ感情でドラマを見ていけば間違いない。

特に第1話で衝撃的だったシーンは、ネルラがクロワッサンをバリバリかぶりつき、口の周りにパンくずをつけ、ボロボロこぼしていたシーン。あれはもはやホラーだ。「不思議ちゃん」なんて言葉ではとても済まされない。だがこれも、松たか子の演技が絶妙で、人によっては“かわいらしいシーン”または“微笑ましいシーン”に見えていたようで、本当にこのドラマの怖さが際立つ。

そして、それをさほど驚かず受け止めている幸太郎。この、 “異物を受け入れる男”の存在もまた、じわじわ怖くなってくる。視聴者の不安を代弁してくれるはずの“普通の人”が、実は一番信用できない。そんな気がしてくる。メタ目線で見れば、幸太郎を阿部サダヲが演じている時点で、普通の人とは思えない。絶対に、何かあるはずだ……。

このドラマの“気持ち悪さ”は偶然ではないと感じる。近年、漫画やWeb小説では「読んでいて不快なのに目が離せない」系の作品が大流行している。

たとえば毒親、歪んだ家族、共依存――いずれもSNSや口コミで盛り上がる要素だ。

だが一方で、地上波ドラマではその“嫌な感情”を正面から描くのは難しかった。わかりやすく単純なエンタメが求められている。だからこそ『しあわせな結婚』が、その領域に踏み込んでくれたことに、ある種の地上波ドラマの可能性を感じた。「こういうドラマが、ちゃんとゴールデンで放送される時代になったんだ」と。

この気持ち悪さがなんなのか、その正体を知るためにも、このドラマから目が離せない。

取材・文/ライター神山

編集部おすすめ