「上から目線は脳の学習を妨げる」中高年男性がついやってしまいがちな“マンスプレイニング”とは? 脳科学者・茂木健一郎が解説
「上から目線は脳の学習を妨げる」中高年男性がついやってしまいがちな“マンスプレイニング”とは? 脳科学者・茂木健一郎が解説

中高年の、特に男性の中には、つい若者や女性に「上から目線」で接してしまう人がいる。しかし、これは時代遅れであるだけでなく、脳の学習を妨げてしまう態度だという。

脳科学者・茂木健一郎氏の最新著書『60歳からの脳の使い方』より抜粋・再構成し、詳しく解説する。 

脳の学習を妨げる「上から目線」

タクシーに乗ったときに、運転手さんに横柄な態度をとってしまう人。

飲食店で、店員さんに命令口調で話しかけてしまう人。

若者に対してはついぞんざいな言葉で対応してしまう人。

そんな風に周囲の人に対して上から目線で接する中高年は、意外と少なくありません。特に、会社員時代、それなりに出世して役職等についていた人ほど、この傾向が顕著に現れます。日頃から部下に対して命令口調で指図する癖が抜けないがゆえに、どうしても相手に対して偉そうな態度をとってしまうのでしょう。

でも、こうした態度を取るのは、脳にとっては大きなデメリットです。なぜなら、新しく何かを学ぶ上で、謙虚であったほうがよいからです。「どうせ若者の意見なんて聞く必要がない」と構えてしまえば、せっかくの刺激や知識も上手に受け取ることができなくなります。

「年長者なのだから若者に対して上から目線になってしまうのは仕方ないのでは」と感じる人もいるかもしれません。

ですが、世界の潮流は、フラット化がスタンダードになりつつあります。そして、世界のトップクラスの環境で働く人ほど、年齢などを気にせず、誰に対しても平等に接する傾向が強まっています。

以前、僕はアメリカのマウンテンビューにあるGoogle本社キャンパスを視察に行ったことがあります。その際、非常に印象的だったのが、年齢や性別を問わず、社員全員がお互いにフラットに話している光景でした。また、その場には、当時同社のCEOであったラリー・ページがいたのですが、一見大学生と変わらないようなTシャツとデニムというラフな格好で、一般の社員たちの中に紛れ込んでいたのです。

上下関係をまったく感じさせない風土は日本企業とは大きく異なるものですね。日本では年功序列を基本とした人間関係の作りかたがしみついている人が非常に多く、退職後でさえも言動の端々にその傾向が出てしまうのでしょう。

でも、会話というものは、本質的には対等な関係でないと成立しないものです。

「人に対して少し上から目線で接してしまう傾向があるな」という自覚がある人は、ぜひ柔道や剣道といった武道の態度を学ぶべきだと思います。武道では、相手が弱かろうが強かろうが、礼に始まり、いざ試合が始まれば、お互い容赦せずに組み合うわけですが、終わればそこでまた礼をして終わります。

友になり、敵になり、友になる。そうしたリスペクトの仕方は、年齢を問わず、非常に大事になってくるのだと心してくださいね。 

男性ほど意識してほしい「マンスプレイニング」 

年齢の上下にかかわらず、男性は特に意識してほしいのが「マンスプレイニング」をしないということ。「マンスプレイニング」とは、「man(男性)」と「explaining(説明する)」を組み合わせた造語で、主に男性が女性に対して、相手の知識や経験を軽視し、上から目線で説明を行う行為を指します。具体的には男性ばかりが話し続けたり、相手の話を遮って自分の主張を話したり、高圧的な態度を取り続けたりする非対称なコミュニケーションが生まれがちです。

偏見を恐れずに言えば、女性に比べると、男性は会話等で、相手を打ち負かそうとする傾向が強いです。

たとえば、喫茶店やレストランなどで打合せをしていると、男女のカップルの会話が耳に入ることがあります。その場合、男性が女性に対して滔々と「今自分の仕事がこうで……」「最近、これにハマっていて……」と一方的に話をしているのを見かけます。その際、女性は「あぁ、そうなんだ」と一方的に話を聞いている。

日本のテレビ番組などを見ていても、こうしたマンスプレイニングが行われていることが多々あります。池上彰さんやタモリさんのような著名な男性が一人で話し続けて、女子アナウンサーが隣で黙って聞いているような番組スタイルは決して少なくありません。番組自体はおもしろいかもしれませんが、こうした一方的な番組作りは、僕はマンスプレイニングの一種だと感じています。

日本の男性は、対女性であっても、対部下であっても、非対称なコミュニケーションを当たり前だと受け入れ、甘やかされてきた部分が多いのではないでしょうか。しかし、こうした非対称性のあるコミュニケーションは、どこかで無理が生じるもの。これに慣れきってしまうと、定年後などに肩書が外れた状態で、フラットに人と接するのが難しくなります。

お金や上下関係があるから成立する人間関係は、非対称です。お互いに話を聞く姿勢がないと、コミュニケーションは絶対に成立しません。

相手によって、自分は態度を変えていないか。そして、上から目線になっているのではないか。今一度、振り返って考えてみてほしいと思います。

文/茂木健一郎

『60歳からの脳の使い方』扶桑社新書

茂木 健一郎
「上から目線は脳の学習を妨げる」中高年男性がついやってしまいがちな“マンスプレイニング”とは? 脳科学者・茂木健一郎が解説
『60歳からの脳の使い方』扶桑社新書
2025年6月29日1100円(税込)256ページISBN: 978-4594100520脳科学の最新研究でわかった、脳はいくつになっても成長します! ・「もう年だから」をやめると脳は元気になる ・シニアこそAIで脳を若返らせよう! ・「生きがい」を持てば、迷いはなくなる 脳科学者・茂木健一郎氏が教える、今日から豊かなセカンドライフを実現する秘訣満載! 人生100年時代といわれるいま、60歳=「還暦」は人生の折り返し地点という意味合いが強まっています。 これまでずっと会社で働いてきた人が定年を迎え、「さあやっと自由だ」と言わんばかりにセカンドライフとしてあたらしいことに挑戦する元気な人がいる一方で、「ずっと家にいる」「急に元気がなくなった」「突然運動できなくなった」……という人も増えています。その違いはどこにあるのでしょうか。 それは、脳に新しい刺激を与える「生きがい」を持っているかどうかだ、と語るのは脳科学者として人気の茂木健一郎氏です。「生きがい」は難しいものではなく、生活のあらゆるところに見つけることができる、と説きます。 そしてそんな「生きがい」があれば、「もう年だからできない」といった、わたしたちが無意識に持っている「エイジズム(年齢に基づく固定観念)」から脱却し、日々をポジティヴに生きることができるようになります。 そこで、脳科学者・茂木健一郎氏が、最新の脳科学の観点から、何歳になってもボケない・若返る脳の使い方を詳しく解説。「いつまでも元気なあの人」はなにが違うのか、著名人の例を挙げわかりやすく説明します。また現代の日本社会を覆う「老害」問題にも茂木氏ならではの視点から斬り込みます。
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