
参院選での自民党の歴史的な大敗を受けて「長老」がうごめきだした。20日、テレビ朝日系「選挙ステーション2025」が、麻生太郎氏が周囲に「石破首相の続投は認めない」と話したと伝えたのだ。
麻生氏、石破氏…「おろし」あう犬猿の仲
「別にこの選挙の結果が厳しいからというんじゃない。本来だったら(昨年の)衆議院選挙の結果を踏まえ辞めるべきだったんだ」
参院選での大敗から一夜明けた21日、閣僚経験のある自民重鎮はこう吐き捨てた。
20日に投開票を迎えた参院選。改選124と非改選の欠員1補充を合わせた全125議席のうち、自民は選挙区と比例代表合わせて計39議席、公明は過去最低の8議席で自公47議席にとどまった。75の非改選と合算しても過半数に届かず、歴史的な大惨敗となった。
政権幹部、党執行部らの敗戦の責任を問う声が強まるなか、石破首相は21日午後、党本部で党総裁として記者会見に臨み、「いま最も大切なことは、国政に停滞を招かないことで、国家・国民に対する責任を果たしていかねばならない」と述べて続投を宣言。これには党内外から批判の声が次々とわき上がっている。
前出の重鎮は続ける。
「大敗したわけだから。
石破さんなりの危機感、国難という危機感があるのかもしれませんけども。でも、どれだけそれについて共有する人がいるか」
そんななか、党内で「石破おろし」の急先鋒になりそうなのが、麻生元首相だ。投開票日の20日夜、テレ朝の選挙特番が報じた、同氏が周囲に漏らしたとされる発言が永田町に波紋を広げた。
「テレ朝は、投開票当日の派閥の会合での麻生氏の発言を報じました。報道によると、そこで麻生氏は周辺に『続投は認めない』と発言したとされ、これを受けて麻生氏が石破首相を『退陣に追い込む構え』としています。
石破首相は21日の記者会見で続投を正式表明しましたが、麻生氏は石破首相が自身の去就を明らかにする前に先手を打った形です」(全国紙政治部記者)
麻生氏は、かねて石破首相と「犬猿の仲」とされており、党内の「反石破勢力」の急先鋒とみなされてきた。確執の遠因は、自身が首相在任時の2009年、農水相だった石破氏から総裁選前倒しのための両院議員総会の開催を迫られた過去にある。
石破氏の行動は内閣を率いる首相に弓を引くものに他ならず、事実上の「麻生おろし」の動きであることは明白だった。麻生政権は、その年の衆院選で大敗し、政権交代に追い込まれており、この一件以降、麻生氏と石破首相との亀裂は決定的なものになったとされる。
石破首相が党総裁の座を勝ち取った2024年9月の総裁選でも、麻生氏は「石破政権誕生」を阻止すべく、高市早苗氏の支援に回った。最初の投票で得票数トップに立った高市氏の躍進を支えたが、決選投票で石破首相の逆転を許した経緯もある。
「総裁選でも、自身の党内での影響力を見越して、投票直前に自身が高市氏の支援に回ることをマスコミにリークして大きく報じさせた。結局、思惑通りにはいかなかったものの、(今回も)自身の発言が大きく報じられることも見越して政局を仕掛けようとしているのは明らかです」(同)
麻生氏が担ごうとするポスト石破は?
この発言が号砲となった形で、さっそく麻生氏の周辺からは「石破おろし」の動きが顕在化してきている。
一時は総裁候補にもなった河野太郎元外相は22日のテレビ朝日の番組で、「石破茂首相が関税交渉のために残るなら、幹事長が選挙の責任を負って辞表を出すのが筋だ」と発言した。
「志公会(麻生派)」の一員である河野氏の発言からは、石破政権の中枢である森山裕・自民党幹事長に揺さぶりをかけて政権の基盤を揺るがそうとする意図が透けて見える。
高市氏と近い山田宏参院議員、西田昌司参院議員からも石破首相の続投表明に反発する声が上がっている。
別の大手紙政治部記者は、「21日の会見では、続投するのか。続投するにはそれなりの説明があるのか。ここが焦点でした。ところが、会見の中身は具体性に欠け、かつ新味もなかった。衆院選、都議選、参院選と3連敗したことの意味がわかっていないのではとの批判が閣僚の中で相次いでいます」と打ち明ける。
今回の選挙では「皇室の男系継承」や「教育勅語の尊重」など、いわゆる「岩盤保守層」に響く政策を打ち出した参政党が躍進した。
党内で穏健派の印象が強い「宏池会」出身の岸田文雄氏、石破氏と二代にわたってリベラル色の強い政権が続いたことで、離れた自民支持層の一部を取り込んだことが参政党の伸長の一因になったとの指摘もある。
「麻生さんは、今回の選挙で参政党と国民民主に流れた、旧来の自民党支持層の票を回収できるのは、保守色が強い高市さんしかいないと見ているわけです。
自民党がリベラル化したのは今に始まった事ではないですが、麻生さんは高市さんなら流れた票を取り戻し、自民党を立て直せるのではと考えており、ポスト石破の候補として担ごうとする思惑があるようです」(前出の全国紙記者)
ただ、かつて「キングメーカー」として権勢をふるった麻生氏の影響力にも陰りは見える。高市氏を立てて勝負に出た前回の総裁選では、党内に一定の影響力がある菅義偉元首相や森山幹事長を味方につけた石破首相に押し切られた形で、石破政権発足後には、副総理のポストも奪われた。
しかも石破首相にリベンジを果たそうにも、今選挙の敗戦では、権力の源泉となる「派閥議員」を失っている。
「今回の参院選で、麻生派の顧問を務める山東昭子元参院議長が全国比例で落選した。山東氏は、かつて『番町政策研究所(山東派)』を率いていたが、麻生派に合流して党内での影響力拡大に貢献した1人でした。
ほかにも自身の強力な支援団体である日本医師会の支援を受け、自らの親族でもある武見敬三元厚労相も議席を手にすることができなかった。しばしば時の政権の舵取りに介入しようとする手法への批判もあり、かつてほどの求心力はないと言わざるを得ません」(大手紙政治部記者)
実際、「ポスト石破」の議論も活発化していない。衆参で少数与党に陥った現在の状況では、政策審議でも野党との調整が必要になるなど、難しい政権運営を迫られることが必至だ。党内で、火中の栗を拾うような役目を引き受ける人材は見当たらないとの指摘もある。
「『石破さんでないとダメだ』という”石破全肯定”の人はほとんどいません。ただ、じゃあ、石破さんの代わりに誰がなるのかといった話になると、適当だと思う人がいないのが現実です。しばらくは石破さんで様子見するのが賢明では、との声が大勢を占めています」(同)
勢力図が激変し、混迷の度が深まる永田町。「石破辞めろ!」の声は、燎原の火のように燃え広がっていくのか。
※「集英社オンライン」では、今回の記事についてのご意見、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(旧Twitter)まで情報をお寄せください。
メールアドレス:
shueisha.online.news@gmail.com
X(旧Twitter)
@shuon_news
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班