「殺人犯かもしれない妻」との奇妙な生活は笑えるのか怖いのか…ドラマ『しあわせな結婚』が挑むジャンル不明というジャンル
「殺人犯かもしれない妻」との奇妙な生活は笑えるのか怖いのか…ドラマ『しあわせな結婚』が挑むジャンル不明というジャンル

テレビ朝日系の連続ドラマ『しあわせな結婚』第2話が7月24日に放送された。主演・阿部サダヲ×松たか子の“異色夫婦”が織りなすのは、サスペンスなのか、コメディなのか……。

今回も混乱と驚きの声があふれている。

ジャンルがわからない謎のドラマ

「これは一体、何を見せられているんだろう」

第2話を見終えた多くの視聴者が、そう感じたに違いない。『しあわせな結婚』は“ジャンルがわからないドラマだ。公式では「夫婦の愛を問うマリッジ・サスペンス」と銘打っているから、一応はサスペンスがメインなのだろう。

しかし、その合間に挟まれるのはラブストーリー、不気味な家族のホラー、そしてシュールなコメディ。視聴者は笑っていいのか、怖がるべきなのか、泣くべきなのか、まったく判断がつかない。その“混乱”こそが、このドラマの最大の魅力なのだ。

主演は阿部サダヲと松たか子。もうこの時点で「まともなドラマ」は保証されていない。視聴者も「これはフツウのドラマじゃない」と身構えていたはずだし、実際その通り。でも、“想定通り”に“想定外”が来る。

裏切られたくて構えていて、期待通りに裏切られる。視聴者の「こういうのが見たい(けど言語化できない)」という期待を、見事に提供してくれる不思議な作品だ。

第2話では、阿部サダヲ演じる弁護士・幸太郎が、新婚の妻・ネルラ(松たか子)に殺人容疑がかかっているという衝撃の事実を知らされる。視聴者は「ここから緊迫のサスペンスが始まる」と身構えるのだが、次に描かれるのは、なぜかワイドショーの“代打MC騒動”。そして、まさかのノリノリで達者に番組を仕切りはじめる幸太郎の姿である。

本来なら妻の過去に怯えて夜も眠れないはずの男が、スタジオではテンション高くニュースを読み、場を回す。現実離れしていて笑ってしまうが、実はこれこそ“リアル”なのかもしれない。

その後描かれる、ネルラの実家・鈴木家での夕食会もまた、ホラーとファミリーコメディを行き来する奇妙なシーンだ。登場する家族はみな一癖あり、それぞれが15年前の事件をどう捉え、どう動こうとしているのか、少しずつ明かされていく。しかしその“わかりそうでわからない”もどかしさが、また一層不気味で興味を引く。

松たか子の笑顔の告白「私を人殺しだと思ってる?」

最大の衝撃は、物語後半、ネルラが幸太郎に真相を告げるシーンだ。仕事から帰宅した幸太郎に、ネルラは突然こう尋ねる。

「幸太郎さん、私を人殺しだと思ってる?」

しかも笑顔で。しかも竹下通りで買った2200円のワンピースを着て。

思ったよりも早すぎる告白だった。もっと仮の仲良し夫婦生活を続けて、裏で調査が進み、シリーズの折り返しとなる5話くらいで感づかれる…そんな流れかと思いきや、全然違った。さらにネルラは続ける。

「何も覚えていない、私が殺したか殺してないのかは、わからない」

美しさと狂気が共存する瞬間。「この人は何を考えているのか全くわからない」という恐怖と、「でも綺麗だな」と見惚れてしまう感情が同居する。だから現実主義の幸太郎も、ネルラとの生活を手放せないのだろう。

演技のトーンにも、漫画的・アニメ的な誇張が随所にある。ネルラが巨大なハサミで幸太郎の髪を切ろうとするシーンなど、ほとんどギャグアニメのようなテンポで描かれているが、背景に“殺人犯かも?”の影があるため、笑っていいのか本気で怖がるべきなのか判断に困る。

この“ジャンルの迷子感”が、視聴者の心をざわつかせ、結果として深く印象に残る。

そして最後は「幸太郎と出会ってもう一度しあわせになりたいと思うようになった」「でも15年前のことがしあわせを奪っていく」「しあわせになろうなんて望んだことが間違いだった」と、“タイトル回収”を連発。

おそらくこの2話で、ようやくプロローグが終わったのだろう。本当の“物語”はここから始まるのかもしれない。

SNSには「シリアスとコメディが混在してて目まぐるしい」「どういう物語なのだ、何のジャンルに入れれば、と視聴者を惑わせるところが、個人的には最高に良い」といった、先の読めない展開に翻弄されながらも楽しんでいる声が聞こえてくる。

ドラマは視聴者の望むものをつくるものではなく、翻弄するものだと改めて感じさせられる。ジャンルを分けてわかりやすくするのは簡単だが、それは物語の本当の楽しさを削ぐ補助線かもしれない。たった10話ほどのテレビドラマならではの短い期間だからこそ、この混沌を活かして、ぜひ最後まで駆け抜けてほしい。

取材・文/ライター神山

編集部おすすめ