『あんぱん』朝からエモすぎやろ! 「圧倒的方言がぶっ刺さる」歴代朝ドラの恋愛名シーンBEST3
『あんぱん』朝からエモすぎやろ! 「圧倒的方言がぶっ刺さる」歴代朝ドラの恋愛名シーンBEST3

朝ドラ『あんぱん』で幼馴染だったのぶと嵩(たかし)がついに結ばれた。「嵩の二倍、嵩のこと好き」。

ヒロインの言葉で締めくくられた第85回に、SNSでは〈朝からエモすぎる〉〈のぶの台詞に涙腺崩壊〉など祝福の声が相次いだ。 

 

これまで日本各地を舞台にヒロインの恋愛を描いてきた朝ドラ。「恋愛パートが素晴らしいと傑作の可能性大」と語る朝ドラ評論家に、“圧倒的方言がぶっ刺さる”歴代朝ドラの恋愛名シーンBEST3を聞いた。 

「嵩の二倍、嵩のこと好き」 

国民的アニメ・絵本『アンパンマン』の生みの親であるやなせたかしと、その妻・暢(のぶ)の夫婦をモデルに描く朝ドラ『あんぱん』。

今作の大きな見どころだった太平洋戦争中のシーンを終え、高知新報に入社以降は、史実に基づき、二人が恋愛関係に発展する様子が描かれた。特に話題となったのが、二人の想いが通じ合った第85回だ。

「人を好きになる気持ちとか…そんなに好きな人に出会えたこととか…なかったことにしてほしゅうないがです」

戦争で婚約者を失った蘭子(河合優実)の言葉に背中を押され、のぶに長年の想いをようやく伝えることができた嵩。しかし、その返答を聞かぬまま、去ろうとする嵩に対し、のぶが、

「嵩、待って! たっすいがーはいかん!」(「たっすい」は土佐弁で「臆病」)

そう言って駆け寄り、嵩に抱きつくと、

“好きや。嵩のニ倍、嵩のこと好き”

というシーンで幕を閉じた。朝ドラ放送直後に放送される同局「あさイチ」では、高知新報で二人の上司役を演じた津田健次郎がゲストとして待ち受け、「よかったにゃー、のぶ、柳井!ここまで長かったにゃー」と土佐弁で祝福し、SNS上でも歓喜の声が巻き起こった。

今作の脚本を手掛けた“恋愛ドラマの名手”でもある中園ミホ氏は、今作の恋愛シーンについて、

「たかしさんと暢さんの間ではこういう会話がなされていたんじゃないかな、と思い込み強く書かせていただきました。本来、ラブストーリーを書くのが大好きなので、久々に大恋愛ものを書けて楽しかったです」

と語った。さらに朝ドラ評論家として知られる半澤則吉氏も、

「“夫婦もの”って最初から結婚することが分かっていますが、今作は次郎さんの話や、嵩の弟の千尋の恋心なども設定に盛り込んだことで、のぶの物語として深みが増し、視聴者の心を上手に掴んだと思います」(半澤氏、以下同)

と高く評価した。

不倫を描いた名作も…恋愛名シーンBEST3 

全国各地を舞台に描く朝ドラの魅力の一つが、なんといっても“方言”を駆使した恋愛シーン。今回は、半澤さんに歴代の朝を彩った“圧倒的方言がぶっ刺さる”恋愛名シーンBEST3を聞いた。 

BEST3:ワイルドすぎ…壁をぶち破って告白した『ちりとてちん』(2007年度後期)

BEST3は、福井と大阪を舞台に上方落語家を目指すヒロインの生涯を描いた『ちりとてちん』第77回。貫地谷しほり演じるヒロイン・喜代美が、兄弟子・徒然亭草々(青木崇高)と結ばれるシーンだ。

同じアパートの隣室に住む兄弟子・草々と気持ちがすれ違ったまま、内弟子修行最後の日を迎えた喜代美。草々に向かって「あの壁の向こうで、草々兄さんが何考えとんのか、あの壁が邪魔で、なんも見えんのです」と言い放つ。

そして大晦日。除夜の鐘が鳴り響き終わった直後に、草々がアパートの壁を突如ぶち壊し、喜代美にこう告げる。

“今日からお前が俺の故郷(ふるさと)や”

「二人の間に立ちはだかる“壁”がついに無くなったということですが、それにしてもワイルドすぎますよね(笑)。この物語の大きなテーマになっている“故郷”という言葉を告白シーンに組み込んだのはとても秀逸でした」

BEST2:ヒロインの不倫を真っ向から描いた『カーネーション』(2011年度後期)

BEST2は、ヒロイン・糸子と妻子持ちの仕立て職人・周防(すおう)との不倫を描いた『カーネーション』第91回だ。北村(ほっしゃん。)の店の開店準備を終え、徹夜明けでソファに寝ていた周防(綾野剛)に対し、糸子(尾野真千子)が密かに抱いていた想いを吐き出すシーン。

“最後に言わせてください。

好きでした”

それだけ言って去ろうとする糸子の腕を周防はとっさに掴み、ゆっくりと抱きしめると、

“おいもです。おいも、好いとった、ずっと”

と告白。

これまで可憐なヒロインが多かった朝ドラで、ヒロインの不倫を真っ向から描いたことで話題となったシーン。実はこれには裏話が…。

「実際にヒロインのモデルとなった小篠さんの不倫相手は、作中に登場する周防(綾野剛)と北村(ほっしゃん。)が合わさったような人だったと言われています。それを作中では2つのキャラに分離し、それぞれ付かず離れずっぽく描きつつ、周防という長崎出身の儚い男を作り出したのが、この脚本の凄さです。

コテコテの岸和田弁に囲まれながら、一人だけ寡黙でイケメンな長崎弁の男がいたら、そりゃみんな好きになっちゃいますよね(笑)。当時、ブレイク前の綾野剛を起用したことで『あの人誰⁉』とお茶の間に衝撃が走りました」

“圧倒的方言がぶっ刺さる”恋愛名シーンBEST1は…

 BEST1:主演の神木隆之介のリクエストにより実現した最終回の名シーン『らんまん』(2023年度前期)

BEST1に輝いたのは、高知を舞台に植物学者の万太郎が、臨終が近い妻・寿恵子に愛を伝える『らんまん』最終回のシーンだ。

3206種の植物を載せた図鑑がついに完成。最後のページを飾ったのは、「スエコザサ」。それを見た妻の寿恵子(浜辺美波)は「スエコザサ…。

私の名前?」と涙を流して喜んだ。そんな寿恵子を万太郎が、

“愛しちゅう…愛しちゅう…”

と涙を流しながら抱きしめるシーン。

実はこのラストの「愛しちゅう…」という台詞は最初の脚本にはなかったが、神木隆之介から「最後に愛の言葉をまっすぐに相手に伝えたい」とのリクエストのもと、加えられた台詞だったという。

「高知弁での『愛しちゅう』のラストシーンは涙なくしては見られない名場面でした。この作品は戦争や震災も描きつつ、2人の最愛の娘が亡くなるシーンが“人生のどん底”として描かれており、最終回ではそんな娘を想った場面などに多く触れつつ、方言を上手く使った作品でした」

今作『あんぱん』でも、ようやく結ばれたのぶと嵩。これから始まる夫婦としての物語――きっとその歩みの中でも、我々の心に刻まれる新たな名シーンが生まれてくるはずだ。

取材・文/木下未希

編集部おすすめ