
学歴詐称疑惑がもたれている静岡県伊東市の田久保眞紀市長(55)は市議会調査特別委員会(百条委)が求めた7月25日の出頭請求を拒否した。偽造品とみられる東洋大学の卒業証書を検察に提出し調べてもらう、との約束も反故にした田久保市長は議会での説明も拒んだことで証書の真贋を調べさせない姿勢で、大学除籍の真相も明かそうとしない。
田久保市長「出頭を拒否いたします」
百条委は出頭要請に先立ち“卒業証書”を7月18日の夕方までに提出するよう求めたが、田久保市長は期限直前にこれを拒否。自分が公職選挙法違反で刑事告発をされているため、卒業証書は「私自身の刑事訴追につながる可能性のある事項に関するもの」だと説明。
提出拒否は憲法に保障された不利益な供述を強要されない権利に基づくもので、百条委要求に応じない「正当な理由」があると主張した。
これに怒った百条委は18日の会合で田久保氏の証人尋問を決定。連休明けの22日朝、登庁した田久保氏に中島弘道市議会議長が出頭請求書を不意打ちのような形で渡した。
「出頭請求書を渡すことが事前に漏れると田久保市長が逃げると考えた市議会側は地元メディアに事前報道の自粛を求め、メディアも協力しました。それを知らずに登庁した田久保氏はカメラがずらっと並ぶ中で請求書を受け取ることになりました」(地元記者)
請求書では証言を求める内容として「記録の提出を拒む理由」と「卒業証書とされる書類に関すること」「東洋大を除籍となった事実に関すること」の3つが挙げられた。
対する田久保市長は、24日午後に中島議長に「出頭を拒否いたします」との回答書を押し付けた。
「いや待ってください!これ出頭拒否って許せませんよ」と怒ったものの、結局、田久保市長を引き留められなかった中島氏は「バカにすんじゃねえ!」と怒りを爆発させた。
回答書では、記録提出を拒む理由と卒業証書とされる書類に絡む証言については、7月18日に伝えたのと同様「正当な理由」により拒否すると主張。
ただ3番目の除籍に絡む項目については
〈東洋大学に4年間在学した後、「卒業」ではなく「除籍」と記録された理由については大学に照会等をしておりますが、今日現在除籍になったという事実以外に新たな事実関係を把握しておりません。また、推測に基づく回答は誤解を招く可能性があるため差し控えさせていただきます〉
と答え、これだけは「正当な理由」を根拠に挙げなかった。
この除籍の真相は卒業証書の真贋とともに疑惑の核心に迫るものだ。
集英社オンラインが行なった東洋大学への取材で、田久保氏の除籍理由には①学費を納入しなかった②休学期間が4年を越えた③東洋大で修学する意思がないと判断された、という3つの可能性があると分かっている。(#5)
さらに東洋大は、除籍が決まれば「保証人様宛てに速やかに除籍通知書を郵送いたします」と取材に答えている。
「不安を感じたというのが正直な感想」
田久保市長はこれまで「6月28日に東洋大へ行き初めて自分が除籍になっていると知った」と説明しているが、除籍の理由などの詳細は話していない。そこで集英社オンラインは7月18日に田久保氏に直接質した。
——除籍になる要件は決まっています。どれに当てはまるかのですか。
田久保眞紀(以下、同) いえ、大学側とはそのような話はしておりません。
——卒業したと思っていたのに大学から除籍だと聞かされれば「なぜ私が除籍なんですか」と聞きませんか?
私としては、むしろですね、その場で初めて私の個人情報として初めて知りました。ですが残念ながら、偶然なのかもしれませんが、怪文書の方で除籍という言葉が先に出ておりました。
私の個人情報が不正に漏れたのか、それともこれが偶然なのかわかりませんが、私としてはそれよりも大変、その場で不安を感じたというのが正直な感想でして。
その場では大学のほうに、なんで私がこういうことになっているのかというような、そういった説明を求めるということにはいたりませんでした。
——では大学に除籍の理由をたずねてもいない?
今のところはたずねておりません。除籍はもう事実ですので、そのことで大学側と事実を争うというのは考えておりません。
——大学は除籍の事実を保証人に伝えます。当時の保証人は通知を受けていませんか?
残念ながら、私自身も保証人である母もそのような通知を受け取っているということはないという風に記憶しております。
田久保市長はこの質疑から6日後の、24日付市議会議長あての回答書でも、大学に照会をしているが除籍の事実以外にわかったことはない、と主張している。
除籍の理由を積極的に示さないのは、これが明らかになれば「本人が知らなかったわけがない」状況が浮かび上がるからではないのか。
疑惑に絡んでは意外な動きも出てきた。
新たな告発文「あれは法学部の学生が作ったニセ物です」
「中島議長あてに『平成4年に東洋大学法学部を卒業した』と名乗る人物から『田久保眞紀の卒業証書なるものの真実をお知らせします』と書かれた告発文が新たに届いたんです。
そこには『あれは彼女と同期入学で平成4年3月に卒業した法学部学生が作ったニセ物です』『卒業生の有志がそれらしい体裁で作ったものです』とつづられ、市長が除籍になった経緯に関する言及もあるということです。
今回の問題の発端となった、田久保氏が『除籍だった』と指摘した告発文の内容が正しかったことを理由に市議会は今回の告発文を“公文書”として取り扱い、7月22日にコピーが全議員に配布されました」(地元記者)
田久保氏は24日の回答書で、自分は新たな告発文の内容を確認できておらず、この文書の存在を前提に百条委で質問が行なわれれば「証言者の権利利益を軽視することがはなはだしく、到底受け入れられるものではありません」と主張。議員への配布を暗に批判し、議会との全面対決姿勢を深めている。
田久保氏は7月7日の記者会見で「お伝えすることは4つあります」と言いながら、①自分は大学を卒業していなかった、②卒業証書は上申書と共に静岡地検へ提出する、③地検への手続きを終えれば速やかに辞任する、④その上で出直し市長選に出馬する-と表明している。
このうち弁護士の金庫にあるという疑惑の卒業証書については、百条委に提出も説明もしない上、静岡地検への提出も「今の時点でする、しないの結論をはっきりと口にすることはできない」と18日に言い出し、事実上反故にしている。
こうなれば「地検への提出後」にすると言っていた辞任の約束もどうなるかわからない。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班