
6月の東京都議会議員選挙で3期目に当選した龍円あいりさん。彼女はテレ朝のアナウンサーから記者経験を経て、政治の世界に入ったタレント議員の一人で、ダウン症の息子(12歳)を育てるシングルマザーでもある。
政治活動とワンオペ育児両立の苦労、アナウンサー時代の「洗礼」など、政治家らしからぬリアルな本音を聞かせてくれた。
少数派だからこそ続けられた議員
――あらためて当選おめでとうございます!
龍円あいり(以下同) ありがとうございます。さきの都議選では選挙期間中もワンオペ育児なので大変でした。まず6時45分にベビーシッターさんに家に来てもらって、そのあとは移動支援者の方にニコ(息子)を学校に連れて行ってもらいました。放課後の居場所である学童のお迎えはまたシッターさんにお願いをするんですけど、そうなるとベビーシッター代がとんでもないことになる。
選挙期間中はその支払いで生活費がピンチな状態に陥ってしまいましたよ(笑)。
――8年前、東京都議会議員1期目当選時に、現在のご自身の姿をイメージされていましたか?
していなかったですね。一議員として自分に何ができるのか半信半疑でした。ただ障がいのある子(ダウン症)を育てているシングルマザーという立場だからこそ気がついたアイデア、例えば障がいのある子も、みんなと一緒に遊べる公園を作るといったことを1期目から提案し、幸いにも実現することができました。
今でこそ東京都も「これをスタンダードにする」としてくれますが、当初は「障がい児が遊べていないことに言われるまで気づきませんでした」という反応だったんです。
――龍円さんは“インクルーシブ教育の実現”を一貫して取り組んでいますが、具体的にどんな内容なのでしょうか。
狭い意味では障がいのある子もない子もともに学べる環境作りをすること。広い意味では多様なお子さんそれぞれに合ったカリキュラムを用意し、それを支援できるフレキシブルな学校作りを目指すというものです。
そのとき、私がマイノリティな立場だからこそ、これまで光が当たらなかった部分を照らすことができると気がつきました。その想いがあったからこそ議員を続けられていますね。
マスコミからの洗礼のおかげ
――龍円さんは、政治家として公約した全98項目のうち未着手ゼロということですが……。
私は公約を正直に書くようにしていて。本当にやりたいことだけを公約にしているので全部に着手できる。特にすごいわけじゃないんですよ(笑)。
――「あまり仕事をしていない」と揶揄されがちな“タレント議員”にどんな印象を持っていますか?
そもそも私自身は自分をタレント議員の枠だと認識していないです。だって私がアナウンサーとしてテレビに出ていたのは今の大学生ぐらいの子たちが生まれた頃ですから。知らない人のほうが多いんじゃないですか(笑)。
国会議員が何をしているのか、全然わからないので何とも言えないのですが、都議のほうが思ったことに着手しやすい部分はあると思います。
さきほどの公園の話でも、国会ベースで「公園法を変えましょう」みたいなことになると実現までの道のりが長いですが、都議だと行政改革はスピーディーに実現できます。
――ちなみに有名な人が議員になったりすると、すぐにマスコミが身辺を嗅ぎまわったりしますが、そういった危機を感じたことは?
みなさんが覚えているかはわからないんですが、実は私、テレビ朝日に入社した1年目にマスコミに事実無根の記事を出され、裁判をやっているんですよ。
まだアナウンサーデビューする前のことだったので、ある日いきなりメディアに自分の顔と名前が出て唖然としました。まったく身に覚えのないことだったのでどうしようみたいな……。
しかも名前が「龍円」でめずらしいので、妹の就活に影響が出たり、大学教授をやっていた父の仕事にも影響が出たりして、怖かったし、つらかったですね。
でもあの一件で洗礼を受けました。火のないところに煙が立つ世界だということを知ったので、それ以来まっとうに生きようじゃないですけど、人の恨みを買ったり誰かに「あいつの足の引っ張って貶めてやろう」とか思われたりしない生き方をしないといけないなと。
ですから議員になったからといって、特に何か注意するといったことはなく、その前からまあまあ気をつけて生きてきたって感じです。
4年後の再就職は厳しい
――龍円さんにとって、政治家は天職ですか?
実は3期目に立候補するかどうか半年くらい悩んでいました。やりがいはありますけど選挙に落ちたら無職ですし、生活のことだけ考えたらもっと安定した職に就いたほうがいいんじゃないかと周りからも言われたりして。
3期目が終わって4年後には50歳になっていますから、そこから再就職ってやっぱり厳しい。だったら40代のうちに別の仕事を探したほうがいいかなとか、いろいろ考えてしまったんですよね。
――それでも3期目に挑戦した決め手は?
これまで取り組んでいたことがたくさんあり、結果も出ていますが、まだまだ根づいていないからです。
私のなかでは1期・2期・3期でホップ・ステップ・ジャンプになるようしたいと考えていて、3期目は都議としての集大成にするつもりです。私が都議でなくなってもインクルーシブ政策が育っていく状態に持っていくことがまずは目標かなと思っています。
――今後の抱負をお願いします!
今日も朝起きたら腰が痛くて(笑)。正直ワンオペ育児と政治家の両立に毎日四苦八苦です。でも子どもたちの未来、社会を良くするために動けるのはとても達成感があって、充実しています。
一回しかない人生、ここは頑張り時かなと考え、後悔しないようにこれからも職務に当たりたいと思っています。
取材・文/若松正子 写真/わけとく
<プロフィール>
龍円あいり
都民ファーストの会 広報本部長 東京都議会文教委員会所属 東京都監査委員。1977年スウェーデン生まれ。1999年にアナウンサーとしてテレビ朝日入社。2006年テレビ朝日報道局へ異動。2011年退社後、米国カリフォルニアへ留学。2013年にダウン症のある長男誕生。2017年東京都議会選挙に初当選。2025年7月3期目の当選を果たす。日本最大の政策コンテスト「マニフェスト大賞」を受賞。政策として公約した全98項目のうち未着手ゼロで公約進捗率95%を誇る。