
「求められたら基本的には断らない」そんなモットーを胸に幅広いジャンルで活躍する俳優の原田龍二さん。2019年に一般女性との不倫で文春砲に直撃。
映画主演のオファー、まさかのシリアスな内容にびっくり
“仕事は基本的には断らない。
群れない。
自分を曲げない。
でも人生には、贖(あがな)わない――。”
転がり続ける男、原田龍二。端正な顔立ちが特徴ながら、独特の存在として、さまざまな仕事が引きも切らないようだ。そんな彼がこのたび、太平洋戦争末期の精神病棟を舞台とした映画『ハオト』で主演を務めた。
「俳優仲間でもある監督の丈さんから直接『主演をお願いできませんか』とオファーがあって。『どうせ俺が主役なんだから、コメディとか、俺くらいしか受けないような変な内容かな?』と思っていたらシリアスな内容で。むしろそこにびっくりしました」(原田さん、以下同)
世界的にも軍事的緊張が高まる中、戦後80周年を迎える今夏に合わせ、劇場公開となる同作品。
片岡鶴太郎さん演じる解離性同一障害(多重人格)となった科学者や、預言者の男、未来人と交信しているという女性など、特異な人々が集う中、原田は戦争や軍を批判し統合失調症扱いをされた元エリート海軍将校の「水越」を演じている。
「シリアスな作品」と面食らったわけで、役作りなどに苦労はなかったのだろうか。
「兵隊としてのシーンはなかったので、役作りも特にしませんでした。ただ、『生き別れた弟と突然再会する』というシーンがあって、実際に弟(俳優の本宮泰風)がいる身としても体験したことがないので、多少不安はありましたね。
しかも、弟役の石田隼さんとは、撮影前に打ち合わせを一切せず、初めて会って数分後の芝居という状況でしたが、だからこそ適度な緊張感も生まれていい化学反応が起きたと思います」
共演者がベテラン揃いだったこともありがたかった、という。
「片岡鶴太郎さん、三浦浩一さんも、二重人格の役がすばらしかったです。特に預言者役の三浦さんの演技に惚れてしまいましたね。
鶴太郎さんとは、撮影の合間に演技の話は一切せず、アマゾンのヤノマミ族の話やシャーマニズム、心霊の話ばかりしていました。鶴太郎さんはヨガマスターですからね。俺と一緒で、精神世界がお好きなんでしょうね」
誰よりも死を楽しみにしている俳優
今回の映画に関わったことで、自分を見つめ直すきっかけにもなったと語る。
「まともな人なんて、いないんじゃないか。いや、何がまともかなんて、わからない。プラスもマイナスも、光も影も、どこから見るか、誰が見るかによるだけではないのかと。
俺についても、今回の映画のオファーが来たように求めてくれる人間もいれば、あの騒動があったこともあって『どうしようもないやつだ』と思っている人もいるでしょう。
『人間には多角的な面がある』のではなくて、『コミュニティーや時代の価値観、見る人によって違う』だけなんだと思います」
それを踏まえたうえで、「ただの反戦映画ではないことを伝えたい」とも。
「今回の舞台のような場所はまったくのフィクションだと思いますが、人々は危機に陥ったら、おかしなものにすがりかねない。戦争が良い悪いではなく、人間の危うさを表した内容だと思います。
加えて、終戦80周年という、節目の年に本作に出演できたことについても、かなり意義があると感じています」
映画『ハオト』には、劇中の人物たちが死に直面する場面が何度か登場する。
自身の人生において「死」というものに強い興味を抱き続けているという原田さんは、改めて自分の死生観と重ねてみたという。
「宇宙人や陰謀論、将来を漫然と不安に思うより、『死んだらどうなるか』ということのほうが興味がありますね。なぜなら、死ぬ瞬間は誰にも必ず来ますから。
どんな気持ちになるのか。魂が抜けるって、どんな感じなのか。死んだ後は何が見えるのか。考えるだけでワクワクします。
誰よりも死を楽しみにしている俳優だと自信があるくらいです」
生きていることに感謝して楽しんで生きる
俳優活動すらも、「死に向かっている道中での出来事」と捉えている。
「20代のころ、『死後の世界』を紹介していたことでおなじみの、丹波哲郎さんと共演させていただく機会があったんですね。
撮影に入る前に『死んだらどうなるのか』をお伺いしたくてずっとお待ちしていたんですけど、丹波さんが遅刻をしてしまって(笑)。到着したらすぐに撮影が始まってしまって、結局話しかけることができなかった。それもあって、ますます死への興味が高まったこともあります」
「どうなりたいという目標はないんですが、生きていれば、『死ぬ瞬間』という待ちに待った未知のゴールがある。それを思うとなんとかなる気もするんですね。
とはいえその瞬間はいつ来るかわからないので、過去を悔やんだり、落ち込んだりして前に進まないのはよくない。いま生きていることに感謝して楽しんで生きることがベストなのではないでしょうか」
そんな原田さんにとっての社会貢献は、「身近な人を喜ばせること」だとも。
「日課のランニングのときに、ゴミ拾いもするようにしているんですね。それって、誰にでもすぐできて、みんなに確実に喜ばれる社会貢献ですよね。あと俺の場合、写真やサインを求められたらできる限り応えることにしています。みんなが確実に喜んでくれることをすると、こちらも確実に嬉しいですから」
原田さんのYouTubeの番組名は、「原田龍二の『ニンゲンTV」」である。
死を楽しみにしながら、喜怒哀楽を受け入れて人生を転がり続ける。それが原田龍二、もとい「人間」らしさの醍醐味なのかもしれない。
PROFILE
原田龍二(はらだ・りゅうじ)●1970年10月26日生まれ、東京都出身。第3回「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」準グランプリ受賞。1992年、ドラマ『キライじゃないぜ』(TBS系)で俳優としてデビュー。1996年、映画『日本一短い「母」への手紙』で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。ドラマ、映画をはじめ、バラエティーや旅番組でも活動。主な出演作に、5代目佐々木助三郎役を演じたドラマ『水戸黄門』、『相棒』シリーズ、映画『一月の声に歓びを刻め』、『太陽とボレロ』、舞台『大奥』シリーズなど。
映画『ハオト』8月8日(金)より池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
取材・文/木原みぎわ 撮影/山田智絵