「頂き女子りりちゃん」判決前に殺到したファンにマスコミ、元漫画村運営者、ラッパーからパパ活議員を励ます会まで…「りりちゃん詣で」狂想曲からわかること
「頂き女子りりちゃん」判決前に殺到したファンにマスコミ、元漫画村運営者、ラッパーからパパ活議員を励ます会まで…「りりちゃん詣で」狂想曲からわかること

2023年の流行語大賞にもノミネートされた「頂き女子」。自らを「頂き女子りりちゃん」と名乗っていた渡邊真衣受刑者はホス狂いやパパ活をする女性たちからカリスマ的人気を博していた。

そんな彼女が収容されていた名古屋拘置所には数多くの面会者が訪れていたという。

書籍『渇愛:頂き女子りりちゃん』から一部を抜粋・再構成し、「一枚噛んでやろう」と群がっていた人たちを紹介する。

「りりちゃん狂騒曲」

猛威を振るっていたインフルエンザや新型コロナウイルスの流行も落ち着き、外気には甘い花の香りが混じり始めた。渡邊被告に判決が言い渡される第5回公判は2024年の4月22日。

彼女が収監されている名古屋拘置所は、面会手続きの順番を待つための整理券を、午前8時から配布する。だが到着順に配られるため、午前7時にはすでに現地メディアが並んでいる。

それゆえに早朝に東京から名古屋まで行ってもその時間には間に合わず、かといって会えない限りは、記事の執筆も進まない。

第5回公判前の19日、さすがに、この時間には誰もいないだろう……と、前日に前乗りして朝5時50分に拘置所に着くと、すでに全国紙の地元支局の若い女性記者がひとり、拘置所の入り口に立っている。日の出を迎えてうっすらと日差しは届いていたものの、風が強く、4月半ばを過ぎてはいたが、身を切るような寒さだった。

女性記者は身をすくめ、足をこすり合わせるようにして自身の身体を温めている。聞けば、朝5時半から並んでいたという。しばらくして6時を回るとまた別のメディアの若い男性記者が現れた。面会入り口に並ぶ我々を見て「なんだ!! この時間でもだめだったか!!」と頭を抱えながら絶叫すると、その場を去ったのだった。



渡邊容疑者は、「ファン」の子たちが事前に手紙を出し、「何日に行きますよ」と連絡すると、その日の面会を空けているものの、記者に関しては、あくまでも「先着順」を基本としているようだった。また、拘置所のルールで面会は1日に1組までと決められている。

その日も私は前日に電報を入れ「明日行きます」と伝えていたものの、その日面会が叶ったのは朝5時半から並んでいた女性記者だった。

渡邊被告のもとに集まったのはマスコミだけではない。海賊版サイト「漫画村」を開設し、大手出版社3社から著作権法違反で訴えられ、約17億円の賠償金支払い命令が下った星野ロミ氏も、渡邊被告に「Xで儲けよう」と提案するために、東京から名古屋拘置所まで面会に来ていた。

また、渡邊被告からは「控訴審に向け、無料で弁護を請け負うと名乗り出た弁護士が複数いて、ある弁護士は『弁護を引き受ける代わりに大阪の『グリ下』や歌舞伎町の『トー横』にしか居場所がない、渡邊さんのような〝可哀そう〟な子供たちを救うための活動のシンボルとなってほしい』という申し出があった」とも聞いていた。

弁護士だけではなく「りりちゃんに、リリック(詩)を書いてほしい」という女性ラッパーや、「女子大生とのパパ活が報じられ、自民党離党に追い込まれた吉川赳前議員を励ますイベントを開催するので、励ましの言葉を寄せてほしい」などなど、「りりちゃん詣で」をする人々は、業種を問わず増えていったのだ。

「こわい……こわい……こわい」

逮捕、起訴された被告人のもとに、記者やジャーナリストが事件の取材のために面会に訪れることはよくある。しかし被告をシンボルにしようと考えたり、「一枚噛んでやろう」という目的で人が集まるという話はあまり聞かない。

面会希望者の増加に加え、SNSでも《性加害者は数年で出てくるのに、りりちゃんが13年はおかしい》《裏金の政治家たちは罪に問われないのに、なぜりりちゃんの罪は重いのか》などの意見が目立つようになってきた。

テレビのワイドショーでも「彼女への求刑は適切か、重すぎるか」という議論が交わされた。

渡邊被告の意図しないところで世の中が白熱し、「りりちゃん」の存在が再び巨大化して「渡邊真衣」とは別のものになっていっているように感じた。

そして迎えた、4月22日の判決当日の朝。

19日に面会の機会を逃した私は、裁判当日にも接見ができることを知り、裁判前に拘置所へ向かった。当日は公判の内容が報道のメインになるからか、現地メディアの姿はほとんどなく、今度はすんなりと面会することができた。前回の求刑のあまりの重さに、ショックで自傷行為をしてしまったほどだった渡邊被告。果たして今、どんな気持ちでいるのだろうか。

面会室に現れた渡邊被告は、緊張した面持ちながらも、笑顔を浮かべていた。「裁判は嫌だけど、今回は泣かないようにします」「控訴はしません」ときっぱりと話す。

控訴しないということは、求刑通りだとすれば「13年」という刑期をまるまる受け入れるつもりということだ。

ただ、それでも「こわい……こわい……こわい」「でも、覚悟は決めてます」と揺れる感情をそのまま言葉に乗せ、私に伝えようとする。続けて、母親に話が及んだ。

「母からは錯乱した手紙が来ていました。お母さんが可哀そう。直子さん、私が繋ぐのでお母さんの話を聞いてあげてください」

「懲役9年・罰金800万円」

その日、渡邊被告に下った判決は「懲役9年・罰金800万円」というものだった。

求刑よりは幾分か軽くなっていたものの、この判決にネットは騒然。

「果たして、渡邊被告の罪はそこまで重いものなのか」という論争はさらに過熱し、作家でフェミニストの北原みのり氏は自身のXのアカウントで、「りりちゃん実刑に強く抗議します」として、次のように主張を綴った。

《家庭に居場所がなく10代を歌舞伎町で過ごす女の子だったリリちゃん(原文ママ)。歌舞伎町にたむろする女の子たちの多くがそうであるように、ホストにはまり、ホストクラブでのお金を捻出するために性産業で働いていたという。そういう意味でりりちゃんは、若い女性を搾取する街に丸ごと飲まれてしまった子どもであり、生きのびる手段は自分がされてきたように誰かを搾取することでしかなかったのかもしれない》

《倫理的でない女がより激しく厳しく罰せられる社会。一方、男は〝倫理的でない女〟を買うことで、貧しい女に金を与え、人助けをしたと自尊心を満足させることができるだろう。その行為を「頂き」と表現したりりちゃんの表現力は、きっといつか人から奪わない方法で生かせるはずだ。だから絶望しないで。なんだかそんなふうにりりちゃんに話しかけたい》

俳優の高知東生も自身のXアカウントで《頂き女子の判決を聞いて「判決ガチャ」ってあるなと実感。子供に対する性犯罪で執行猶予となったり、明らかな性暴力でも無罪判決が出たり、子供への虐待死でも2~3年の判決が出ている。政治家なんか4000万円まで裏金不問だからな》と憤り、さらに《判決の基準が全く分からないし、判決が検事や裁判官次第って恐ろしい》と述べ、それに同調する感想も多く見られた。

渇愛: 頂き女子りりちゃん

宇都宮 直子
「頂き女子りりちゃん」判決前に殺到したファンにマスコミ、元漫画村運営者、ラッパーからパパ活議員を励ます会まで…「りりちゃん詣で」狂想曲からわかること
渇愛: 頂き女子りりちゃん
2025/7/101,870円(税込)256ページISBN: 978-4093898119

「頂き女子」に迫った衝撃ノンフィクション

複数の男性から総額約1億5千万円を騙し取った上、そのマニュアルを販売し逮捕された「頂き女子りりちゃん」に迫った本作に大絶賛の声続々!

◎町田そのこさん
彼女が奪う側に戻らない道を考える。読んでいるときも、読み終えたいまも。



◎橘玲さん
すべてウソで塗り固められた詐欺師
家族や社会から傷つけられた犠牲者
彼女はいったい何者なのか?

―選考委員激賞!第31回小学館ノンフィクション大賞受賞作―

◎酒井順子さん
りりちゃんの孤独、そして騙された男性の孤独に迫るうちに、著者もりりちゃんに惹かれて行く様子がスリリング。都会の孤独や過剰な推し活、犯罪が持つ吸引力など、現代ならではの問題がテーマが浮かび上がって来る。
◎森健さん
今日的なテーマと高い熱量。とくに拘置所のある名古屋に部屋を借りてまで被告人への面会取材を重ねる熱量は異様。作品としての力がある。
◎河合香織さん
書き手の冷静な視点とパッションの両者がある。渡邊被告がなぜ”りりちゃん”になったかに迫るうちに著者自身もまた、”りりちゃん”という沼に陥り、客観的な視点を失っていく心の軌跡が描かれているのが興味深い。

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