トークイベント「大人のお悩み相談室」レポート!ヨシタケシンスケ×原宿(「オモコロ」編集長)月がついてこなくなったら大人です。
トークイベント「大人のお悩み相談室」レポート!ヨシタケシンスケ×原宿(「オモコロ」編集長)月がついてこなくなったら大人です。

絵本作家・ヨシタケシンスケさんと、Webメディア「オモコロ」編集長・原宿さんによる、大人のお悩みに答える特別トークイベントが、去る5月に東京・京橋で開かれました。展覧会「ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ」と、昨年集英社より刊行されたヨシタケさんの『おしごとそうだんセンター』のコラボレーション企画です。


仕事について、大人とは何かについて……事前に寄せられた様々なお悩みに、お二人が答えていきます。大好評のうちに終わったイベントの一部をご紹介します。

 

司会進行=立花もも/構成=砂田明子
撮影=好書好日・松嶋愛

月がついてこなくなったら大人です。 

ヨシタケ 初めまして。原宿さんのことはWebでずっと拝見していました。私以上に、今は大学生になった息子が、青春時代をオモコロで過ごしておりまして。

原宿 それは申し訳ございません(笑)。

ヨシタケ 家族でずっとお世話になっていたので、今日はお会いできて光栄です。

向いてないことをやり続けられるほど人間は器用でも丈夫でもない

─(司会)では一つ目、20代女性のお悩みです。大学3回生となり、進路に真剣に向き合っています。「好き」を仕事にしてみたい気持ちはあるものの、現実や安定を考えると勇気が出ません。仕事選びの基準について教えてください。

ヨシタケ これは王道のお悩みですね。

どういう基準で仕事を探したらいいか、というのはよく聞かれるのですが、最近思うのは、自分に向いていないことを5年も10年も続けられるほど、人間は丈夫でも器用でもないということ。少しでも居心地のいい場所を探していけば、最終的にその人らしい場所に行き着かざるを得ないのではないかと思っています。もし、ぶつぶつ言いながらでも同じ仕事を10年、20年続けている人がいたら、それはある程度向いているんだろうと。だから夢がないとか、やりたいことがわからないという人は、どうしてもやりたくないこと以外は何でもよくないですかね、と思います。それに「夢」と名付けちゃえばいいんじゃないですかと。

原宿 わかります。自分がやりたくないことがわかるのはめっちゃ大事ですね。

ヨシタケ そう。ただ、やってみないとわからないことはあって、僕は半年間だけ会社員をやったことで、団体行動が苦手だということが身に沁みました。

原宿 『おしごとそうだんセンター』のなかにも、〝交じっていく〟重要性が書かれていますね。人や場所に交じった先にしか自分というものはないという感覚を、僕もすごく持っています。それから僕の経験でいうと、好きよりも、続くほうが重要じゃないかと。
テンション上がって最高! みたいなことよりも、平熱のまま続けられることのほうが仕事には向いてると思うんです。今やってるモノを書くとかしゃべる仕事にも、得意とか好きというより、ずっとやってられるという感覚があるんですよ。

ヨシタケ 意外と苦じゃないというキーワードだけで十分。それはすごくありますね。

─次は40代女性です。同じ仕事を長年続けています。絶対に降りられないレールの上を走っていて、ゴールまで進むしかないと思う時があります。この強迫観念をゆるっとさせる考え方はありますか。

ヨシタケ こういうとき、僕はよく、「来世は何をしようかな」と考えます。

原宿 二回目がある前提! いいですね。一度きりじゃないと思ったら、ちょっと気持ちがラクになる。

ヨシタケ そうそう。
来世何しようかなって考えると、だったら今世で予行演習しておこうかな、って気になるかもしれない。物語を導入することで余裕が出るんだったら、どんどん採用していいと思うんです。

原宿 なるほど。僕はお悩みの中の「ゆるっと」がポイントなのかなと思いました。これから何か別のことをしたいというわけではなく、気持ちを緩めたいと。そんな時、たとえば「船」を想像するんです。長い航海を経た一艘の船がある。船員は年を重ねベテランになり、船は長い航海の中で錆びついたり傷ついたり経年劣化している。でもこうした変化って、よく見るとカッコいいんですよ。相談者の方にも、同じ仕事を続けてきて私はこれでよかったのかな、という気持ちがあると同時に、そんな自分を誇らしく思う気持ちもあるはずです。後者の側の気持ちに光を当てると、ゆるっとするんじゃないかなあと思いました。

暇な上司がしゃべりかけてきて仕事が進みません……。

─30代女性から。私はすごーく忙しいのに、暇な上司がしゃべりかけてくるので仕事が進みません。どうしたらいいですか。上司と仲はいいのですが。

ヨシタケ これはですね、リモート会議をするときに使うヘッドセット的なものを着けるとか。神様の像を机に置いて、話しかけられたらお祈りを始めるとか。

原宿 それはいいですね。自分の聖域をつくっておくと。あるいは朝、上司から、今日したい話の箇条書きをメモでもらっておいて、これは×、これは〇をつけておく。

ヨシタケ 事前申告は会社らしくていいですね。「人事部を通して、給料の範囲で聞けるのは3つまでになりました」とか言えば、上司はぐうの音も出ないかも。

原宿 その結果、上司の話がどんどん面白くなっていく可能性はありますね。

制限があると表現は伸びていくはずなので。

ヨシタケ たしかに。すると今度は、相談者の方が、もっと上司の話を聞きたくなるかもしれません。

─20代女性からです。私は給料日に年金や税金が引かれていると「大人だな」と思います。お二人が思う、大人になった瞬間はいつですか?

ヨシタケ 難しいですね。絵本を描いている僕はよく「子供の気持ちを忘れない秘訣は何ですか」という質問を受けるんですが、逆に「どうすれば大人の気持ちになれるんですか」って聞きたくなるんです。いまだに大人って偉いなあって思うんですよ。

原宿 大人なのに。

ヨシタケ そう、年齢的には大人なのに、価値基準がほぼ子供のままなんです。忘れてないんじゃなくて、アップデートできてないだけ。しかもみんなそうだと思っていたら、どうやらみんなは大人になっているので驚きました。

そういうところを芸にしていくしかないと今は思っていますが。

原宿 僕は力士が20歳とか25歳と聞くと驚きます。世の中で活躍されている人は自分より年上な感じがいまだにあって。

ヨシタケ あります。気づいたら周りが年下ばかりになっていて、へんな感じがする。

原宿 そうした違和感を覚えるのが大人なのかもと思ったりしますね。自分の歳がだんだんわからなくなって、興味がなくなって、誕生日を祝いたくなくなったら大人。

ヨシタケ そうですね。僕が絵本作家として考えたことがあるのは、月がついてこなくなったら大人なんじゃないかと。子供の頃、夕方、買い物の帰りとかにお母さんの自転車の後ろに乗っていると、月が追いかけてきたじゃないですか。あるとき、月はうんと遠くにあるだけで、動いていないという真理を知ったとたん、ついてこなくなったんです。そのときに、世界がちょっとつまらなくなった。同時に大人になった感じがしたんです。

原宿 あ、すごい。すてき。

ヨシタケ この話は絵本になりそうだなと思ったことがあります。

原宿 何かを知った瞬間に世界が一変することはありますね。しかも一度知ると、その前には戻れない。子供から大人って一方通行だから切ないんだ。

ヨシタケ そうですね。こうした微笑ましい話を、これからもたくさんしていけたらいいなと思っています。
 今日はこうして相談に答える側ですが、世の中って相談する派と、しない派に分かれますよね。僕はしない派に属しているんです。原宿さんはどっちですか?

原宿 僕もそこまで相談しないタイプですね。矛盾を抱えているのが好きなんですよ。矛盾してこそ現実というか、生きているという感覚があるので、相談してどうこうしたいというより、矛盾してる、すげえ、最高、みたいな感覚になっちゃうんです。

ヨシタケ ということは、相談を聞くのは楽しいってことですよね。

原宿 聞くのも答えるのも楽しいです。時間があれば、相談の千本ノックもいけるなと(笑)。ずっと聞いていたいなと今日は思っていました。

ヨシタケ 僕もとても楽しかったです。

おしごとそうだんセンター

ヨシタケ シンスケ
トークイベント「大人のお悩み相談室」レポート!ヨシタケシンスケ×原宿(「オモコロ」編集長)月がついてこなくなったら大人です。
おしごとそうだんセンター
2024年2月26日発売1,760円(税込)A5判/120ページISBN: 978-4-08-771858-4「しごと」ってなんだろう?
地球に不時着した宇宙人がやってきたのは、ちょっと風変わりな職業相談所。
宇宙人は相談所のスタッフと一緒に、この星で生きていくこと、働くことの意味について考えはじめる。
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すべての子どもと大人のためのヨシタケシンスケ版“ハローワーク”ストーリー!
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