自爆型ドローンの価格破壊、初任給7万円で戦争へ行く日本人…歴戦の戦場カメラマンが見た「ウクライナ戦争」はこれまでの戦争と何が違うのか
自爆型ドローンの価格破壊、初任給7万円で戦争へ行く日本人…歴戦の戦場カメラマンが見た「ウクライナ戦争」はこれまでの戦争と何が違うのか

ロシアのウクライナ侵攻から3年半が経過しようとしている。21世紀最大規模の戦争の現場ではいったい何が起きているのか。

取材他のために何度も現地ウクライナに赴き、『戦場で笑う』(朝日新聞出版)を上梓し、8月20日に写真集『FPV -ウクライナ狂想曲-』(笠倉出版)を刊行予定の戦場カメラマンの横田徹氏に話を聞いた。

ウクライナ戦争に見る全く新しいカタチの戦争

――横田さんは、1997年のカンボジア内戦から報道カメラマンとしてのキャリアを始め、インドネシア動乱、東ティモール独立紛争、コソボ紛争など世界各地の紛争地を取材していらっしゃいます。もっとも長く通った場所はアフガニスタンですか?

横田徹(以下同) そうですね。9.11同時多発テロの直前に、アフガニスタンでタリバンに従軍取材し、2007年から12年まで、タリバンと戦うアメリカ軍に継続的に従軍取材を行いました。

――そうした取材の成果はテレビにおいてはニュース映像や動画リポート、雑誌では写真、長いルポルタージュは単行本の形で発表されてきました。先月には、半生記ともいえる前著『戦場中毒――撮りに行かずにいられない』(文藝春秋)以来、約10年ぶりとなるルポ『戦場で笑う』を上梓し、続けざまに今月は写真集『FPV-ウクライナ狂想曲-』​が刊行されます。写真集は、何年ぶりでしょうか。

共著の写真インタビュー集『SHOOT ON SIGHT 最前線の報道カメラマン』(辰巳出版)が出たのは2011年ですが、単独の名義だと2004年の『REBORN: AFGHANISTAN 2001-2002』(樹花舎)以来なので、ずいぶん久しぶりです。

――横田さんの写真集は『SHOOT ON SIGHT』も『アフガニスタン最前線レポート』(大洋図書)も拝見しているのですが、今回の『FPV』は、従来のいわゆる「戦場写真」とはかなり異なっていますよね。

「現代の戦争」の質が変わり始めた嚆矢はナゴルノ・カラバフ紛争(2020年)ですが、今次のウクライナ戦争でまったく新しい顔をした「戦場」と「最前線」が生まれたことは確かです。

――その主たる要因となっているのが、写真集のタイトルでもあるFPV。ファースト・パーソンズ・ビュー(一人称視点)ドローンの略称ですが、そもそも、これはどういった種類のドローンなのでしょうか。

もともとは兵器でも何でもありません。

ドローン・レースで使われる競技用の超軽量の小型ドローンです。操作している者のゴーグルには、リアルタイムでドローンカメラから映像が送られ、最高時速は100キロを超えます。

「自爆型ドローン」の需要が止まらず4割引で売買

――ウクライナ軍がFPVを使ったドローン戦術に〝開眼〟したきっかけは?

戦略的要所のバフムートをロシア軍に奪われた2023年の春頃が転機かもしれません。この時期には、アメリカからの支援が滞っており、ウクライナ軍は砲弾不足に悩まされていました。そんな状況の中、急速に関心を集めるようになったのがドローン戦術でした。

遠隔操作でアクロバティックな動きができるFPVドローンに直接、対戦車ロケット砲弾や爆弾を搭載することで、移動する軍用車両から塹壕の中にいるロシア兵まで、砲弾を節約しながら、ピンポイントで攻撃することが可能になったのです。

――初期には「カミカゼ・ドローン」と呼ばれましたが、現在は「自爆型ドローン」という呼称が一般的になってきたようです。

ウクライナ軍もロシア軍も大量のドローンを消費しているため、その市場価格はどんどん値下がりしています。昨年4月に取材したときには「ドローン1機/1000ドル」ほどでしたが、その半年後には「600ドル前後」になっていました。それでも、世界最大のドローンメーカーである中国のDJIあたりは儲かっているのでしょうね。

――ドローンについて伺っていると、現代の戦争は「無人機による静かな戦争」なのかと勘違いしそうになりますが、「日本人義勇兵の実像」のパートを読むと、ウクライナ戦争もやはり、横田さんが取材し続けてきたこれまでの戦争と地続きであると痛感させられます。

世界各地の紛争地には――ことさら存在を主張しないだけで――ときに日本人義勇兵が潜んでいますが、今回のウクライナ戦争にはかなりの数の日本人が参加しています。元フランス外人部隊、元自衛官、元ヤクザ……。

初任給7万円で戦場へ行く日本人

――軍隊もヤクザも、どちらも想像の及ばない世界ですが、横田さんがフォーカスした45歳のケンさんは元兵士でも、元ヤクザでもなく、ホテルや出版社で働くサラリーマンでした。

ケンさんが義勇兵になるきっかけが「離婚」というのがリアルでいいんです。幼い息子さんに会えなくなってしまい、仕事にも身が入らず、悶々としているうちに、多くの子供たちが戦火の犠牲になっているウクライナに心を奪われる。私にも娘がいるので、ケンさんの気持ちがまるで分らない、というわけではありません。

――軍歴のない45歳のケンさんが、約1カ月間の新兵訓練だけで戦線に投入されることにも驚きました。そして、義勇兵にも給与が生ずるという事実にも。

初任給は7万円だったそうですが、翌月からは増額されたようです。義勇兵たちの話をまとめると、20万円ほどの基本給に加えて前線に出るときは10万円程度の手当、月の稼ぎとしては30万~40万円ほどではないかと推測しています。

――日本のサラリーマンとしては悪くないですが、命を懸ける値段と考えると……。

エンベッド(部隊の中で兵士と共に生活する従軍取材)のときも同じですが、兵士には寝る場所と食事が保障されるので、生活費が丸ごと手元に残ります。ケンさんはほとんどを息子の養育費に回しているそうです。

――横田さんの目には、ケンさんが「どんな人物」に映りましたか?

「戦火に苦しむ人たちを救いたい」という信念に嘘はないと思います。

同時に、死ぬかもしれない極限の状況下で、自分の能力を試してみたい。そうした気持ちも本音としてはあるでしょう。そのエゴが人助けにつながるならば、戦場で命を落としたり、負傷することも本望なのかもしれません。

有名になりたいという動機で義勇兵になった目立ちたがり屋の多くは、早々に去りました。私が会った義勇兵たちは今もウクライナで戦っています。

取材・文/山田傘 写真/横田徹

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