
JNNが8月2日、3日の両日に行なった世論調査では、石破茂総理(68)の次の総理にふさわしい人として、回答の多かった順に、1位・小泉進次郎農水相(44)、2位・高市早苗前経済安保相(64)という結果だった。リベラル色の強い石破政権で、自民党から離れてしまった「岩盤保守層」の支持を取り戻すために、保守派からは“高市待望論”を唱える声もあるものの、課題は党内の幅広い支持を得られるかどうかだ。
一枚岩になりにくい自民党保守派
「私なりに腹をくくった。もう一回、党の背骨をガシッと入れ直す。そのために戦うと約束する」
参院選期間中から街頭演説で、総理の椅子への意欲を露わにしてきた高市早苗氏。石破退陣論の高まりを受け、その動きは素早かった。
自民惨敗の結果が出るや、7月23日に議員宿舎で、松下政経塾の先輩で昨年の総裁選で選対事務局長を務めた山田宏参院議員や、黄川田仁志衆院議員らと会合を持った。
「高市氏の前のめりな姿勢は、一部でひんしゅくを買っている面もある。高市氏は昨年の総裁選の決選投票前のスピーチでも、持ち時間の5分間を超過して話し続け、空気の読めなさを指摘された。
政調会長など枢要ポストを歴任し、真面目な勉強家として知られますが、もともと“飲み会嫌い”を公言しており、人心掌握術に長けたタイプではない。経済安保相時代の2023年には放送法を巡る総務省文書を『ねつ造』と主張するなど、その言動が不安視される面もあります」(全国紙政治部記者)
そんな高市氏が党内の幅広い支持を得るには、未だ多数の課題が残っている。
その一つが、何かと分裂しがちな、自民党保守派をまとめられるかどうかだ。
「高市陣営は、いいヤツらが多いけど、一本気すぎるところがある。だから、党内でも浮いてしまうんだ」
7月後半、自民党のベテラン議員は、筆者の取材にこうぼやいた。要は、自民党保守派には、一枚岩になりにくい側面があるのだ。
実際、昨年の総裁選でも、当初は自民党保守派が一丸となって高市氏を推すムードに乏しく、推薦人集めもすんなりといったわけではなかった。その状況は今も変わっていない。
たとえば、高市氏が顧問を務める勉強会「保守団結の会」は、党内でも有数の保守系グループだ。その会長の高鳥修一前衆院議員は、かつて稲田朋美元防衛相が主宰していた保守系勉強会「伝統と創造の会」で行動をともにしていた。
しかし、2020年に稲田氏がLGBT問題でリベラル寄りの姿勢に転じたことなどから、高鳥氏は同会を脱退した。袂を分かった高鳥氏は、保守団結の会を立ち上げた。
「このような経緯から、ともに保守系の勉強会でありながら、両会にはいまだ微妙な緊張関係が残っています。8月15日の靖国神社参拝なども、本当は合同で行えばいいのですが……。高市氏が総理の座を射止めるためには、大きな目的のために、まずは党内の保守派が団結することが必要です」(前出・自民ベテラン議員)
昨年の総裁選後、麻生氏は「仲間作りをして準備をしておけ」と…
二つ目の懸念材料が、“保守派のライバル”の出現だ。
つまりは、前回総裁選に出馬した“コバホーク”こと、小林鷹之元経済安保相(50)の台頭も、高市氏にとっては懸念材料とみられる。
「ハーバード大院卒で財務官僚出身の小林氏は、岸田内閣で、当時、当選3回ながら経済安保相に起用された自民党のホープです。故・安倍晋三総理も期待を寄せ、2人で食事をする間柄だった。
2021年の総裁選では推薦人になるなど、もともと高市氏とは近しい間柄でしたが、昨年の総裁選には小林氏自身も出馬し、保守派の論客として存在感を示しました。
『総裁選があれば次も出る』と公言しており、7月28日の両院議員懇談会でも石破総理の責任論を追及しました。高市氏と小林氏の双方が名乗りをあげることにより、保守派の票が分裂することを危惧する声も党内にはあります」(前出・政治部記者)
三つ目の懸念点は、前回総裁選で支援を受けた麻生太郎・自民党最高顧問(84)の支援を今回も受けられるかどうかだ。
現存する唯一の派閥を率いる麻生氏は、次期総裁選において一定の影響力を持つとみられるが、麻生派所属議員は筆者の取材に対して「麻生さんはまだ腹の内をみせてない」と打ち明ける。
「石破総理を蛇蝎のごとく嫌う麻生氏は、前回総裁選で高市氏を支援。総裁選後には高市氏に『飲み会に行って仲間作りをして準備をしておけ』と助言したとされます。
高市氏は7月23日夕方に、麻生氏と議員会館で面会するなど、今も頼みの綱としていますが、麻生氏が今回も高市氏を支援するかどうかは未だ不確定な面もあります」(自民党関係者)
麻生氏は今年に入ってから、鈴木英敬衆院議員や、田野瀬太道衆院議員ら、小林氏に近い若手・中堅議員を集め、「麻生塾」と題した食事会を重ねてきた。周囲に「与野党ともにこの人ならと思ってもらえる総理じゃなきゃダメだ」と語る一方で、「最後は勝ち馬に乗る」(前出・自民党関係者)との見方も強い。
高市氏は立ちはだかる壁を乗り越え、支持を拡げられるのか。「女性初の総理」を目指した戦いはすでに始まっている――。
取材・文/河野嘉誠 集英社オンライン編集部ニュース班