「どう聞けばいい?」ChatGPTに推奨された銘柄を2年間持っていたら…驚異の+41.97%リターン「儲かる株を教えてくれ」と聞いてもダメ
「どう聞けばいい?」ChatGPTに推奨された銘柄を2年間持っていたら…驚異の+41.97%リターン「儲かる株を教えてくれ」と聞いてもダメ

投資で成功したいと願う個人投資家は多いが、AIに「儲かる株を教えて」と尋ねても、ありきたりな答えしか返ってこない。しかし、AIの使い方はそれだけではない。

イギリスの金融比較サイトFinderが行った実験では、プロが使う投資基準をAIに与えたところ、ChatGPTが選んだ仮想ファンドが、人気投資信託を大きく上回るリターンを記録した。AIは未来を予測するのではなく、人間が定めたルールに基づいて情報を整理・分析することで、投資の補助役として絶大な力を発揮する。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が、AIを投資に活用するための賢い使い方を解説する。 

「儲かる株を教えてくれ」と聞いてはダメ 

「儲かる株を教えてくれ」とChatGPTに尋ねても、結果はたいした出力はしてくれないものだ。花王、キーエンス、信越化学といった高ROE(自己資本利益率)の有名企業の名が出てくるだけで、すでに誰もが知っている株ばかりになる。

よく知られた株に投資するとしても、市場の平均程度のリターンは期待できるが、大きく稼げるとは限らない。多くの個人投資家が夢見るような「投資信託、ファンドマネージャーに勝つ」という成果を目指すには、聞き方に工夫が必要になる。

AIにどんな条件を与えるか、どのように指示を出すか。それによって結果は大きく変わる。

イギリスの金融比較サイトFinderが、ChatGPTに投資アドバイスをさせる実験(※1)を始めたのは2023年3月だった。

ChatGPTに、優れたファンドが使っている投資基準をそのまま伝え、「競争力のある株を選んでください」と指示を出した。選定条件は、財務が健全で、過去に安定した成長を見せていて、ライバルに勝つ力を持っている企業。つまり、プロが好む銘柄をAIに選ばせるという考え方だった。

ChatGPTが提示した38社には、マイクロソフト、エヌビディア、アマゾン、メタ、アルファベット、ビザ、ウォルマート、コカ・コーラ、P&G、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどが並んだ。誰でも聞いたことのある企業ばかりだったが、大事なのは中身ではなく構成だった。全38銘柄を同じ比率で持つといういたってシンプルな仕組みでポートフォリオを作った。

この仮想ファンドと、イギリスで人気の投資信託10本との比較が始まった。比較対象には、Fundsmith、VanguardのLifeStrategyシリーズ、Fidelity、HSBCのインデックスファンドなどが入っていた。いずれもコストが安く、分散投資が利いていて、多くの投資家から支持されているファンドばかりだった。

99%の営業日で、比較対象を上回るパフォーマンス 

実験は2年間続けられた。2025年3月の時点で、ChatGPTファンドは+41.97%の累積リターンを記録した。人気ファンドの平均リターンは+27.63%だったので、ChatGPTファンドは14.34ポイントも高い収益を上げた。年率換算でいうと、ChatGPTファンドは約19%、人気ファンドは約13%となった。

Finderの分析によれば、ChatGPTファンドは運用期間の約99%の営業日で、比較対象を上回るパフォーマンスを出していた。

これは偶然ではなく、指示の仕方が功を奏した結果だった。ChatGPTに「儲かる株を出せ」と命じたのではなく、プロが使う選定基準をそのまま与えたうえで、その基準に合う企業を探させた。

AIが自分の知識で判断したのではなく、人間が組み立てたフィルターを通じて株を選ばせたことで、成果の質が高まったのだ。

ChatGPTはニュースの分析でも実力を見せている。CFA協会(世界的に権威ある金融専門機関)が行った研究(※2)では、世界の金融ニュースを毎日配信するブルームバーグの要約記事をChatGPTに読ませ、その内容が明るい話か暗い話かを判断させた。

たとえば、「雇用統計が改善」「インフレ率が低下」などは前向きな内容、「金利が急上昇」「企業の利益が減少」などは後ろ向きな内容とされ、AIはそれぞれに点数をつけた。こうして作った「市場の気分」を表すスコアを使って、株の売買タイミングを決める戦略が考案された。

ただ株を持ち続けた場合よりも良い結果に 

この戦略を、NASDAQというアメリカの代表的な株価指数で検証したところ、ただ株を持ち続けた場合よりも良い結果になった。どれだけ安定して利益を出せたかを見る「Sharpe比率」は0.88で、持ちっぱなしの0.79より高かった。下落の不安定さをおさえたかを見る「Sortino比率」も1.06で、通常の1.02を上回った。

大きな損を避けながら利益を出せたかを示す「Calmar比率」も0.52と、比較対象の0.45より良かった。つまり、価格のブレをおさえつつ、より効率的に利益を得られたということになる。

プロが行ってきた作業は簡単に再現できる 

同じことが、Finder社のChatGPTファンドでも起きていた。38銘柄の選び方も、「儲かる株を教えて」といった単純な質問ではなかった。

「負債が少ない」「過去に成長している」「競争力のある会社」といった条件をあらかじめ与え、その条件に合った会社を選ばせた。AIが独自に判断したのではなく、人間がルールを作り、AIがそれをもとに処理した形である。

つまり、AIに正しく指示を出せば、プロが行ってきた作業を簡単に再現できるということになる。

ChatGPTが優れていたのは、銘柄の中身よりも、選定方法と構成の安定性にあった。選ばれた企業は、どれも世界的に有名な大企業だったが、重要だったのは、これらをどう組み合わせたか、どんなルールで並べたかだった。

1つ1つの銘柄に大きな期待をかけるのではなく、分散して同じ重みで持つという考え方が、安定した成果をもたらしたのだ。

あいまいに聞けば、一般的な答えしか返ってこない

このような使い方をすれば、ChatGPTは「判断の補助役」として大いに役立つ。逆に「おすすめを教えて」とあいまいに聞けば、一般的な答えしか返ってこない。使い方ひとつで、成果が大きく変わる。

投資はリスクがある。AIを使えば絶対に儲かるという話ではない。ChatGPTが選んだ銘柄も、今後ずっと上がるとは限らない。

だが、工夫次第で人間の力を拡張し、よりよい判断を助ける力にはなってきている。難しい分析を肩代わりしてもらいながら、自分の投資判断に活かす。

そうした使い方が、これからの時代には現実的な選択肢になる。

文/小倉健一

※1
ChatGPT stock picks vs 10 popular funds(ChatGPTの株式推奨銘柄 vs 10の人気ファンド)
https://www.finder.com/uk/share-trading/share-trading-research/ai-investing

※2
Using ChatGPT to Generate NLP-Driven Investment Strategies(ChatGPTを活用して自然言語処理(NLP)に基づく投資戦略を生成する)
https://blogs.cfainstitute.org/investor/2025/01/07/using-chatgpt-to-generate-nlp-driven-investment-strategies/

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