〈電動キックボードでの交通違反続出〉「想定外」と政府は主張も…最大手LUUPは中国SNSと連携し、外国人観光客向けに電動アシスト自転車の利用を開始し広がる不安
〈電動キックボードでの交通違反続出〉「想定外」と政府は主張も…最大手LUUPは中国SNSと連携し、外国人観光客向けに電動アシスト自転車の利用を開始し広がる不安

道路交通法の改正で運転免許なしで乗れるようになった「特定小型原動機付自転車」、いわゆる電動キックボードの違反が続出している。シェアサービスの電動キックボードは交通ルールを理解していることを確認する「テスト」に合格すれば乗ることができる仕組みだが、このテストは“カンニング”で簡単にクリアできるようで、違反を減らす手は今のところなさそうだ。

電動キックボードでの違反、1台につき1.8件も摘発

警察庁が実態を明らかにしたのは6月の参議院内閣委員会。石垣のり子議員の質問に、電動キックボードでは2024年に4万1246件の交通違反が検挙され、人身事故が338件起きたと答弁した。

2024年4月1日時点で行政が把握する電動キックボードの台数は2万2321台で、1年に1台につき1.8件違反が摘発された勘定になる。

同じ答弁で警察庁は、⾃転⾞の違反検挙数は5万1564件、事故は6万7531件だったとも回答。石垣氏によると自転車は2019年時点の登録が約6760万台あり、違反検挙や事故発生率は電動キックボードのほうが比較にならないほど高い。

「登録数の1.8倍というのはこれ、違反、相当あり過ぎとしか言いようがないわけですね」と石垣氏が違反数への評価を政府に質すと、坂井学国家委員長は「法改正のときに、どうだったかということはなかなか想定できなかったということで、今現在の状況を注視している」と答えた。

坂井氏がいう道交法改正は2023年7月に施行された。それ以前は電動キックボードに乗るには運転免許が必要で、時速30キロ以下で車道だけを走ることができたが、改正で16歳以上なら免許不要で乗れるようになった。

「時速20キロ以下の速度で第一車線(左側車線)の左端か自転車道を走行できます。交差点では二段階右折をしなければなりません。また、一部の歩道も時速6キロ以下なら走れるようになりました」(社会部記者)

石垣氏への回答とは別に警察庁は2024年11月に、改正法施行から1年後の2024年6月までに起きた2万5156件の違反検挙と219件の人身事故の分析をまとめている。

それによれば検挙された55%の1万3842件は「通行区分」の違反で、信号無視が31%だった。違反がこれほど多くなることは想定外だったと政府は言うが、免許を不要にしたことで道交法の知識が浅かったり、順法意識が低かったりする人が多く乗るようになったのではないのか。

街の人はどう感じているのか、東京都渋谷で客待ちをしていた60代のタクシー運転手Aさんは「正直、非常に邪魔ですよ。フラフラして寄ってきて、中途半端なスピードなので車を運転する側はヒヤヒヤします」と渋い顔だ。

「特に渋谷や表参道周辺は多いです。接触されたという話も会社の同僚から聞きます。左側にぶつかってきてミラーを叩かれて逃げられたと言っていました。事故のことを考えると渋谷や表参道はちょっと来たくないなと思ってしまいます」(Aさん)

別の60代の運転手Bさんも「ここ2、3年で増えたよね。夜中に住宅街の細い道で急に出てきてびっくりすることがあるよ。あちらに一旦停止の標識があるのに停止せずに入って来て、こっちが急ブレーキで停まった後にムッとした顔をされたり。あまりいい印象はないね。

あとナンバープレートがベコベコなものとかあるでしょう。どんな乗り方をしてるんだろうね」と話し、交通ルール無視の運転に手を焼いていることを隠さない。

14億人超えの中国SNSで電動アシスト自転車を利用できるサービスも

街を走る電動キックボードの大部分はシェアサービス会社のもので、2024年11月の警察庁調査では事故の92.7%はレンタル車両で起きている。

シェアサービス会社は無免許の人が乗ることに対応し、アプリで行なう「交通ルールテスト」に全問正解しなければ電動キックボードには乗れないと対策を取っていることをアピールする。

だが、渋谷を歩いていた22歳の大学生Cさんは「終電を逃した時とかにタクシーより安いので重宝しています」と言いながら、「“飲酒して使った”とか、“テストで友人に答えを教えてもらって乗った”とかいう話は聞いたことがあります。手軽さが裏目に出ているなとは思います」と話す。

石垣参議院議員も質疑で、別人に答えてもらったり、別の端末で答えを調べて入力したりする方法でテストをクリアできてしまうではないかと指摘。

これに坂井国家公安委員長は「(テストの)更なる充実改善はこれまた必要だと思うので、事業者に働きかけを行なってまいりたい」と答弁し、改善の必要性を認めている。

その事業者は事態をどうみているのか。

最大手のシェアリングサービス「LUUP」を運用する株式会社Luupにたずねると、警察庁が発表した違反検挙や事故のうち同社の電動キックボードと電動アシスト自転車に絡むものがどれだけあるかは「弊社で集計したものではないため承知しておりません」とした上で、交通ルールテストの実施や違反者のアカウント凍結措置などは警察庁のガイドラインを遵守していると説明している。

いっぽう、この警察庁統計が国会で示される直前の6月10日から、同社は月間アクティブユーザーが14億人を超える中国のSNS「微信(ウィーチャット)」のミニプログラムで電動アシスト自転車を利用できるサービスを開始。

中国人観光客の多くがLUUPの決済に必要なクレジットカードを持っていないため、ウィーチャットの支払い機能での決済をできるようにすることでLUUPの利用増加を図る措置だという。

同社は、ウィーチャット利用者は交通ルールの啓発動画を視聴し全8問の交通ルールテストに連続正解しなければサービスを受けられないと説明。電動キックボードのシェアサービスにまでウィーチャットの利用を拡大することは「現時点では予定しておりません」としている。

渋谷で客を待っていた50代の女性タクシー運転手Dさんは「タクシー業界は最近外国人観光客の利用が増えていますから、おびやかされないといいですけど」と苦笑し、中国の観光客は電動アシスト自転車を使うだろうとみる。

インバウンドも加わり利用が拡大する電動キックボードや電動アシスト自転車などの1人用マイクロモビリティ。交通違反が続出するなら事故の危険に直結するだけに早急な対策が必要だ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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