「それまで出会ったどんな大人よりも風俗のお客さんと従業員はまともだった」施設育ちの元キッズモデルが救われた“最もフェア”な世界 と見すえる未来
「それまで出会ったどんな大人よりも風俗のお客さんと従業員はまともだった」施設育ちの元キッズモデルが救われた“最もフェア”な世界 と見すえる未来

日本人とフィリピン人のハーフとして生まれた新波(しんば)リアさん(23歳)。2歳から施設で暮らしながら、恵まれた容姿を武器に芸能活動をスタートしたものの、高校時代に施設の方針や芸能事務所との仲違いから、施設を脱走。

 アルバイトを転々とする中、リアさんを「家族の一員」と呼び、可愛がってくれたコンビニのオーナーがこれまで働いた分の給料を持って夜逃げ。藁にもすがる思いでリアさんは風俗の門を叩いた。(前後編の後編) 

対価に見合ったお金をくれる風俗がありがたかった 

途方に暮れていた当時17歳のリアさんが最初に働いたのは大宮のデリバリーヘルスだった。

「体験入店でしたが、朝の6時から夕方17時まで働いて12万円もらえました。札束を見た瞬間『よかった…これで今日のご飯が食べられる』って素直にそう思いました」

リアさんは風俗の仕事を「キレイな世界」だと感じたという。

「仕事内容うんぬんより言われた仕事をキチンとしたら、その対価に見合ったお金をその日に必ずくれる。風俗の仕事は当時の私にとってセーフティーネットみたいなもの。この世界に生かしてもらったと思ってます。今まで私が出会ったどの大人よりも、風俗のお客さんと従業員の方がまともでキレイだと思いました」

出勤すれば必ず給料がもらえる。そんな当たり前のことにリアさんは心が落ち着いたという。

そうしてリアさんは1店舗だけでなく、さまざまな地域の風俗店で働いた。最高月収は1000万円を超えたこともある。しかし、常に芸能界を諦めてしまった後悔と「今後も風俗で稼ぎ続けられるのか」という不安がつきまとっていたそうだ。



「風俗で稼ぐことはできていましたが『この先どうやって生きていこう…』という漠然とした悩みは常にありました。この悩みを当時ルームシェアしていた友人に打ち明けると『稼ぐことだけ考えるなら風俗嬢として、もっと底上げができたらいいんじゃない』とアドバイスをもらったんです」

風俗嬢としての底上げ。それが一体何を指すのか? リアさんが試行錯誤しているタイミングで知り合いだったセクシー女優の事務所の関係者から「女優にならないか?」と誘われる。スカウトされた最初は「抵抗しかなかった」という。

「キッズモデル時代は正統派の女優になりたかったから、セクシー女優になることにはすごく抵抗がありました。今みたいにセクシー女優に理解がある時代ではなかったし。でも表に出ることへの未練も断ち切れなかった。悩んで悩んで…やることを決めました」

だが、実際のセクシー業界はリアさんが経験した芸能界とは全くの別物であった。

「大女優か! ってくらい現場でチヤホヤしてくれるので、それには驚きました。『やるなら全力で!』と覚悟を決めていましたが、『力抜いてねー』と言われてしまい、空回りしてしまった感じがありましたね(笑)。

キッズモデル時代は心ない言葉に傷ついたりもしたけど、セクシー業界の現場では丁寧に接してくれて。みんな仕事だからということはわかっていたんですけど、私にはありがたかったんです」

家族と一緒に住みたい、稼いだお金は家族へ

セクシー女優として活動しつつも、風俗の仕事は続けていたリアさん。

セクシー女優という肩書きもついたことで、20代前半で平均的なサラリーマンの年収に匹敵するほどの月収を稼ぐほどになったそうだ。

気になるのは、そのお金を何に使っていたのかを尋ねると「家族です」と伏し目がちに答えた。

「母と再会して一緒に住むことになりました。毎月50万円くらいは生活費として渡していたかな。ブランド物をプレゼントしたこともありましたね。お金なんていくらでもあげるから、ただ私を『かわいい』と思ってほしかったんですよね」

母親と一緒に住むようになった家には、幼い頃に離れ離れになった姉も呼んだ。「家族みんなで暮らしたかったから」とリアさん小さく呟く。

「姉は大学に進学したかったみたいで、金銭的に無理だと諦めていたことで円形脱毛症ができていたんです。私自身やりたいことができないつらさはよくわかるから、自分と同じような思いをしてほしくなかった。だから大学受験のための予備校代も大学の全てのお金も、就活用のスーツすらも、全て私が出しました」

しかし、大学を卒業し、就職した姉は突然「彼氏と暮らしたい」と言い、その新居の敷金と礼金をリアさんが負担することになった。そして「お姉ちゃんの家に遊びに行きたい」と伝えると「妹がいることは言ってない。言えるわけない。アンタみたいな風俗嬢のことなんて」という残酷な答えが返ってきたという。



「さらに姉は『風俗の仕事は汚い。会うのはもうこれっきり』と言い捨てて出ていきました。家族がね…ほしかっただけなんですけどね」

そう言ってなんともいえない表情で笑うリアさん。母親と2人で暮らすことになって間もなく、地方の出稼ぎから自宅に帰ると電気がついておらず、母の荷物が全てなくなり、テーブルの上にはリアさんが購入したスマホがそっと置かれていた。

「置き手紙も何もなく、連絡も取れない。少し前に『日本の冬は寒くて嫌』と言っていたし、知らない人を度々連れ込む母に『男を連れ込まないで』と怒ってしまったこともあるから、嫌になって出ていったんでしょうね」

彼女はまたひとりぼっちになってしまった。そしてがむしゃらに働く日々がいまも続いている。

自分の人生を切り開くのは自分しかいない 

壮絶な人生を歩んできたリアさんだが、決して悲観的にはなっていない。

「今も毎日ご飯が食べられるのは風俗の仕事があったから。色々なことがあったけど、その節々でこの仕事に助けられてきました。でも、いつまでも続けられないってことはわかっていて…。そう遠くない未来の風俗卒業に向けて、次にできることを見つけている最中です」

母親に捨てられたこと、キッズモデル時代に浴びせられた心ない言葉、コンビニ店長の夜逃げ、再会した母と姉との絶縁…。

リアさんはこれまでの波瀾万丈な人生をどのように思っているのだろうか。

「振り返ると、環境や立場が何度も大きく変わる人生でしたが、その中で出会えた人たちや経験すべてが、今の自分を作ってくれたんだと思います。大変なことも多かったけど、その分、どんな状況でも前を向く力は自然と身についたかな。

風俗の仕事が世間からどんな目で見られていても、私は風俗のおかげで、自分の道を選び直せていると思うので、感謝の気持ちでいっぱいです。一度きりの人生を私らしく全う出来たら嬉しいですね」

最後に、結婚願望について聞いてみると「以前はめちゃくちゃしたかった」というが「結局、人が信用できない」と続けた。

「血がつながっている人に裏切られたから“どうせ私に利用価値がなくなったら、みんないなくなるんでしょ?”という気持ちがなくならない(笑)。

純粋に『好き』と言ってもらえるのは嬉しいけど、次また裏切られたら自分がどうなっちゃうのかなって」

恋愛には前向きになれないといいつつも「風俗を辞めて、心から信用できる人に巡りあえたら…家族を作りたいという希望は捨てていませんよ」と優しく微笑んだリアさん。

今後の彼女の人生が、輝かしいものになるのを願うばかりだ――。

取材・文/吉沢さりぃ 撮影/矢島泰輔

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