
8月29日、映画『九龍ジェネリックロマンス』が公開を迎える。原作は、眉月じゅん原作の同名漫画。
吉岡里帆、新作映画で髪を20cmカット
「水上(恒司)さんが演じる工藤発は、本当に漫画から飛び出てきたようで。あと小黒(シャオヘイ/花瀬琴音)も。ふたりの漫画への理解度の深さに感動しました。ただ、自分自身についてはなかなか冷静には分析できないですね」
と話すのは吉岡里帆。映画『九龍ジェネリックロマンス』のヒロイン・鯨井令子を演じている。物語の舞台はノスタルジックな街・九龍城砦。不動産屋で働く鯨井令子は、先輩・工藤発(水上恒司)に思いを寄せているが、なぜか昔の記憶がない。ある日、工藤には自分と瓜二つの婚約者(鯨井B/吉岡里帆)がいたことを知る。戸惑いながらも、ふたりの距離が近づくほどに、真実が明らかに……。
令子役をやるにあたり、髪を20㎝ほどカットしたという。
「あんなに短くしたのは久しぶり。最初、ショートのウィッグでやる案もあったんですが、『これは切らないと無理だ』と思って。
それにやっぱり、できるだけ原作ファンの方ががっかりされないように、あらゆるアプロ―チで原作のビジュアルに近い状態に持ってこうと考えてました。レコぽん(鯨井令子)と鯨井Bでは、実はメイクが違うので、全部落として作り変えています。すごく繊細で、ちょっとした違いなのですが『同じ見た目だけど違う人なんだ』とわかってもらえるように」(吉岡里帆、以下同)
漫画好きを公言する吉岡の、原作へのリスペクトと役への真摯さが感じられる。令子と工藤、ふたりの恋愛や関係性について聞いてみると、
「ふたりって、すごく『ちぐはぐ』じゃないですか。過去の記憶を持たないレコぽんと、すべての記憶を持ったまま彼女を受け入れている工藤さん。いびつ性から生まれる深い絆というか、そんないびつさをも抱擁する恋愛の力というか。そこは、やっぱり見ていて惹かれますし、見どころだと思っていて。
『恋は理屈じゃないんだぞ!』というか。そして、特に映画では疾走感も感じていただけたらと思います」
まだまだ私は『途中』
本作はかつて香港に存在した “九龍城砦”の風景を再現するため、狭く雑多な路地裏の商店など、誰もがなぜか懐かしさを感じるような古い街並みを残す真夏の台湾でロケを敢行。1か月以上、滞在したという。
「もう、しっかりと生活していました。
半数は現地のスタッフ。全員がそろった飲み会はかなり派手で面白かったと振り返る。
「現地で出会った方々がすごく温かくて。『ビッグファミリー』という感じで、現地で打ち上げをした時もものすごく団結力があって盛り上がりました。 台湾でおいしかったのは、酸っぱい白菜の鍋(酸菜白肉鍋)! あと、材料が全部串に刺してある火鍋も! 冷蔵庫に自分で串を取りに行って、火鍋のスープにドボンとつけて煮込んでスタイルなんですが、それが本当においしかったです」
昨年は映画『正体』で日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を受賞。また前事務所のクローズに伴い、昨年4月からは新事務所で活動を始めた。新たな環境から見えきたものを尋ねてみると、
「(事務所を)変わったからこそ大きく成長しなきゃいけない、と自分自身には課しています。大きい役、難しい役に挑戦する精神は継続しつつ、さらにブラッシュアップして、みなさんの心に残るようなキャラクターや作品を目指していこうと思ってやっています。
今までもいろんな役をやってきたのですが『もう少し時間をかけて、ひとつの役を掘り下げてみてもいいんじゃない?』と今の事務所の人たちには言ってもらって。
確かに私、『人の5倍、10倍やらなきゃ!』と思っていた部分があったので、はっとしました。そして、丁寧に時間をかけてひとつの役を掘り下げることは、ずっとやりたかったことでもあって。
とニッコリ。'14年に本格女優デビュー(『マンゴーと赤い車椅子』)。朝ドラ『あさが来た』('15年)の田村宜役でお茶の間からも愛されるようになって、今年で10年となる。
「目標は、やっぱり忘れられない作品を残すこと。日々を研ぎ澄ませながら過ごすことは、今までやってこられたかなと思っていて。『頑張ってきたよ』と、自分の背中をポンポンしてあげたい気持ちはありますね。でも、まだまだ私は『途中』だと思っていますよ」
吉岡里帆の『途中』の先にあるものが、とても楽しみだ。
(後編はこちら)
取材・文/池谷百合子 撮影/入江達也