
尿によるがん検査で、ステージ0の肺がんを発見し、早期治療に成功したという事例が注目を集めている。身体的・経済的な負担が少ない“新しい選択肢”が、がん治療の未来を大きく前進させるかもしれない。
尿だけでがん検査が可能に!
この研究を発表したのは、バイオAIベンチャー企業「Craif(クライフ)」。同社が提供する尿がん検査「マイシグナル」は、尿に含まれるマイクロRNAをAI解析することで、がんリスクを可視化する検査サービスだ。
これまでのがん検査のように、病院での受診や採血など多くの手間を要する方法とは異なり、「マイシグナル」は採尿するだけで検査が完了する。その利便性と手軽さが、大きな特長となっている。
この検査が今回、実際に「がんの超早期発見」に貢献した。舞台となったのは、がん検診受診率が全国でも特に低い北海道。Craifは、がんのリスクが高いとされる人を対象に「マイシグナル・スキャン」を100セット無償提供。検査でハイリスクと評価された人をフォローアップした。
その結果、マイシグナル検査でハイリスクと判定された1人が精密検査を受けたところ、肺がんの疑いがある腫瘍を発見。手術によってステージ0(AIS)の肺がんを取り除くことができ、完治に至ったという。
ネット上ではこの研究結果に対して、驚きと喜びの声が広がっている。
「超早期の肺がんが見つかり完治に至ったのは本当に画期的。これまで見逃されていた初期がんの発見につながり、多くの命を救える可能性がある。
「ぜひとも保険適用ができる様になって、がんで亡くなる方の減少に繋がればいいですね。私も試してみたいと思います」
このマイシグナル検査はいったいどのようなビジョンのもとで生まれ、この先進化していくのだろうか。Craif株式会社・広報の松本さんに詳しく話を聞いた。
「がんは見つかるタイミングによって、治療の負担も費用もまったく違ってきます。だからこそ今、世の中全体で“予防”や“早期発見”にシフトしていく流れが強まっています。そんな中で、マイシグナル検査の提供を始めました」(Craif株式会社・松本さん、以下同)
実際、日本のがん検診受診率は全体の約40%にとどまり、半数以上が検診を受けていないのが現状だ。特に働き盛りの世代では、「忙しくて検診に行く時間がない」という声が多い。加えて、検査が「痛そう」「恥ずかしい」という心理的なハードルも影響しているという。
中でも北海道のような地方では、病院が遠くてなかなか行けないという地理的な課題がある。
実際に「マイシグナル検査」を体験してみた
そんな課題の解決を期待されているのが、「マイシグナル検査」だ。すでに全国1300カ所以上の医療機関や、スギ薬局、ツルハなどのドラッグストアでも提供が始まっており、企業の福利厚生として導入されるケースも増えているという。
そこで筆者も、実際にこの「マイシグナル検査」を体験してみた。
検査方法は非常にシンプル。専用キットで朝の尿を採取し、用意された箱に入れて冷蔵保存。そのままスマホで集荷を依頼し、Craifの検査ラボに郵送するだけで完了する。
約1か月後、自宅に検査結果が書類で届いた。性別に応じて、受けられるがん種は異なるが肺・胃・膵臓・大腸・乳・前立腺・食道・腎臓・膀胱・前立腺の10のがん種について、それぞれ「低・中・高」の3段階でリスクが評価されていた。
また、生活習慣に関するアンケート結果をもとに、将来的ながんリスクも提示される。
今回、30代半ばの筆者の検査結果は、8種すべて「低」リスク。(男性は乳がん・卵巣がんを除く8種)将来的なリスクでは、腎臓のみが「中」リスクという結果だった。
費用は1回あたり6万9300円(税込)。決して安価とは言えないが、早期発見による医療費の抑制や、身体的・精神的な負担の軽減を考えれば、大きな価値があるだろう。
特に、若年発症のがんが増えているという報告もある中で、筆者にとって今回の結果は、心理的にも大きな安心感をもたらすものだった。
そして、この「マイシグナル検査」の今後の展望について、松本さんはこう語る。
「将来的には、トイレにセンサーを設置し、排尿するだけで疾患のリスクが検知される――そんな世界の実現も目指しています」
何気ない生活の中で、病気の兆しをキャッチできる時代が、少しずつ手の届くところにきているのかもしれない。
取材・文/集英社オンライン編集部