なぜ参政党は40代主婦に刺さるのか?「バカだ!と切り捨てるリベラルにはどうせ分からない」専業主婦の復権に勇気づけられる人々
なぜ参政党は40代主婦に刺さるのか?「バカだ!と切り捨てるリベラルにはどうせ分からない」専業主婦の復権に勇気づけられる人々

先の参議院選挙では自民党・公明党が大敗し、与党は過半数を維持することができなかった。その代わりに台頭したのが新興政党である。

中でも注目を集めたのは「日本人ファースト」を掲げた参政党だ。そんな中、実業家の堀江貴文氏はユーチューブチャンネルで「一番のボリュームゾーンは40代の主婦らしいんですけど、いきなり政治に目覚めて。鳥のヒナが生まれたら、アヒルの子供なのにカモに付いて行くっていう、そういう話があるらしいじゃないですか。一番最初に触れたんで、参政党を信じるっていう」と躍進の理由を語っている。一体なぜか。コラムニストのトイアンナ氏が解説する。 

参政党が40代主婦層を掴んだ理由は… 

「参政党なんて陰謀論政党でしょ?」

そんな先入観を持つ人は多いだろう。

しかし、朝日新聞の出口調査を見ると興味深いデータが浮かび上がってくる。参政党支持者の「ボリュームゾーン」は40代・50代がそれぞれ21%を占めており、まさに就職氷河期世代が中核となっているのだ。

さらに注目すべきは、無党派層の11%が参政党に投票したという事実である。つまり、これまで政治に無関心だった層に、突然選挙に足を向けさせた何かがあったということだ。かつ、男女比も60:40と、女性の支持層も厚い。

参政党が40代主婦層を掴んだ理由は、いったいなんだろうか。

実際に参政党へ投票した40代女性の声 

岡本さん(仮名)は現在43歳、専業主婦として2児を育てている。子供は食べ盛りで、普段の暮らしもインフレの影響で、苦しいという。

岡本さんは、これまで選挙に行ったことがほとんどなかった。しかし今回の参院選では、人生で初めて真剣に投票先を考え、参政党を選んだ。

「『日本人ファースト』という言葉が、本当に心に残ったんです。最近、中国人や、クルド人の犯罪をよくニュースで見るようになって、正直、外国人が日本に増えることで、不安を感じていました。

でも、そんなことを言ったら差別主義者扱いされそうで……。参政党が『日本人を優先する』とはっきり言ってくれたのが、なんだかホッとしたというか」

岡本さんの証言には、多くの40代主婦が抱える複雑な感情が込められている。不安を感じているが、それを友人や家族の前では言えない。なぜなら、「差別」と一蹴されるからだ。だが、不安そのものは存在する。この深層心理が、参政党躍進のカギを握っていた。

「専業主婦の復権」に勇気づけられる参政党支持者 

現在、専業主婦として子育てに忙しい飯塚さん(仮名)の話も、示唆に富んでいた。

「参政党がYouTubeで『出産や子育てについて、社会が評価する価値観を取り戻す』と言っているのを見たとき、本当にスカっとしたんですよ! 私は普通に働いていて、復職も考えていたんですけど、保育園が満員で入れなくて。

結局、専業主婦になったんです。でも今の社会って『共働きが当然』みたいな空気がありますよね。専業主婦は無職と同じ、くらいの扱いで」

飯塚さんが感じている悔しさ、やるせなさは、多くの40~50代主婦がいま、共有しているはずだ。氷河期で就職はうまくいかず、いざ産めば主婦として冷遇される。世間から、評価されない感覚。こうした感情に、参政党は巧みにアプローチしたといえる。

 氷河期世代の心を、参政党は掴んでいた 

参政党支持者のうち、40代・50代がボリュームゾーンになっているのは偶然ではない。この世代は就職氷河期世代と重なっており、人生の重要な局面で何度も社会から「期待外れ」の烙印を押されてきた経験を持つ。

●就職活動での挫折

●非正規雇用での不安定

●結婚・出産での理想と現実のギャップ

●子育てと仕事の両立の困難さ

こうした複合的な挫折感を抱える世代にとって、「あなたたちを大切にする」「あなたたちの選択は間違っていない」というメッセージは、どれほど心に響くことだろう。

氷河期を救済する参政党、それをバカと切り捨てるリベラル

筆者はリベラルだ。だから、参政党の意見には賛同しない。たとえば側室を容認する立場は、男尊女卑の最たるものだ。多夫多妻ならフェアだが、一夫多妻はただの不公平である。

また、外国人犯罪は減少しているという統計を見せず、外国人犯罪の不安を煽るところにも反対する。

コロナワクチンについては、mRNAワクチンの仕組みをある程度勉強したうえで納得し、なるべく摂取している。

そういう立場ではあるが、「参政党を支持する人間はバカだ」とレッテルを貼って思考停止してしまっては、なぜ多くの人がこの政党を支持するのかという本質的な問題を見逃すことになる。

重要なのは、参政党の主張の中でどの部分が有権者に刺さっているのかを冷静に分析することであろう。陰謀論や排外主義は確かに問題だが、それらはあくまで参政党の一面に過ぎないのだから。

共働きの推奨が、専業主婦差別になってはいけない 

現代社会では、女性の社会進出が当然視され、専業主婦は何となく「時代遅れ」な選択として扱われがちだ。

「女性も働くべき」
「経済的に自立しなさい」

こうした価値観の押し付けが、結果として専業主婦を選択した、あるいは選択せざるを得なかった女性たちを追い詰めている可能性はないだろうか。「結婚、出産したら辞めるのが当たり前」とされてきた女性たちの世代にとって、そのパラダイムシフトは、排除に映っていないだろうか。

高田さん(仮名)はこう語る。

「最近だと、ママ友同士の会話でも、『お仕事は?』って必ず聞かれる……。そこで『専業主婦です』って答えると、何となく気まずいんです。

共働きで頑張る女性は素晴らしい。だが、それは専業主婦である女性を貶めるものであってはならない……という当たり前のことを、無視していないだろうか」

無党派層を動かした参政党の成功は、既存政党が見逃してきた「取り残された層」の存在を浮き彫りにした。

●就職氷河期で正社員になれなかった人々

●子育てで仕事を辞めざるを得なかった女性たち

●専業主婦として社会から軽視されたと感じる人々

●移民増加に漠然とした不安を抱える中間層

こうした人々の多くは、これまで政治に期待することをあきらめていた。

しかし参政党は、彼らの感情に寄り添い、「あなたたちは間違っていない」というメッセージを発信し続けたのである。

参政党の政策から、取り入れられる部分は取り入れるべき

今後、リベラルも参政党批判に終始するのでは、断絶と対立を深めるだけである。むしろ、なぜ参政党が支持されるのか、ポジティブな側面を冷静に分析することが重要だろう。

自民党としては絶対に譲れない「ワクチン(を含む標準医療)の推進」や「陰謀論の阻止」はさておき、他の施策であれば合意・協調できる可能性がある。参政党も選挙前にあからさまな陰謀論につながる動画などを削除しており、中庸になる準備を進めているといえる。

もし自民党や立憲民主党が、参政党に流れた票を取り戻したいなら、「専業主婦の評価」「移民への不安を軽減する啓蒙策の強化」「氷河期世代への支援」といった、ポジティブな要素を自分たちの政策に取り込む必要がある。

参政党・自民党の大連立も現実的な解となりうる 

参政党の40代主婦層への浸透は、決して偶然ではない。そして、自民党員もすでにその現実は理解しているはずだ。今後、自民党はおそらく国民民主党・参政党と合意できれば、大連立を検討する可能性があるだろう。

もちろん、すべての施策を丸ごと実現するわけではない。とりわけ、憲法改正案の方向性については、自民と参政党で大きな隔たりがある。しかし、支持層を拡大しながら、折衷案を政策化していくことは今後十分にあり得るだろう。

自民党にとっても、そしてこれまで連立してきた公明党にとっても、支持層の高齢化と50代以下の取りこぼしは大きな課題でありつづけた。

今回の選挙結果はある意味で、その課題に対する解決策を提示してくれたのだ。

国民民主党・参政党が、どんな政策を提示すれば無党派の若年層を自民党のファンにできるかを示してくれた。であれば、大連立を通して氷河期世代、リーマン・ショック世代を拾い上げることで、自民党は復活しうる。

むしろ、そんな設計図を描いている重鎮がいることは、想像に難くない。

文/トイアンナ

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