
パートナーの浮気が発覚したら、怒りや悲しみから衝動的に問い詰めてしまうのは人間の自然な感情だ。しかし、浮気調査のプロからすると、これは絶対NGな行動だという。
探偵小沢著『事件はラブホで起きている』より抜粋・再構成して、詳しく解説する。
裏切られた……絶望の瞬間
配偶者の浮気が発覚した瞬間、サーっと体中から血の気が引き、周囲の音が聞こえなくなる。次第に心臓がバクバク鳴り出し、手が小さく震え、冷や汗が吹き出し、視界がクラクラしてくる。そして、一瞬頭が真っ白になってしまうけど、自分の置かれた状況が徐々に理解できてくると、やがて悲しみと怒りの感情が同時に押し寄せてくる……絶望の瞬間の感覚。
わかりますか?
まあ、こんな本を手に取っているあなたのことですから、身に覚えのある感覚でしょう。
え? なに? そんな経験はない? それはおめでとう。あなたは実にラッキーな人だ。そのまま何事もなく、無事に人生が終わることを祈るよ。
さて、絶望の瞬間に話を戻そう。
最も信頼していた人間に裏切られ、この世の終わりの前夜を生きているような、あの感覚を味わったあなたは、次の瞬間には悲しみと怒りに突き動かされ、
「これって、いったいどういうこと!?」
と配偶者を直接問い詰めたくなる衝動に駆られるはずだ。
わかる。そうしたい気持ちはよくわかる。だって、そう思うのが普通だもん。
だけど、配偶者を問い詰めるのは、ちょっとだけ待ってほしい。
どうせあなたはこの世の終わりの前夜を生きているんだから、この先を読み進めてからでも遅くはないでしょう?
「浮気している配偶者を衝動的に問い詰める」
これは絶対にやってはいけない行動だ。
想像してみてほしい。仮に勢いに任せて配偶者を問い詰めたところで、
「あぁ! すみません! あなたの言うとおり、私は不倫をしていました! すべて認めます! 傷つけてしまってごめんなさい! 心底反省しています! そして今後は一生をかけて更正していきますので、どうか許してください! もし許してくれないなら離婚も受け入れます。そして、離婚の原因をつくってしまったのは私の方ですから、養育費もすべてそちらの言い値でお支払いさせていただきます!」
などと、誠意ある言葉やリアクションが、はたして相手から返ってくるだろうか? 期待する気持ちはわかる。だけど残念ながら、そうはならない。
十中八九、配偶者はシラを切って嘘を重ねてくるか、苦し紛れの言い訳をしてくるのがオチだ。
ひどい場合は開き直って不倫を認め、逆ギレしながらあなたを非難してくることだってある。
これが現実だ。
相手を衝動的に問い詰める行為が、夫婦関係の修復に直接つながることは、ほぼ皆無といっていい。まあ、百歩譲って誠意ある言葉が得られればいい(実際はまったくよくはないけど)。そして、逆ギレだった場合、夫婦関係は完全に悪化の一途をたどることになる。
なぜなら、相手を問い詰める行為によって生じる最大の問題は、「あなたが不倫を疑っているという事実を配偶者に知られてしまう」こと。つまり、「相手に警戒をされてしまう」ということだ。
僕は探偵として過去に何千件もの不倫の相談を受けてきたけど、依頼者がすでに配偶者を問い詰めてしまったあとのケースは非常に多い。
「実は不倫相手とのLINEを見つけた瞬間に問い詰めてしまって……」
「“あんたが不倫していること、知っているんだからね!”って言っちゃったんです……」
などといった感じで、多くの依頼者さんが衝動的に配偶者を問い詰めてしまったことを後悔している。
問い詰める代わりにやるべきこと
配偶者だってバカじゃない(まあ、不倫している時点でバカなんだけど)。不倫が不法行為にあたること自体は認識していて、自身がやましいことをしている自覚を持ちながら不倫をしている。
そのうえで配偶者から問い詰められようものなら、警戒心はさらに強まり、探偵が調査で証拠をつかむ難易度が一気に上がってしまう。
まずは不倫の証拠を押さえるべし!
ところで、ドラマやアニメの探偵モノの尾行で、周りをキョロキョロと警戒している対象者が急に後ろを振り返って、探偵がその瞬間に電柱に身を隠して華麗に警戒行動をかわしながら、カッコよく最後まで追いきる――みたいなシーンがあるじゃないですか? でもあれって、完全にフィクションの世界の話なんですよ。
現実の世界では、警戒行動をしている対象者を尾行することは至難の業。浮気調査をスタートした段階で、すでに対象者が「配偶者に不倫を疑われてしまっているから、もしかしたら自分が探偵に尾行される可能性があるかもしれない」といった具合に日常的に警戒していたら、どんなベテラン探偵でも尾行することは、ほぼ不可能。
ちなみに僕は、過去に10秒に1回後ろを振り向く警戒レベルMAXの対象者の尾行をしたことがあるけど、もはや「だるまさんがころんだ」状態で完全に無理ゲーだった。
探偵の尾行というのは減点方式であって、尾行がうまい探偵とは、「対象者の警戒をゼロの状態に保ち続けるのがうまい」ことと同義。だから、ひとたび配偶者に警戒心を抱かせてしまったら、不倫の証拠をつかむ可能性は一気に下がってしまうことになる。
問い詰めたとき、相手が全面降伏してくれないかぎり、一気に劣勢となってしまう――というわけ。
まあ、浮気されている側が劣勢というのもおかしな話なんだけど、悲しいかな、現代日本の民法においては、配偶者の不倫を証明するには、不倫をされた側が証拠を揃えて立証する必要がある。
だから、日本の裁判実務においては、証拠が有るか無いかで、不貞があった、なかったの認定が変わってくる。極端な話、実際には不貞行為があったとしても、その証拠が提出されなければ、調停や裁判などでは不倫の事実は認められず、不倫された側が泣き寝入りするしかないのが現状だ。
てか、誰だよ、こんな法律つくった奴……出てこいよ、どうせ不倫してるオッサンだろ。
まあとにかく、配偶者を問い詰めるなら、まずは不倫の証拠を押さえること。そして、配偶者に悟られることなく、水面下で証拠を集めることが何より大事。まずは、これを頭にきっちりと刻み込んでおいてほしい。いつか来るかもしれない、絶望の瞬間に備えるために……。
文/探偵小沢
『事件はラブホで起きている 秘密の「浮気」調査報告書』二見書房
探偵小沢