健康への投資がお金も増やす…? 年率4%のリターンもありうるとインデックス投資の第一人者が語る理由
健康への投資がお金も増やす…? 年率4%のリターンもありうるとインデックス投資の第一人者が語る理由

健康とお金の関係は想像以上に密接だ。健康に投資をすることで治療にかかる費用を節約できるだけでなく、健康状態が投資判断にも影響を与え、成績にも影響することがデータで示されているという。


20年前よりインデックス投資の解説ブログを書き続け、書籍の累計部数も55万部を突破した水瀬ケンイチの最新作『彼はそれを「賢者の投資術」と言った』より抜粋・再構成し、健康投資の重要性を詳しく解説する。

健康という「見えない資産」の価値

健康と資産運用の関係については、想像以上に密接な関連がある。米国のフィデリティ社が行った大規模調査によれば、健康状態が良好な高齢者は、健康問題を抱える同年代の人々に比べて平均して医療費が年間約200万円少なく、その分を資産として維持できることが示されている。

さらに驚くべきは、健康状態と投資パフォーマンスの相関だ。カリフォルニア大学の研究チーム(Grinblatt, Keloharju, and Linnainmaa,2011年)による「IQ and Stock Market Participation」では、健康状態が良好な投資家は、健康問題を抱える投資家に比べて年間リターンが平均1.2%高いことが示されている。これは、健康な人ほど冷静な判断ができ、短期的な市場変動に惑わされにくいためと分析されている。

健康を「見えない資産」として捉えると、その価値ははかりしれない。たとえば、40歳で生活習慣病を患い、以後40年間にわたって年間100万円の医療費がかかるとしよう。これは生涯で4000万円の「見えない損失」になる。一方、健康を維持できれば、この4000万円を他の用途に使ったり、さらなる投資に回したりできる。

ストレスという「投資の大敵」

スタンフォード大学の研究によると、慢性的なストレスは投資判断にも悪影響を与える。ストレス状態にある投資家は、リスク回避的になりすぎて機会を逃したり、逆に衝動的な判断で大きな損失を出したりする傾向がある。

私自身も中年期に仕事のストレスで体調を崩し、1年間の休職を経験した。その期間中も淡々とインデックス投資を続けられたのは、手間のかからない投資法だったからこそだと思っている。

もし頻繁な売買が必要な投資法を選んでいたら、休職中に資産管理もできず、二重の苦しみだっただろう。

適度な資産があれば、健康や家族を最優先に考えた決断ができるようになる。これこそが資産形成の真の目的なのではないだろうか。

アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した「欲求の階層説」では、人間の欲求は5段階のピラミッド構造になっている。最下層は生理的欲求(食事、睡眠など)、その上が安全欲求(安全、安定)、さらに社会的欲求(愛情、所属)、承認欲求(尊敬、評価)、そして最上層が自己実現欲求だ。

多くの人は「お金がないから」という理由で、安全欲求の段階に留まり続けている。体を壊すような職場でも辞められない、家族との時間を犠牲にしてでも働き続けなければならない。これでは、より高次の欲求を満たすことができない。

しかし、適度な資産があれば、この安全欲求から解放される。結果として、真に大切なこと健康、家族、自己実現に時間とエネルギーを向けることができるようになる。これが、資産形成の真の価値なのだ。

健康投資の具体的なリターン

健康への投資は、金融投資と同様にリターンを計算できる。世界保健機関(WHO)の「Health in All Policiesレポート」(2014年)によると、職場での健康促進プログラムに1ドル投資すると、医療費削減と生産性向上により平均約3ドルのリターンが得られるという。

米国のフィデリティ社による「Retiree Health Care Cost Estimate」(2021年版)では、健康状態が良好な高齢者は、健康問題を抱える同年代の人々に比べて平均して医療費が年間約200万円(18,000ドル、当時の為替レート)少ないことが調査されている。

たとえば、定期的な運動習慣を身につけるとしよう。月額1万円のジム会費を40年間払い続けると総額480万円になる。しかし、これにより生活習慣病のリスクが大幅に減り、医療費を年間20万円節約できれば、40年間で800万円の節約になる。差し引き320円のプラス、実質的なリターンは年率約4%という計算になる。

さらに、健康状態が良ければ定年後も働き続けることができ、追加収入を得られる可能性もある。厚生労働省の調査では、65歳以降も働き続ける高齢者の多くが「健康だから」を理由に挙げており、健康な人ほど長期間にわたって収入を得続けることができている。

文/水瀬ケンイチ

『彼はそれを「賢者の投資術」と言った 水瀬ケンイチのインデックス投資25年間の道のり全公開』(Gakken)

水瀬ケンイチ
健康への投資がお金も増やす…? 年率4%のリターンもありうるとインデックス投資の第一人者が語る理由
『彼はそれを「賢者の投資術」と言った 水瀬ケンイチのインデックス投資25年間の道のり全公開』Gakken
2025/8/71,760円(税込)256ページISBN: 978-4054070523

経済評論家の山崎元氏(故人)が全幅の信頼を寄せた個人投資家・水瀬ケンイチ氏。
インデックス投資を世に広めたベストセラー『ほったらかし投資術』で山崎氏と共著した水瀬氏が、自らインデックス投資を実践し、ごく普通の会社員として歩んだ25年間のリアルな投資の軌跡を、資産額の推移とともに余すところなく明かします。

これは単なる成功物語ではありません。貯金ゼロからのスタート、チャートとにらめっこし自分を見失った「トイレ・トレーダー」時代、そして資産が半減し、罵詈雑言のにさらされたリーマン・ショックの絶望。数々の困難や、利益の出ない長い停滞期を「愚直な継続」で乗り越えた先に、何が待っているのか。

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