企業が体育会系の学生を欲しがる「本当の理由」… 広陵高校問題を機に浮上した「ハラスメント耐性がある」説に専門家の見解は
企業が体育会系の学生を欲しがる「本当の理由」… 広陵高校問題を機に浮上した「ハラスメント耐性がある」説に専門家の見解は

体育会系は就活で有利——そんな話を耳にしたことがある人は多いだろう。果たしてそれは本当なのか。

今年も甲子園が熱戦を繰り広げる中、その舞台裏で「体育会系の採用」についての議論が盛り上がっている。

「広陵高校の件で確信した。企業が体育会系人材を欲しがるのは…」

今夏の甲子園に出場したものの、1回戦後に出場辞退した広陵高校野球部をめぐっては、SNS上で暴力事案が告発され、それをきっかけに運動部に根強く残る悪しき風習が改めて問題視されることとなった。

これを受けてSNS上にはこんな投稿が。

「運動部の悪しき伝統って本っっっ当になかなか変わらないよね。強豪校ほど体質改善が困難な気がするよ、『こうやって勝ってきたんだから』という意識が強固にこびりついてるんだろうな」

「広陵みたいな体質だったり、酷い通過儀礼がまかり通ってる強豪校は多いんだろうなと思うとやっぱり変えていってほしい」

「人生の大事な高校3年間に丸坊主を強制して、娯楽を一切禁止して、野球漬けにすること自体が重大な犯罪だよ」

その中で、ある投稿が大きな注目を集めることになった。

「広陵高校の件で確信した。企業が体育会系人材を欲しがるのはハラスメント耐性があるから」

この投稿は瞬く間に拡散され、一定の共感を得ている。

確かにこれまでも「体育会系人材は上下関係を理解し、忍耐強く、組織に順応しやすい」という評価があった。今回の件は、昔のように体罰や厳格すぎる規律が正当化されない時代になったことを浮き彫りにしたが、「理不尽を我慢した人を立派だとみなす価値観」は、いまもなお社会に根強く残っていると考えられている。

では実際、企業は本当に体育会系の学生を優遇しているのか。そしてその理由は「ハラスメント耐性」なのか。

就職支援事業を手がけるザッツ株式会社の代表取締役・阿部勝哉氏に話を聞いた。

阿部氏はまず、企業が体育会系学生を好む傾向は「現在でも根強く存在する」と断言する。

「体育会系学生には、規律性や自己管理能力、ストレス耐性、協調性など、組織内で成果を出すための資質が備わっていると評価されています。

さらにOB・OGとの強いネットワークや、部活での活動が定量的かつ明確な経験として語りやすく、自己PRとしてのアピールがしやすい点も、評価される傾向にあるようです」(阿部氏、以下同)

体育会系の就活事情について専門家が分析

OB・OGと連携したリファラル採用や『体育会枠』を設ける企業も存在する。こうした制度を活用すれば、体育会系学生は効率的に内定を得るチャンスが広がる。

さらに阿部氏は、企業が体育会系を評価する背景を次の4つに整理した。

(1) 忍耐力・ストレス耐性の高さ
厳しい練習や困難な目標に直面する中で鍛えられたメンタルタフネスがあり、「仕事で辛いことがあってもへこたれなさそう」と期待される。

(2) 規律性・礼儀・自己管理力
部活動での厳しい上下関係やルールに慣れているため、礼儀正しく、規律を守る姿勢が社会人として評価されやすい。

(3) チーム志向・協調性・リーダーシップ
チームの中で役割を理解し、協働する力や、キャプテン経験などを通じたリーダーシップが大きな強み。

(4) OB・OGネットワークの活用力
体育会系学生はOB・OGとのつながりが強く、卒業後もその人脈力を発揮してビジネスでも活躍することが期待されている。

では今回のネット上の議論の発端となった「ハラスメント耐性」説についてはどうなのだろうか。

「確かに、体育会系学生は『言われたことはこなす』『厳しい環境に慣れている』というイメージから、そう揶揄されることもあります。ただ、それはあくまで一面的な見方です」

阿部氏によれば、今の体育会系教育は以前のような精神論一辺倒ではなく、科学的なトレーニングやPDCAサイクルを取り入れた自律的な成長が主流になっているという。

「むしろ企業が求めているのは、指示待ちではなく自ら考えて行動し、改善につなげられる主体性です。そうした“進化した体育会系”は歓迎されつつありますね」

ただその一方で、近年の採用現場では、世代間ギャップや“〇〇ハラ”など多様化するハラスメントへの敏感さなどから、採用担当者が若者との接し方に慎重になる「若者恐怖症」的な傾向も出ている。

そうした中で体育会系学生は、上の世代の人たちが自分たちの価値観のまま接しやすい人材として捉えられている可能性があるという。

体育会系はこれからさらに人気に?

体育会の厳しさを敬遠して入部を避ける学生は年々増えており、今や体育会系出身者は日本の学生全体の約10%程度にとどまる。少子化の影響もあり、その希少価値は今後さらに高まる見通しだ。

そうしたこともあり、「体育会学生の人気と希少価値はさらに高まりそうです」と阿部氏は指摘する。

体育会系だからといって自動的に就職で有利になるわけではないが、厳しい環境で培った規律性やストレス耐性、チームで成果を出す力は、現代の企業でも確かに評価されている。この社会がチームプレイである限り、体育会系の学生はこれからも重宝されていきそうだ。

取材・文/集英社オンライン編集部

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