インスタで検索して即応募、女性大工となった28歳「ネイルで気分を上げてます」…なり手不足が深刻化する業界のリアルとは?
インスタで検索して即応募、女性大工となった28歳「ネイルで気分を上げてます」…なり手不足が深刻化する業界のリアルとは?

建設業界の人手不足が深刻化するなか、工務店による社員大工の育成が進んでいる。そんな現場で奮闘するのが、大工歴4年目の小山夏子さん(28)。

東京都西東京市の岡庭建設株式会社に所属し日々現場で汗を流す彼女に、大工になったきっかけや、女性ならではの苦労などを聞いた。 

28歳、大工歴4年目。求人は“インスタ”がきっかけ

──大工になろうと思ったきっかけを教えてください。

小山夏子(以下、同) 小学生の頃から、『大改造!!劇的ビフォーアフター』(朝日放送テレビ)をよく観ていて、「こんなふうに家を作る仕事って素敵だな」と思っていたんです。それが、建築の仕事に興味を持ったきっかけでした。

そのまま大学も建築学科に進学して、在学中はインテリアコーディネーターを目指していたのですが……正直、デスクワークがあまり得意ではなくて。次第に、「やっぱり現場に出てみたい」という思いが強くなっていったんです。

とはいえ、建築への思いはありながらも、どんな現場職が自分に合っているのかはわからず、大学卒業後の2年間、進路に迷っていて……その間はカフェレストランでアルバイトのキッチンスタッフとして働いていました。毎日オムライスやパスタを作っていましたね。

そんなときにふと、「近くにいい工務店ってないかな」と思って、Instagramで“工務店 大工”と検索してみたんです。そこでいまの会社を見つけて。ホームページの雰囲気に惹かれて、すぐに応募しました。

それが24歳のときで、今から4年前のことですね。

──Instagramで求人検索とは、まさに今どきの就職活動ですね。大工になったときのまわりの反応はどうでしたか?

会社としては、過去にも女性大工さんがいたため、特に驚かれることもなくごく自然に受け入れてもらえました。

両親も、「建築関係の仕事がしたい」と話していた私の想いを知っていたので、不安よりもホッとした気持ちのほうが大きかったんじゃないかな。ただ、最初の1年くらいは、「この仕事、本当に続けられるの?」と、心配されていた気もします。

──いざ大工業界に飛び込んで、戸惑うことなどはありましたか?

正直、大工って“3K(きつい・汚い・危険)”な職業というイメージがあって。最初は体力的にも大変そうだし、男の人ばかりで入りにくい世界かな……と、不安はもちろんありました。

でも実際に入ってみると、最初の2年間は「東京大工塾」の塾生として、実技や座学で基礎からしっかり学びながら、「岡庭建設」の社員大工として、現場経験も積める環境にあったんです。

おかげで、仕事内容的にも働く環境的にも、思っていたほど戸惑うことはありませんでした。現場の雰囲気も穏やかで、皆さん私のことを“なっちゃん”と呼んでくれて、のびのび働かせてもらっています。

──現在、会社の正社員として大工業務をおこなっているんですね。

昔ながらの大工さんにはフリーランスの方も多いのですが、最近では、工務店が大工を社員として雇い、育成するスタイルが徐々に増えてきているんです。

安定した雇用体系の中で技術を身につけられるという点でも、安心感がありました。

働き方も、いわゆる一般的な会社員とあまり変わりません。たとえば今日は、朝8時に現場に出勤して、10時と15時にそれぞれ30分の休憩を取り、18時には直帰予定です。基本は完全週休二日制で土日がお休みです。

体力勝負の大工現場とは? 

──お給料面や休日の過ごし方について教えてください。

スタート時の給与は、いわゆる“一般的な初任給”くらいでした。でも、ポジションや習得した技術に応じて、少しずつ昇給していく仕組みになっているので、やりがいにもつながっています。いまはまず、年収500万円を目標にしています!

お休みの日は、美容にハマっています! 最近はネイルやマツパ(まつ毛パーマ)に月1ペースで通っていて、それがちょっとした楽しみですね。夏の現場はとにかく暑くて、メイクをしてもすぐに汗で落ちちゃうんです。だから日焼け止めだけはしっかり塗って、あとはほぼすっぴんで現場に出ています(笑)。

でも、自分が見えるところだけでもキレイにしておくと、気分が上がるんです。それが自分なりのモチベーションになっています。

――現在は、どんな作業を担当しているのでしょうか?

設計図をもとに木材を加工したり、壁や床をつくったりと、基本的にはいろいろな先輩大工に付いて、一通りの作業を学んでいます。

最近は断熱材を壁に入れる作業をしているんですが、ガラス繊維が飛んできて顔がチクチク痛いんです(笑)。しかも断熱材は熱を閉じ込めるので、作業中はサウナ状態。夏の現場は本当に過酷ですね。

最初の頃は汗だくでヘトヘトでしたが、少しずつ体も慣れて、最近は耐性がついてきました。

とはいえ、足場の上り下りや狭い場所での作業、梁や土台の施工などは今でも大変です。腰にもくるので、「これは男性でもしんどいんじゃないかな」と思うくらい。

でも、「造作系」の作業は特に好きです。窓枠をぴたっとはめるような細かい工程が得意で、一発で決まったときは本当に気持ちいいですね。

――いま、建設業界全体で人手不足が大きな課題になっています。現場でも実感することはありますか?

はい、とても感じます。今年の1月頃には若手が5人いたんですが、いまでは5人全員が辞めてしまったんです。女性の場合は結婚を機に退職された方もいましたが、多くの場合は「大工の仕事は想像以上に大変だ」と感じたり、会社との方向性が合わなかったりして、1ヶ月も続かず辞めてしまったケースもありました。

最近では「現場があっても大工が足りない」という声を多く耳にしますし、大工職人が減ってきているのは肌で感じています。

女性だからこその苦悩

――やはり、現場はまだ男性が多いと思います。女性として働いていて、大変なことはありますか?

現場に建てられる仮設トイレは男女兼用なのでなるべく使わないようにしています。そういう細かいところで不便さを感じることもありますね。

それからやはり、どうしても男性との筋力の差は実感します。それでも自分のペースで頑張りながら「いつか1人でも作業がこなせるようになりたい」とは常に思っています。

――逆に「女性だからこそ頼られた」と感じる場面や、いままでの経験が役立ったことはありますか?

「女性だから」という理由で特別に頼られることはあまりありませんが、たとえば、「糸ある?」と現場で聞かれたときに、「炭壺(木材などに直線を引く道具)で代用してみては?」と提案したら、それが意外とハマって。そのときは「おっ、なるほどね!」と言ってもらえました。

それから大学で学んだ建築知識は、入社当初大いに助けになりましたし、飲食店のキッチンアルバイト経験も役立っていますね。例えば“3口コンロでオムライスを作りながらパスタをゆでてソースを温める”というような、複数の作業を同時にこなすような効率重視の動きは、現場でも求められるスキルなんです。

限られた時間で、限られたスペースのなかでどう動くか。そういう感覚は、現場での作業や段取りを組むときにもすごく活かされていると思います。

――将来の目標や、これから挑戦したいことはありますか?

一番の目標は、自分の家を自分の手で建てること。自分にとっていちばん暮らしやすい「理想郷」をつくってみたいです。

今はまだ親方について学ばせてもらっている段階ですが、親方ごとに進め方も違うので、いろんなやり方を吸収しながら、自分なりのスタイルを見つけていきたい。そしていつか、自分の現場で、自分のやり方で、一から家を建ててみたいですね。

――これから大工や建設業を目指す方に、メッセージがあればお願いします。

最初は不安もあると思うけど、気負わずに飛び込んでみてほしいです。私に大工を教えてくれた親方は「やってみてなんぼ」というタイプだったんですが、その考え方があったからこそ、私は大工を続けられているんだと思います。

うまくいかないこともあるけど、やってみないとわからない。少しでも「やってみたい」って思ったら、思い切って一歩踏み出してみてください。

岡庭建設株式会社 公式サイト
https://www.okaniwa.jp/

一般社団法人 東京大工塾 公式サイト
https://www.tokyo-daiku-jyuku.com/

取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio)

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