〈大谷翔平が打つことが一番の苦痛〉月収10万円以下のフリー芸人が「ホームランの号数×1キロ」の“アンチ大谷マラソン”に挑戦する理由
〈大谷翔平が打つことが一番の苦痛〉月収10万円以下のフリー芸人が「ホームランの号数×1キロ」の“アンチ大谷マラソン”に挑戦する理由

多くの日本人にとって、心が躍るニュースとなっているドジャース・大谷翔平のホームラン報道。しかし、ただひとり大谷が観客席に打球をぶち込むたびに絶望の淵に叩き落とされる男がいる。

 

4日で166キロ走ったことも 

今シーズン、大谷がホームランを打つだけ(「号数×1キロ」)マラソンをするという体を張った企画に挑戦して一部で話題となっているのが、フリーの芸人でYouTubeやSNSを中心に活動する岩田ゆうた氏(23)だ。 

「号数×1キロ」とは、1号を打てば1キロ、50号を打てば50キロをその日のうちに走らなくてはならないという過酷なもので、8月22日時点で大谷のホームラン数は44。

日本時間8月10日から13日まで4戦連続(40~43号)でホームランを放っており、この4日間だけで岩田氏は166キロを走り抜いている。

ここまでのシーズン累計となると990キロ。これは東京―大阪間をほとんど往復できてしまう距離だ。

彼はなぜこんな無謀なことをしているのか。

「究極の目立ちたがり屋で人と違うことをしたいってだけですね。それで今シーズンの開幕前、撮影担当として手伝ってくれている友人と考えて、この企画を思いついたんです」

承認欲求といえばそれまでだが、この企画には彼らなりの計算があった。

「今もっとも数字を持ってるコンテンツといえば大谷。僕らはもともと野球好きですし、大谷の活躍に応じて何かやる企画にすればおもしろいかなと。

それに、人が不幸になってるほうが視聴回数は伸びる傾向にあるんです。だから大谷がホームランを打つために僕が苦しむ企画にしようと今回のルールを決めました」

ちなみに、岩田氏は“アンチ大谷”ということになっているが。

「もちろん嫌いじゃないです。

ただこの企画を“大谷ファンがやってみた”となると、おもしろさが半減すると思いますし、打った瞬間に彼に対して口が悪くなったとしても、その分、僕が苦しむわけですから免罪符になるだろうって思惑はありましたよね」

月収1~2万円で苦労に見合わずも… 

そうして始まった地獄の耐久レース。最初は1キロ、2キロ……と鼻歌まじりだったが、号数を重ねれば必然、過酷度は増していく。今では大谷がホームランを打つたびにフルマラソン以上の距離を走らなければならず、高校以降、ろくに運動していなかった岩田氏は完走に7時間以上を要することも。 

時間的制約が大きいルールだが、岩田氏は今春に大学を卒業して以来、Uber Eatsの配達で生計を立てており、時間の融通はきく。

そして、いかなる予定よりこの罰ゲームを優先。7月にはマッチングアプリと知り合った女性と自身半年ぶりのエッチの約束を取り付けていたというが、大谷がホームランを打ってしまったため、あえなくドタキャンしている。

また、固め打ちタイプの大谷は1試合に複数本塁打を打つことも珍しくない。その場合、打った号数を足した距離がこの“アンチ大谷マラソン”で課されることになる。

実際、大谷は5月16日に14・15号(計29キロ)、6月15日には24・25号(計49キロ)を放ち、岩田氏を絶望させた。

恐怖の日々を過ごす彼がもっともキツかった瞬間はいつか。

「1日2ホームランもキツイですけど、休養日を与えてくれない連続試合ホームランがシャレになりません。今年は2回も4試合連続があってこれは完全に想定外。

だから40~43号は地獄でした。

とくに41号のときは38.5度の発熱がある状態で走って、翌日の42号は31キロ地点と完走時に意識が飛びかけました。

それでも43号のときは謎の覚醒が起きて一番ペースが速かったんですよね。僕の体に何が起きてるんだろう(笑)」

人体の神秘に直面している岩田氏だが、苦労の割に反響は大きくない。この企画による収入は月1~2万円、Uber Eatsでの稼ぎを合わせても月10万円いくかどうかで、生活は苦しい。

「でも、視聴者に太いタニマチが2人くらいいて、マラソン企画に必要な食料やエナジードリンクを『ほしいものリスト』に入れておくと大量に送っていただけるので、食費に関してはなんとかなってます。逆を言うと、その人たちのせいで企画を辞められないんですが(苦笑)」

「8、9月は俺の時代」  

そんな苦行のような日々を送る岩田氏だが、今後の展開に自信をのぞかせる。

「開幕前から8、9月は俺の時代だと思ってました。だって、距離がどんどんエグイことになるので、その分、注目も集まるだろうと。

狙い通り、42号のときは毎回やってるTikTok LIVEで約900人の視聴者が僕のマラソンを見に来てくれました。YouTubeのライブ配信ではスパチャ(投げ銭)で4万円もらえたこともあります。

マラソンコースは家の近所のジョギングコースをぐるぐる回ってるんですが、土地勘のある地元の人やライブ配信から場所を特定した人など、応援に来てくれることも増えてきてるんです」

だが今後は、複数ホームランが出れば100キロ近い距離になる。昨年9月19日の1日3ホームラン(49~51号)のような状況ともなれば、破滅は必至だ。

「体がどこまでもつんやって話ではありますけど、もちろんやりますよ。途中リタイアした場合は次回に持ち越すんで、今後、一日中走ってる日が出てくるかもしれないですね。

ただ、救急車で運ばれるようなことがあったら元も子もありません。迷惑にならない範囲で無理せずやっていきます」

大谷の活躍に乗じた企画だけに誹謗中傷が届くこともあるが「全然気にならないです。大谷が打つほうがよっぽど辛い」とどこ吹く風。「自分で言うのもなんですが、僕めっちゃ根性あると思います」と自負する彼を応援してくれる人は少しずつ増え続けている。

ドジャースがポストシーズンに進出した場合、新たなルールを追加して企画を続行するという岩田氏は建前とは言え、一応はアンチ大谷。ホームランを量産する大谷選手に言いたいことは?

「とりあえず故障離脱はしないでほしい。ここまできたらお互いケガなくシーズンを走り抜きましょう。

あとひとつ、打つならせめて1試合おきでお願いします。連日打たれると疲れがとれないからめっちゃキツイんです。4日連続ホームラン打たれたときは疲労が抜けなくてウーバーのバイトが1週間できませんでした。

ほんとお願いします!」

このコメントが届いたわけではないだろうが、今月19日から始まった、チーム防御率5.99と投壊状態のロッキーズとの4連戦で、大谷のホームランは44号の1本にとどまった。

今後、大谷がホームランを打つたびに読者の頭の中に岩田氏の存在がチラつくようになれば、それはある意味、彼の勝ちなのかもしれない。

取材・文/武松佑季

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