子どもの自殺はなぜ増え続けているのか? つながりにくい「いのちの電話」、AIチャットで本当に救える? マンパワーが足りない現場
子どもの自殺はなぜ増え続けているのか? つながりにくい「いのちの電話」、AIチャットで本当に救える? マンパワーが足りない現場

夏休みが終わり、2学期が始まることに絶望してしまう子どもたちが自死を選んでしまうことから、1年の中で子どもの自殺が最も多くなるとされている9月1日。近年なぜ子どもの自殺は増えているのか? 長年にわたり、生きづらさを抱える子ども・若者たちのリアルな声に耳を傾けてきたフリーライターの渋井哲也氏に、自身も虐待被害と4度の自殺未遂を経験した作家・小林エリコさんが「自殺対策基本法」について疑問をぶつけた。

実感できない「自殺対策基本法」の力

小林 本書のタイトル通り、近年、子どもの自殺は増え続けているんですよね。まずはその概要を少し教えてください。渋井さんはいつからこのテーマを追いかけているんですか?

渋井 僕が子どもの自殺を取材し始めたのは1990年代後半です。最初は家出少女や援助交際をしている子の取材から入りました。すると、自傷行為をしたり自殺願望を持っている子が6割以上もいる。当時はまだネットにもそういう情報が少なかったこともあり、あるとき、ネット掲示板で見かけた「死にたいと思っている、あるいは自傷行為をしている普通の子」の声も追いかけるようになりました。

日本全体で最も自殺者数が多かったのは2003年で、約3万4000人でした。1998年のバブル崩壊時に、男性の自殺者が1年間で約8000人も増えました。年間自殺者3万人台が2011年まで続き、以降は減少傾向になっています。そもそもなぜ3万人になってしまったのか、そしてなぜ減少してきたのかというのは、誰もきちんと検証してないので要因がはっきりわからないんです。ただ1つ言えるのは、2006 年に自殺対策基本法ができたことが一因だと思います。

小林 自殺対策基本法ってどんなものなんですか?

渋井 それまで、行政として自殺対策の担当部署が定まっていなかったので、自殺を個人の問題ではなく、社会の問題として捉えた基本法を作って管轄を明確にし、社会で取り組むべき

施策としたのです。

小林 自殺したい人あるあるなんですけど、私の経験ではまず「いのちの電話」がぜんぜんつながらない! 特に東京とか都市部は全然つながらなくて、地方の番号にかけてました。

渋井 本当につながらないんですよね。ちなみに、いのちの電話は民間の社会福祉法人やNPO法人が運営してるんです。

小林 そうなんですか⁉ LINE相談の「生きづらびっと」も使ったことがあるのですが私には合わなかったのか、話を聞いてもらったと、感じることができませんでした。自殺対策基本法ができても、私自身、4回ほど自殺を試みているので、効果の程が分かりません。

渋井 当事者としては法律の力を実感しづらいですよね。

目的達成のあとに死を選ぶ人が多い

渋井 2006年に法律ができたことで、行政が対策を取る体制は整ったんですが、実際に減り始めたのは2012年からでした。東日本大震災が起こった2011年は、年間自殺者数の傾向が変わりました。

通常、自殺者が増える時期は年度末の3月がピークでしたが、2011年だけは5月がピークでした。3月に死にたかった人たちが、震災があったから2カ月は我慢したんです。でも、その末に2カ月後に亡くなってしまったとみられています。当時、僕も被災地で取材したのですが、行方不明になった自分の家族をようやく遺体安置所で見つけて、その後、遺体安置所で自殺するというケースもありました。

目的が達成されたときというのは意外と危ないんです。バブル期でも「借金返し終わった! じゃあ死のう」という人もいました。

小林 たしかに、私もブラック編プロに勤めていたときは、「校了したら死のう」と思っていました。「この号を出したらもう死のう」と思って、実際に手がけている号を出し終わったあとに、薬をいっぱい飲んでしまったことがありましたね。

渋井 奨学金を返し終わったら死ぬと決めているというケースも聞きました。

子どもの自殺が減った時代と、再び増えた理由

渋井 図1は全体の自殺者数で、図2が20歳未満の自殺者数の推移です。

小林 昔は子どもの自殺が結構多かったんですよね。

渋井 1970年代は多かったんです。1979年にユネスコが「国際児童年」を宣言してから、総務省の青少年対策本部が「青少年の自殺問題に関する懇話会」を作ったり、調査研究をするなど国が対策をして、数は一時的に減りました。

小林 対策に効果があったんですね?

渋井 実はそれもわからない。

小林 わからないんですか⁉

渋井 子どもたちの社会問題に関しては、自殺じゃなくて今度は校内暴力が増えたので、国は自殺の調査をやめてしまうんですよ。その後、やや増減を繰り返して、1986 年にまたどっと増えています。

小林 86年に何があったんですか?

渋井 岡田有希子さんというアイドルの自殺と「鹿川君事件」がありました。中野区の中学生が盛岡の駅ビルで「このままじゃ生きジゴクになっちゃうよ」という遺書を残して、自殺したんです。

小林 有名な事件ですよね。



渋井 そうです。教師も含めた葬儀ごっこが行われていた事件です。同じ年に2つの大きな事件があったので、自殺に関する報道の量も多く、それが子どもの自殺を誘発したのではないかとも言われています。

小林 報道などで自殺や自傷行為などが影響すると言いますからね。

渋井 ポジティブな情報よりもネガティブなものの方が影響しやすいと言われていますね。そうして、子どもの自殺は、86年以降はずっと微減や微増を繰り返していたのですが……。

本当につらいときは「死にたい」気持ちが希望になる

小林 図2に記されている出来事の中だと、ドクター・キリコ事件(註1)はすごく印象に残ってますね。私が精神科に入院していたときにドクター・キリコから青酸カリをもらったという人がいて、ずっとお守りみたいに持ってると言っていました。

渋井 ドクター・キリコが青酸カリを渡したのは、「いつでも死ねる道具が目の前にあるから、いますぐ死ななくてもいいでしょ」という意味があったんですよね。

小林 私も本当につらいときは余った薬をずっとプールしていました。本当につらいときって「死にたい」と思うことが希望なんですよね。今はめちゃくちゃ苦しいけど、死んだら楽になれるから、それだけを希望に生きてるという状態でした。だから青酸カリを持っているということの安心感はあったと思いますね。

座間事件の影響とSNS相談の限界

渋井 2003年をピークに全体の自殺者数は減りますが、20歳未満に限れば座間事件(註2)が起きた2017年からまた増えています。昨日(イベント前日の2025年6月27日)白石死刑囚の刑が執行されましたが……。

小林 たしかに増えていますね。やっぱり座間事件は怖かったですよ。9人亡くなったのは衝撃的だし、周りが気づかなかったというのも恐ろしいですよね。

渋井 そうなんですよ。現場を取材したんですけど、住宅密集地にある普通のアパートなんです。ここに9人の遺体があったとしたら、相当異状もあったはずです。

小林 なのに誰も通報しなかったんですね。今って他人に干渉しちゃいけないという「社会の圧」がすごくあるように思います。

話がそれますけど、以前、デパートのトイレの個室で母親が子どもをすごく怒鳴っていて、子どもが大泣きしてたんです。大声で泣いてるのに、並んでる人たちも知らんぷりで……。順番が来ても怒鳴り声が続いていたので、「大丈夫ですか?」とノックしたら、母親が出てきて「殴ってませんから、殴ってませんから」と……。

たぶん私みたいなのは珍しいタイプで、他人の面倒ごとには関わりたくない人が多いんでしょうね。

渋井 たしかに事件にはできれば関わりたくない人が多いかもしれません。座間事件が起き、国は「死にたい人は、SNSに集まるんだ」と単純に考えました。「だったらSNSで相談を始めればいいじゃん」ということで、SNS相談が始まった。でも、自殺者は減らず、むしろ増えている。

小林 SNS相談というのは具体的にはどのようにやってるんですか? 

渋井 Xで運営しているNPOもあるし、さっきの「生きづらびっと」のようにLINEでやっているのもあるし、ホームページ内のチャットを使っているのもあります。最近ではAIも導入されています。

小林 「生きるのつらいです」ってAIに言って、自動で応答されてもなんか虚しいですね。

渋井 初期対応だけをAIがして、深刻な人がいたら人間が直接カウンセリングをする形態もあります。

小林 まあ、そういうのを使わなきゃいけないくらい相談したい人が多いということなんですね。圧倒的にマンパワーが足りてないですね。

「絶対数が少ないから」と見捨てられる命

渋井 いちばん自殺者数が多かった2003年を100としたら、どれぐらい増減があるかをグラフにしたのが図3です。青が大人を含む全体の数です。

2003年がピークだから、減り続けていますよね。赤い線が中高生だけの数なんですけど、これを見ると歴然で、小中高生だけとても多くなっている。

小林 子どもの方が今の社会の中で生きづらくてたまらないんですね。そもそも子どもの数自体も減少しているわけだから、割合でいったら子どもの自殺者数はとても多くなっているということですよね。

渋井 そうです。図4が自殺死亡率のデータです。死亡率は10万人あたりの自殺者数から算出します。下の青の折れ線グラフが10歳から14歳、上のオレンジの折れ線グラフは15歳から19歳です。

小林 10歳の子どもが死を選んでしまうのは、ショックですね……。

渋井  一桁台の年齢の子が自ら死を選択してしまうこともあるんです……。この図は1990 年を起点にしているのですが、10歳から14歳は4倍、15歳から19歳は3倍の率になっています。

小林 要因は全然わかってないんですか?

渋井 これも誰も調査・研究していないから、わからないんです。自殺対策基本法が成立したときに、法律を作った官僚と民間人が集まった会があって、そこで官僚たちに「大人の対策だけじゃなくて、子どものことも考えてくださいね」と伝えたところ、「子どもは自殺の数が少ないからね」と言われました。

小林 結局、数が大きくないと相手にされないのか……。子どもは圧倒的な社会的弱者で、自分から助けを求めても声が届きにくい。だからこそ、大人が助けていかないといけないですよね。

構成/佐野千恵美

註1)1998年、ドクター・キリコと名乗る男性が、インターネット掲示板を通じて知り合った女性に青酸カリを送付した自殺ほう助事件。その後、女性は送付された青酸カリを使って自殺。男性も自殺した。

註2 )2017年、神奈川県座間市で、SNSなどで自殺願望を投稿していた男女9人が殺害された事件。2025年6月27日、東京拘置所にて白石隆浩死刑囚の刑が執行された。

子どもの自殺はなぜ増え続けているのか

渋井 哲也
子どもの自殺はなぜ増え続けているのか? つながりにくい「いのちの電話」、AIチャットで本当に救える? マンパワーが足りない現場
子どもの自殺はなぜ増え続けているのか
2025年5月16日発売1,100円(税込)新書判/240ページISBN: 978-4-08-721364-5

2022年以降、小中高生の自殺者数が3年連続で年間500人を超え、2024年は過去最多となった。
大人の自殺者数が減少傾向にあるなか、なぜ子どもの自殺だけが増え続けているのか。
虐待、市販薬の過剰摂取(オーバードーズ)、いじめ、「指導死」。
長年にわたり、生きづらさを抱える子ども・若者たちのリアルな声に耳を傾けてきたフリーライターが、その背景を詳細にレポート。
こども家庭庁の設立など日本がとってきた政策史もたどり、対策の課題を考察する。
いま知るべき現実が詰まった必読の一冊。 

【目次】
序章 子どもの自殺者数はなぜ過去最多を記録したのか
第1章 こども家庭庁と自殺対策室
第2章 虐待と自殺
第3章 市販薬依存と自殺
第4章 社会問題化したいじめ自殺
第5章 不適切な指導による自殺
第6章 子どもの自殺政策史
終章 子どもの自殺を止めるために何ができるのか

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