
エレキコミックが「第35回発表会『50』」を開催する。1歳違いのエレキコミックはやついいちろうが11月、今立進が9月の誕生日のため、9月と10月だけ同じ歳になり、今年は二人が50歳。
2000年に初めてのライブを開催してから今年で25年。二人はどのように25年を歩んできたのか。ライブへの想い、25年の歴史を本人たちに聞いた。(前後編の前編)
前人未踏 25年連続35回目の単独ライブ
――今回50歳を迎えられて、35回目のライブ「50」を開催します。25年連続、35回目の単独ライブですね。お互いが25歳のときに「25」というタイトルでライブをして、今回、50歳で「50」。とてもエモーショナルですが、思い入れはやはり強くなっていますか?
やつい 25歳のとき、50歳のことなんて全然考えてなかったんです。でも25のときに「50までやってたら『50』ってやろう」みたいなことを冗談で言ってたら、本当にそのときが来たんですよね。だから思い入れというよりは、「あ、もう来たんだ」という感じです。
今立 そうですね。あっという間っちゃあっという間で。本当にちょっと信じられないですけど、気づいたら、50歳でステージに立っていたという感じです。
――これまでライブには大きなコンセプトをつけていないと伺いました。
やつい いや、全然同じですよ。ただ違うとすれば、7月末から8月初めにかけてベストライブ(『経年変化』/会場:テアトルBONBON)をやったんです。その1か月半後にまたライブをやる、っていうのは初めてかもしれないですね。若手みたいなスピード感です。
今立 この速さはなかったですね(笑)。
――ベストライブはすごい反響で、チケットもすぐ完売になりましたよね。この25年を振り返って、変化を感じる部分はありますか。
やつい 変化ね。どうなんだろうな……。昔のネタをベストライブでやろうとしたら、できないネタも多くて「どうやってやってたんだろう?」って思いましたね。もちろんコンプラ的に厳しいのもありますけど、体力的に難しかったり、そもそもどうやって演じていたんだろうと思ったり。
今立 僕らのライブは本番の空気で変わっていくんですよね。
やつい 残ってる台本と、実際に本番でやったコントが全然違うんですよ。だから台本が役に立たない(笑)。
――お二人の関係性についてはいかがですか。この25年間で変わった部分はありますか。
今立 基本は変わってないと思いますね。大学のころからずっと“やつい先輩”という感じで、エレキコミックを主導してくれています。それで25年経営できているんですからすごいものです。
――やついさんから見て、関係性の変化はありますか。
やつい いや、全然変わってないですね。異常なほど(笑)。大学時代から含めると30年ぐらいになりますけど、周りの仲間も含めて全然変わってない。
同じ事務所で同期・ラーメンズについての本音
――同期が辞めてしまったりもする中で、お二人は続けてこられました。そういった中で「この人が辞めたのは印象深かった」というエピソードはありますか。
やつい 一番近くで言えば、やっぱりラーメンズですね。小林(賢太郎)がプレイヤーを引退して、ラーメンズをもうやらないってなったときは驚きましたね。
――やっぱりお二人としても衝撃だったんですね。
やつい まあ近いところにいたので、中の事情は知っていましたけど。
今立 遅かれ早かれだった……っていう感じでしょうか(笑)。大人になれば普通だったら角が取れて丸くなるじゃないですか。でもあの二人は、「あれ? 丸くならないな、むしろ角ばってきてるな」って思いましたよ(笑)。
――ラーメンズさんは特殊なパターンですが、その他にもたくさんのコンビが解散していくのを間近で見ていたかと思います。なにか共通点とかはあるのでしょうか?
やつい 結局は、解散するコンビで仲がいいところなんてないんじゃないですかねぇ。ある程度売れていて、食べていけているのに辞めるって、なかなかない。
今立 確かに辞めていった人はたくさん見てきました。ただ、僕らは同期の芸人たちと同じフィールドにずっといたわけではなくて、途中から少し違う方向に行ったので、細かい事情までは分からないんですけどね。
――私の調べた限りだと、25年連続でこの規模の単独ライブを続けているのはエレキコミックさんだけなんです。年上のバナナマンさんもコロナ禍のときに連続記録が途絶えました。
今立 でも、コロナのときはタイミングというか、運がよかったんですよね。
やつい そう、一度キャンセルしてたんです。無料でキャンセルできるタイミングがあってバラしたんですよ。で、みんながやらない時期にポンと空きが出て。普通は出ないんですけどね。それで「じゃあ俺らやるわ」って。やると決めてから1か月くらいで開催しました。
――もはやこの連続ライブの記録、日本一なんじゃないですか。ギネスにも挑戦できるのでは?
やつい いやもう、寿命との勝負ですよ(笑)。僕、ずっと言ってるんですけど「長生きして同期がみんな死んだら俺の勝ち」だって。とにかく長生きすることだけを考えてるんです。同期が全員いなくなって、最後の地平で僕らがまだライブをやってたら、それはもう勝ち。上下関係も何もない。「だって俺ら生きてるから」っていう。それだけを25年間ずっと考えてきました。
今立 いやでも、まだまだみんな元気ですからね(笑)。
――なんでここまでやり続けられるんですか?
やつい 僕はやったことをずっと続けるタイプなんです。自分が決定権を持っていることは特に、全部続けてきました。
「作品じゃなくて消費されるものをやろう」
――逆に言うと、今までライブをやめていったコンビと、自分たちが違ったところは何だと思いますか?
やつい ほかの人たちは「ライブがゴールじゃなかった」んでしょうね。ライブでテレビディレクターや演出家を呼んで関係作りをして、番組出演につなげようとする人が多かった。一見すると賢いやり方に見えますし、大きな事務所の人ほどそういう傾向がありました。
でも僕らは「ライブをやりたい」から始めたんです。ライブをやること自体がゴール。テレビに出たいから単独ライブをやるとか、大会で優勝したいからライブをやる、そういう発想じゃなかった。
他のみんなは「別の何かをやるための手段」としてライブをやっていたので、結果的にテレビに出られるようになれば「もうやらなくていい」となってやめる。もちろん、うまく仕事に繋がらないからってやめる人もいる。だからライブをやり続けるモチベーションがが違うのかと。
――確かにこの頃の世代の人たちって、1~2回は単独ライブをやるけれど、テレビに出たりなんかすると、やめていく人が多かった気がします。エレキコミックさんは特別な道を歩いてきた印象ですね。
今立 意外と僕ら、テレビ尺のネタがないんですよね。単独ライブだと15分くらいのネタで、それを3分や2分に削るのはなかなか……。
やつい そうそう。ここ10年ぐらいは本当に「ライブのためのライブ」しかやってないですから。テレビに出ようとも思ってない。もはや「ネタはライブでしかできない」っていう(笑)。
――ただ、ファンからすると、せっかくネタを作ったのに「1回きりで終わってしまうのがもったいない」と思うこともあります。ご自身らはそういう思いはありませんか?
やつい もったいないとは思わないですね。むしろ最初から「残らないネタでいい」と考えてました。25年前からそうです。昔から「消費されるものをやろう」と意識してました。みんなはネタを「作品」と言いますけど、僕らは「作品じゃなくて消費されるものをやろう」と。でも25年経ったら、もうその意識すらなくなって、特に何も考えなくなりましたね。
(後編へ続く)
取材・文/ライター神山 撮影/井上たろう
■ エレキコミック第35回発表会「50」日時: 2025年9月19日(金)18:30開場 19:00開演 2025年9月20日(土)12:30開場 13:00開演 / 16:30開場 17:00開演2025年9月21日(日)12:30開場 13:00開演 / 16:30開場 17:00開演会場:東京・シアターサンモール 料金:全席指定 一般席5600円 / 学生割引3300円(要学生証の提示) / 配信3000円チケット:一般発売中